Day1 * 12/24

サンタクロースのSって、ドSのS

 サンタハウスから帰ってくると、いつもベッドの上で横になっている。


 だから夢じゃないかって、毎回薄暗くなった天井を眺めながら考える。


「でも、夢じゃないんだよな。きっと」


 右手に握られている星の飾りが、いつもそう教えてくれる。


「あれ、どういう意味だったんだろ?」


🎅🎅🎅


「ちょっと安心したよ」


 まばたきを繰り返してた俺に、サンタクロースはいつものように意地悪く笑うんだよ。

 作業部屋の天井近くまで積まれたプレゼントの山から、一箱手にする。


「実はさ、このホリデーワールドに来る人間って、だいたい問題抱えてるからさぁ」


「問題?」


「そっ。問題を抱えた人間がみんな来るわけじゃないけどね」


 プレゼントの箱の角を指先に乗せてクルクル回す。


「俺が問題抱えてる?」


「そういうこと」


 いきなり、そんなこと言われても……つか、心当たりがない。俺は平凡で健全な男子高校生だ。

 オトンもオカンもどこにでもいるような一般人だし、問題なんてない。

 ただ、時々このままでいいのかって不安になることあるけど、その程度だし。だって、将来のことなんか考えられないじゃん。


「大人になりたくないって、どこかで思ってたんだよ、カケルくんは」


「は、はぁ」


「ま、どうにかなりそうだから、いいや」


「いいのかよ!」


 サンタクロースは、プレゼントをもとに戻す。


「いいんだよ。カケルくんは、サンタクロースなんて信じてない子どもなんだから」


「え?」


 なんで、すねたように言われなきゃいけないんだよ。


「つか、信じてなかったら、こんなところ来ねーよ!」


「ほら、ムキになった。いいんだよ。信じてくれなくても。でもさ…………」


🎅🎅🎅


「なんなんだよ。『子どもと大人の違いがわかる?』とか……わけわかんねー」


 戻ってきたエクボちゃんたち外に連れ出されて、雪合戦している間も、ずっとサンタクロースの言ったことが気になって、気になって……。


 気がついたら、朝だし。


「あーーーーーーっ。もう、無理。やってらんねーよ」


 今年のクリスマスイブは最悪な気分で始まった。


 なにが、問題抱えてるだよ。

 俺は、平凡で健全な男子高校生だぞ。

 やってらんねーよ。

 時々、どうしようもない不安に襲われるけど、そこそこ楽しくやってるし。


 やってらんねーよ。


「忘れよーっと」


 声に出してみると、ルドルフ三世やノームたち、サンタクロースの顔がちらつく。


「なんなんだよ」


 今日も親は2人とも、仕事で家にいない。

 午前中はずっとイライラしっぱなしだった。1人でいれば、昨日のことを考えてしまうだけなのに、外に出る気にもならなかった。


「なんだよ。せっかく……」


 なんかこう、うまく言えなくてイライラするけど、嫌じゃなかったんだ。


 昼メシはインスタントラーメン。うん、クリスマスって感じしないけど、もうどうでもいいや。


 腹一杯になっても、気分はスッキリしない。

 スマホをいじる気にもならないって、そうとうだよな。


 こんな、星の飾り、捨ててしまえばいいんだよな。

 よしっ、ゴミ箱に――。


「うわっ」


 急に星の飾りが光りだして、腕で目をかばったら、そこはもうサンタハウスの馬鹿でかいクリスマスツリーの部屋だった。


「……なんで?」


「なんでって、最後の大仕事が残っているからに決まっているじゃないか!」


 華麗にターンを決めたサンタクロースは、ご機嫌らしい。それもそうか。今日はクリスマスイブだもんな。


「さ、みんな待っているから、カケルくんも……」


「あの!」


 やっぱり、おかしい。

 昨日は、俺を突き放すようなこと言っておいて、これはないんじゃないのか。


「あの、俺……」


「言ったよね? これは、夢でもかまわないって。ホリデーワールドなんて、夢みたいなものだって。それでも、俺たちには現実なんだって」


 飛び跳ねるように近づいてきたサンタクロースは、俺の両肩を叩く。もう、奴の顔なんて、見たくない。


「無理だし。俺が大人になりたくない子どもとか、馬鹿にされて、やってられないし」


「ごめん、馬鹿にしたつもりはないんだけどねぇ」


 ポンポンって肩を叩いてくるなよ。


「カケルくんが、そこまで考えてくれただけでも、よしとしたいんだけど。やっぱり、最後までやってほしいんだよ。世界中の子どもたちに、夢を配るお仕事なんて、そうそうできるもんじゃないからさぁ」


「いや、だから……」


 さっきよりも強く肩を叩いてくる。


 まじで、なんなんだよ。


「打ち上げのご馳走も、ちゃんと用意してるからさぁ」


 別に、ご馳走が食べたいわけじゃない。

 サンタクロースに言いくるめられたのはわかっているし、腹も立つけど、ちょっと首を縦に振ってしまったんだ。


「よし! じゃあ、これに着替えてね」


「あ、うん。……ってこれ!」


 トナカイのコスチュームじゃねぇか。

 さすがに抗議しようと、顔を上げたらサンタクロースがサディスティックな笑顔をしていた。


「忘れたの? 君、ルドルフ三世の相棒のヴィクセンの代わりに呼ばれたのをさぁ。これ着て、俺のそりを引いてもらわないと、困るんだよなぁ」


「いやいや、無理無理! どう考えても無理!」


「無理じゃない! カケルくんは、やればできる子だから。まだ、やることあるから、着替え終わったら、また」


「ちょ、待って」


 もしかして、サンタクロースの奴、昨日から俺をいらいらさせるためだけに、あんな意味深なこと言ってきたのか。

 あのドSな態度を見ると、あり得そうな気がしてきた。


 考えれば考えるほど、からかいたかっただけのような気がしてきた。


「あー、なんか、馬鹿みてー」


 ここで投げ出すのも、なんか癪にさわるし、やってやろうじゃんか。


「覚えとけよ。サンタクロースっ」

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