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 毎日が同じように楽しく過ぎていくわけではない。冬美ちゃんがいられる時間は決まっているのだ。

 僕らは昼ご飯を食べ終わると、一直線に秘密基地に向かうようになった。一度待ち合わせる時間をも惜しむようになったのだ。中でも僕は早めに向かった。最初に小屋に入り、こっそり見つけた将棋の本を読むのだ。すごく古くて、紙は黄ばんで今にも崩れそうだった。書いてある中には読めない漢字もあった。それでも今まで知らなかった知識がいっぱい書いてあり、僕はむさぼるように読んだ。そして冬美ちゃんに、得意げにそれを教えるのだ。

「すごーい。全然攻められないね」

 冬美ちゃんかが一番驚いたのは、「美濃囲い」というものを作った時だ。たぶん、「みのうがこい」と読むと思うのだが、簡単に作ることができて、その上とても王将が安全になる。

「もう、将棋ばっかりして。大富豪しようよ、大富豪」

 ヨオコはトランプが好きだった。武雄もそれに合わせているし、久司はトランプに対して何かしらの探究心を持っているようだった。

「わかった、じゃあちょっとだけ」

「またあとでだね」

 あまりにしつこいので少しだけのつもりで参加したら、熱中してしまった。大富豪には終わりがない。

 気が付くと夕方だった。

「あのね……明日は、早く来る」

 帰り際、僕にだけ聞こえる声で冬美ちゃんは言った。

「うん、僕もそうするよ」

 そう、明日は七日目。冬美ちゃんが来られる、最後の日。

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