Day4 * 12/23

ピカピカの星の飾り

 銀色の星の飾りを、俺の部屋のドアノブにかける。これで3回目だけど、まだ緊張する。向こう側が、俺の家のままだったらって考えちまう。


 ついでに、初めてドアノブを回したときのことも思い出す。


🎅🎅🎅


「これを、適当なドアノブにかけるだけで、サンタハウスに来られるからね」


 1日のうちに4時間、怪しまれない時間にいつでも来いとサンタクロースは意地悪く笑った。それからサンタハウスのドアを開けると、俺の背中を思いっきり押した。


 気がついたら、ベッドの中で次の日の朝だったってわけ。

 ひどい夢見たなって、早速ネタにしようと思ったんだけど、勉強机の上にその星の飾りがあったんだよ。

 もしかしたら、俺が持ってたやつかもしれないけど、全然心当たりがなかった。

 だって、最後にクリスマスの飾り付けとか、家で親とパーティしたのだって、小学生2年生あたりまでだ。

 こんな真新しいクリスマス飾り、どんなに考えても夢の中でしか心当たりがない。

 一応、その日休みだったオカンにも訊いてみたけど、知らないってさ。逆にそもそも、俺の部屋に入らないって。まー、そうなだよな。俺も、勝手に入られたらキレるしな。


 すげーもやもやして、課題に手を付けられないし、ゲームも何もできなかった。


「あーもー、無理っ!」


 視界の隅に、銀色の星が見える。

 試してみる?

 いや、夢に決まってるんだし。でもなぁ。


「やっぱ、無理」


 そういえば、なんでラッピングの仕方とか検索しているんだろ。

 夢に決まってるのに。


 もしかしたらって考えてるのかな、俺。


「ないない。それはない」


 つい、でもって考えてちまうのが腹立つ。

 やらなきゃいけないことも、やりたいこともできないまま、昼時になって、カップ麺すすってた。


「まぁ、今は俺しかいないし。夢だって、証明するためだし。サンタハウスに行きたいわけじゃないからな」


 1回だけ試してみる。

 馬鹿みたいだけど、案外ネタになるかもしれない。

 なんか、気にしてた俺が馬鹿みたいでした――みたいな感じでさ。


「ドアノブに飾りをかけるだけでいいんだよな」


 後はドアノブ回して開けるだけ。


 なんか、無駄に緊張する。


 ――何やってんだろ、俺。

 って、言いたかったんだよ。


「カケルさぁん、待ってましたよぉおお!」


 ドアノブ回しただけで、サンタハウス来ちゃいました。

 つまり、目の前にトナカイがいてもドアを閉めて逃げるって選択肢がないってこと。


「……夢じゃなかった」


🎅🎅🎅


 ドアを開けたら、サンタハウス――じゃなくて、ドアノブ回したら、サンタハウスって、マジで卑怯だ。

 ネタにしたいけど、本当の話だって信じてもらえなさそうなのが辛い。


「おそいじゃないの、人間!」


「はいはい、ごめんね、エクボちゃん」


「あ、謝ってほしいわけじゃないんだからねっ」


 エクボちゃん、可愛いな。ツンデレも、なかなか……。


「人間、待ってたんだからねっ。早く来なさいよ」


「はいはい」


 俺がスマホで調べたラッピングの応用版みたいなのを、2日めに教えたら、ノームたちのやる気があがるあがる。すぐに、オリジナルのラッピングとか考え始めてお祭り騒ぎだった。

 3日めなんか、俺、ほとんど何もしてないからな。それでも、ツンデレなノームたちが次から次へと話しかけてくるから退屈しなかったけど。


 サンタクロースがイケメンになったのは、割りと最近でダイエットしたついでに若返ったらしい。

 意味不明。


 馬鹿でかいクリスマスツリーのある部屋から、ノームたちの作業部屋に移動する間も、何故かエクボちゃんスキップしてる。可愛いからいいけど。

 とても、ノームたちの背丈じゃ届かないところにあるドアノブに手をかける。


「ほら、早く早く! みんな、カケルを待ってるんだからねっ」


「はいはい。あれ? エクボちゃん、今俺の名前を……わっ」


 パンパンって、クラッカーが一斉に鳴った。


「え? なになに? え?」


 満面の笑顔のノームたちが駆け寄ってくる。


「な、なに言ってるのよ! あんたのおかげで、さっき最後のラッピングが終わったんだからね」


「ありがとって言ってやるよ、カケル」


「カ、カケルのおかげなんだからなっ」


「カケルがいなくったって、できたんだからな。でも、ありがとな!」


 ノームたちのツンデレにも慣れたっていうか、名前を読んでくれるのが、地味に嬉しかった。


「はいはーい! 親愛なるノームたち、それからカケルくん、やっと終わったね。おめでとう」


 華麗にターンを決めたサンタクロースも笑顔だ。笑顔のまま――。


「なーんてね。今年もギリギリで、おめでとうとかないから」


「ひぃ」


 ――たしかにその通りかも。

 でも、きっと来年からは大丈夫じゃないかな。

 ラッピングのやり方が1つじゃないってわかっただけでも、ノームたちはすごいやる気出したんだし。

 ノームたちが短い悲鳴をあげたのだって、条件反射みたいなものだったんじゃないかな。

 だって、サンタクロースが3回手を叩くと、何かを期待するような顔にかわったし。


「さぁて、作業も全部終わったことだし、外で遊んできな」


「わぁあああああい!!」


 ノームたちが一斉にどこかに駆け出していく。


「えーっと」


 イケメンサンタクロースと2人きり。

 なぜか、緊張する。


 サンタクロースの目って、なんか吸い込まれそうなくらい綺麗な夜空みたいなんだよ。


「カケルくんは、遊びに行かないんだ」


「え?」


 どういう意味?

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