不幸の前兆は別れの前兆

割れた風鈴を険しい顔で見るいつき。考える素振りを見せる。私と風鈴を交互に見て、寂しそうな顔をする。

しばらくすると、いつきは私の肩をガシッと掴んだ。


「かな、これから大事な話があるから聞いてくれるかな?」


いつきの真っ直ぐな目が私の目を捉える。


「何?」


二回深呼吸した。


「かなはこれから多くの不幸に襲われる。日がたつにつれ、不幸はエスカレートするだろう」


エスカレート...

今は大雪な風鈴を失った。次はもっと大切なモノを失うかもしれないということなのか?


「百鬼夜行の不幸を消す方法は1つある。」


いきなり、いつきの声が止まった。呆然とした顔が私には見えた。その目の奥は哀しみに包まれていた。

何か、哀しい事なのか?

意を決したように強い目でいつきは私を 見た。


「僕が今から君のこの山での...僕達との記憶を消す」


いつきの表情は微動だにしない。


「山での記憶を消せば、百鬼夜行の呪いもとける。百鬼夜行を見てなかった事になるからね」


いつきは私の手元の風鈴をスッと取る。そして、自分の元から小さな箱を取り出した。


「いつき...」


私は何も話していないのに事が進む。

箱の中には水色の鯉の模様の入った風鈴が入れられていた。そっとそれを取り出したいちきは私に背を向けて社の屋根の下に風鈴を引っかけた。


「かな」


振り向いたいつきの目には涙が溜まっていた。一分も立たないうちに涙が目から溢れる。

私はそんないつきを見つめる事しかできなかった。


「今は夏...また、夏...また、この風鈴が鳴るころ、ここに帰っておいでね?」


いつきは私をギュッと抱き締める。私もギュッと抱き締め返す。

私の目にもいつの間にか涙が溜まっていた。

いつきは割れた風鈴を手のひらの上で、フッと息を吹きかける。

そして、地面に穴を掘り、割れた風鈴を埋めた。






ここで私の意識は途絶えた。

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