ノームたちの憂鬱
サンタクロースは、ひょいと肩をすくめた。イケメンだからか、ちょっとした仕草でも様になる。
「夢なら夢でもいいよ。ホリデーワールドの住人が、そもそも概念とかイメージとかで似たようなものだしね」
「へ?」
正直、拍子抜けした。
ここは普通、「夢じゃない。現実だよ」って言ってくるシーンじゃないの。
いや、夢は夢だろうけど、とことん俺の意思を無視してやがる。
「多くの人間の共通する概念? なんかそんな感じで、俺ら生きてるから」
「あ、あの、多くの人はサンタクロースといえば、太ってて……」
「あん?」
「な、なんでもないです!!」
イケメンが睨むんでくるなよ。マジでビビるから。ルドルフ三世がビビりまくってたのも、なんかわかる気がしてきた。
「ならいい。ま、君にとっては夢でもなんでもいいけど、一度やるって言ったことは最後までやってもらわないと、困るんだよねぇ。こっちにとっては、これが現実なんだから。軽いノリだったかもしれないけど、やるって言ったんだよね」
イケメンに真顔で諭されるのって、かなり応える。確かに、俺がノリというか、流れで手伝うって返信したのがキッカケだし。
「って言われても、俺に何ができるんだよ。
「ま、それはこっちがなんとかするから心配しなくていいけど、君にはノームたちの手伝いもしてほしいんだ」
「ノーム?」
「ついて来ればわかるよ」
これは、ついていくしかないんだよな。うん。
このままここにいても、夢から覚める気配もないし。
床に転がるおもちゃやぬいぐるみを器用に避けながら歩くサンタクロースに、ついていくことにした。
俺は、ただ日常を消化してきた。将来を悲観しているわけでも、希望を持っているわけでもない。そんな俺が、夢の中だからって、サンタクロースと歩いているなんて、わけがわからない。そもそも、サンタクロースなんか、信じちゃいないし。
さっきと同じ、幅の広い廊下を歩く。さっきは気にならなかったけど、左側に窓が一定の間隔を開けて並んでいた。
ルドルフ三世が言っていたブリザードって、このことか。ほとんど真っ白で、窓ガラスに叩きつけられる雪でしか外の景色だとわからない。
「ノームたちのラッピング作業が全然進んでなくて、猫の手も借りたい状態なんだ。1日4時間でいいから、24日まで手伝ってね」
「ラッピング作業?」
1日4時間とかは、スルーだ。夢なんだし。
「ま、詳しいことはノームたちが教えてくれるさ」
サンタクロースは突き当りの部屋のドアを開けた。
その部屋は俺がさっきいた馬鹿でかいクリスマスツリーの部屋じゃないか。俺だけしかいなかったし、ドアは1つだけだったはず。あ、そっか夢だから、説明できないこともあるか。
うん、なんか小人たちがたくさん作業しているのは、夢だからってことでオッケー。
クルリと華麗に謎のターンを決めて、サンタクロースは手を叩く。
「はぁい! 親愛なるノームの皆さん、サンタクロースだよ。手を止めずに、注目!」
いや、一斉にとんがり帽子の小人たち、手を止めてるんですけど。つか、なんか、歓迎されてないような気がするんだけど。
4つの長い作業台の両側に並ぶ色とりどりのとんがり帽子の下の顔が、もうなんだろ。洒落にならないくらいどんよりしているんだ。
「手を止めるなって言っただろーが」
「ひぃ!」
このイケメンサンタ、たまーにドス黒いオーラ出すよな。
なんか、泣いてる小人もいるし。
「お前らが、さっさと仕事片付けないから、この人間に手伝ってもらうことにしてやったんだから、感謝しろ。1日4時間だけだけど、少しくらい役に立つだろ」
あれ? もしかして、俺、期待されてない、とか。
「と、いうわけで、頑張れよ」
「えっ、あ、ちょ……」
頑張れよって、置き去りにされました。
閉じたドアの向こうで遠ざかるジングルベルの鼻歌が、腹が立つ。
「マジで誰か俺を起こしてくれよぉおおおお」
まだこの夢、続くらしい。
🎅🎅🎅
白い立方体にカラフルな包装紙でくるんで、リボンで飾る。ラッピング作業って、要はそういう感じ。これこそ、かんたんなお仕事ではないだろか。
なんだけど、数が多いから包装紙でくるむグループと、リボンで飾りつけするグループと分かれている。俺は、包装紙のグループに加わることになった。
「に、人間だからって、偉そうにしないでよねっ」
「あ、はい」
別に偉そうにしてなんかいないけど、俺の指導係を押し付けられたノームの女の子は、しょっちゅうそう言ってくるんだ。
ピンクのとんがり帽子がよく似合うし、可愛いから許しちゃうけど。
うん、可愛いは正義。
ぷぅってほっぺたふくらませるとか、マジで可愛い。
何言われても可愛い。
「だからぁ、そこ違う! あーもー! なんで、出来ないの? こうして……こうして、こう! ほら、やり直し!」
――前言撤回。
さっきから、折り目1つであーだこーだ言われて、全然可愛くない。
「あのさ、さっきからやり直してばっかだけど、そんなきっちりやらなくてもいいじゃん」
「に、人間のくせに、文句言うの!」
「いや、人間関係ないよね。というか、クリスマスまで時間ないよね。少しくらい大目に見てもらわないと、ラッピング作業終わらないんじゃない?」
「に、人間のくせに、に、人間のくせにぃいい。えーーーーん! ぅえーーーーーーん……」
「え、ちょ、あ」
なんで泣く!
「ひっぐ、ぐずっ、お家に帰りたいぃいいい」
「ぅわーーーーーん! もーやだぁあああああああ」
しかも、なんか、一斉に50人くらいいたノームたちが泣き出すし。
「え! なんだよ。俺が悪いの? ねぇ、謝るから、泣かないで!」
「うわぁーーーーーーん! お家に帰りたいぃいいいいい」
なんだよ、俺が泣きたいよ。
なんでこうなったんだよ。マジ泣きたい。
「うるさいですよぉおおおおおおおお!」
ドアが勝手に開いてやってきたのは、ルドルフ三世トナカイver.だった。
ピタっと泣き止ませられるとは、ちょっとだけ見直したよ。ルドルフ三世。
「まったく、毎年毎年、自業自得なんですよ!」
蹄を鳴らしながら、ルドルフ三世は偉そうに説教を始める。
「プレゼント作りは、あーんなに張り切ってやってたのに、ラッピング作業でやりたくないとかごねているから、ブリザードで監禁されてるんですよ! 自業自得です」
あー、鼻息荒いなぁ。でも、さっきもそんなようなこと言ってたっけ。
ルドルフ三世が出ていったドアはひとりでに、バタンって閉じた。
ひどい夢の割には、辻褄あってたりするんだなぁ。
🎅🎅🎅
「ふーん。じゃあ、ラッピング作業が同じことの繰り返しだから、飽きちゃうってこと?」
エクボちゃん――指導係のピンクのとんがり帽子の子――は、真っ赤な目をこすりながらコクンと頷いた。
「だって、楽しくないんだもん。飽きちゃうんだもん。人間は、ちょっとしかやってないし、わかんないもん」
まぁ、確かにちょっとしかやってないけど、単純作業だし飽きるのも時間の問題かも。
「あのさ、ラッピングって、このやり方以外にないの?」
「なっ、な、何言ってるのよ!」
「ご、ごめんなさい!」
もう泣かないでください。勘弁してください。
「そ、そんなことできるの。人間のくせに生意気よ。教えなさいよ」
へ? 怒ってないのかよ。
なんだよ、ビビらせるなよ。
「うーん。うまく説明できないけど、包み方だって、なんか、こう、ふわっとしたやつとか」
「ふわっと? ふわっとって何よ」
「だから、うまく説明できないんだって」
「使えないわね。人間」
あんなに目を輝かせてくれてたから、なんか申し訳ないことした気がする。
「ま、人間だから、しかたないわね。あっ、手が止まっているじゃない」
でも、なんか、さっきよりかは元気出たみたい。
俺がラッピングの仕方を教えてあげられたらよかったのに。
――あれ? 俺、この夢楽しんでる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます