両親との日常


「ただいまー。」


玄関ドアを開けながら声を掛けると、

中から

「お帰りなさーい!」と、

のんびりした声が返ってくる。


そのままリビングに入ると、

中にはテーブルでお茶を飲む父と、

キッチンで夕食の支度をする母がいて、

此方こちらを見て笑顔を浮かべた。


「お帰り。」


通学用かばんをイスの側に置きつつ、

自分の席に座ると、

向かいに座る父がそう声を掛けてくる。


「ただいま。」


「また今日からだな。

・・忙しいかもしれないけど、しっかり食事を摂るんだよ。」


「うん。食事はちゃんと食べてるよ。

・・友達が心配症でね、以前1食抜いたらしかられたから。」


ちなみにその友人は、

毎日家まで遊びに来て、その時に冷蔵庫のチェックをし、

食材が足りてなければ買い物に引きって行ってくれるのだ。


さらにその事実を付け加えると、

父は嬉しそうに笑う。


「それなら安心だ。

綾花は時々変な所で面倒くさがるからね。」


「そうそう!

・・小学生の時には「どうせ濡れるから」って言って、

豪雨の中、かさを開かず手に持ったまま帰って来たわよね。


それにほら、

中学生の時には「本を読む手を止めたくない」って、

夏休みの宿題を、持って帰ってきたその日に

全部片付けちゃったでしょ?」


バイト先で食事を食べなかったのも

「食べてもどうせ、またお腹が空くから。」

とかだったんじゃない?


そう言いながら、母が私の分のお茶を持って来て、

間の前に置いてくれた。


・・お母様。流石さすがです。


母が予想した言葉を、

そっくりそのまま友人達にげ、


1人には大量の食事を作ってもらい、

1人には説教と共に頭突きを食らいました。


「それで、それでっ?」


母が突然、キラキラと輝く目で・・

例えるなら、夢見る乙女の様な表情で詰め寄って来る。


・・嫌な予感しかしない。


「誰か気になる人は出来た?

勿論もちろん、恋人でもいいのよ?

母さん、綾花をしっかり守ってくれる様な強い人なら、

安心して娘を差し出すから!」


と、力強く我が母は言い切ってくれた。


・・台詞セリフ生贄いけにえを捧げる人と同じですが。


「そんな人、いません。

そっちの方にはまだ興味が無いし、

今は仕事が1番楽しいからね。」


バイトに行く前の母とのこの遣り取りは、

毎回必ず行われる。


母は、私にバイト先で恋人、

又は結婚相手を見つけて欲しいらしい。


いわ


「天職の場所で出会えるなら、

きっとその人が綾花の運命の人だと思うの!」


と、いう事だそうだ。


・・ちなみに母の愛読書は、

運命の相手とのハッピーエンド物の

少女漫画や恋愛小説である。


「え~?

・・そんな仕事命の職人みたいな事言ってると、

運命の出会いに気付けなくなっちゃうわよ!」


運命の女神様は、ベリーショートなんだからねっ!


と、母は私に指を突きつけつつ言った。


―女神様は、

ファッショナブルなセンスを持っているらしいです。


「運命の人か。

・・父さんとしては、少し複雑かな。」


そう、父さんが苦く笑うのも、

毎回の遣り取りの中に入っていたりする。


「まあ、怪我をしない様に気を付けてくれればいいさ。

・・ほら、綾花はそろそろ準備に入らないと。」


「うん。

部屋で宿題、終わらせてくるね。」


私はお茶を飲み切り、

再び通学用かばんを持って立ち上がった。


「あ、晩御飯には下りてきてね。」


「うん。」


母からの言葉を背後に聞きながら、

私は2階へと階段を上がって行く。




○     ○     ○     ○     ○




この後の私の行動は、

特に言うべき点も無いので、

ざっとした説明で終わらせてもらいます。


まず、帰ってきた時に慌てなくて済む様に、

宿題を全部済ませておく。


その後はリビングへ行って、

両親と談笑しながら夕食を食べ。


テレビを観ながら少し休憩をはさんだ後、

お風呂に入ります。


その頃には夜も深まっていて、

後は寝るだけ。


・・なんですが。


私の時間は、此処ここからが始まり。


眠気でぼんやりとする頭と体を動かしながら、

洗顔と歯磨きを済ませた後・・

私は、バイト用の制服に着替えます。


制服は、全身真っ赤で、

頭の部分だけが無い全身タイツみたいな作りで、

それに同じ素材の手袋型グローブとショートブーツ。


それらを全て身に着けて、

全身を鏡でチェック。


うん。大丈夫。


その姿のままリビングへと下りて、

2人でバラエティー番組を観ていた両親に、

欠伸をしながら言う。


「ふわあぁ~。・・行ってきます。」


「はい。行ってらっしゃい。」


「気を付けてな。」


2人はそう言って、

笑顔で手を振ってくれた。


「うん。」


私も2人に手を振り返し、

また欠伸を1つしてから再び自分の部屋へと向かう。




○     ○     ○     ○     ○




「ううん。・・眠いなぁ。」


目を擦りながらも私は部屋の中心に立ち、

自分の胸に手を当てた。


手の位置はちゃんと、心臓かくの上に。


そして・・どんなに眠くても、

詠唱は正確に、確実に。


私は目を閉じ、鍵を唱える。


「我が身に宿りし、誇り高き血と魂よ。

その膨大ぼうだいなる魔力の力で、我と同胞のえにしつなげ。」


最後まで詠唱を終えると、

足元がうっすらと光り、

床に移動用の魔法陣が微かに浮かぶ。


「我が身をの地」


モストリアへ!


宣言した瞬間に、私の姿は部屋から消えた。

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