4
「あのね……これ教えてほしい」
小屋に戻るなり冬美ちゃんが指差したのは、マグネットの将棋セットだった。久司と少しやってみたものの、なかなか終わらなくてやめてしまった。動かし方はわかるのだが、いまいち熱中はできない。
「なんでこれを?」
「前、友達に聞かれたの。日本人だから知ってるでしょ、教えてって」
「へー」
外国人は意外なことを知りたがるものだ。まあ、忍者の秘儀を教えてくれと言われるよりはましか。
「じゃあ、やってみようか」
盤を広げ、薄っぺらい駒をつまみ上げていく。
「同じように並べていって」
「うん」
僕の真似をしていく冬美ちゃんだったが、飛車と角の位置を逆にしてしまった。どちらでもいいと思ったようだ。
「角が左なんだ」
「なんでかな」
「なんでだろう」
理由を考えていったらよくわからなくなる。とりあえず先に進むことにした。
「歩はね、一つだけ前に進めるんだ」
「うん」
一つずつ、実際に動かして教えていく。冬美ちゃんも、真似をして動かす。だんだん頭と頭が近寄ってきて、なんかいいにおいがしてくるような気がする。
「で、相手の駒と同じところに進んだら、取ることができるの」
「そうなんだ」
「で、自由に空いたところに置くことができるんだよ」
「すごい」
ルールを教えるだけだけど、結構時間がかかってしまった。こんな時間ならば、いつまで続いたっていいのだけれど。
「じゃあ、やってみようか」
「うん」
実際に対局をしてみる。冬美ちゃんはまだ動かし方を覚えきれていないのか、たまに動けないところに駒を動かしてしまう。そのたびに訂正して、もう一度手を考えてもらう。一局終わるのに一時間ぐらいかかった気がする。
「あー、負けちゃった」
「でも、接戦だったね」
「そうかな。もう一回やろうよ」
「うん」
二度目の対局、駒がぶつかり始めた頃。
「あっ、何してんの」
ヨオコの声だった。そのあとさらに二人分の足音。みんなが帰ってきた。
「将棋」
「へー。そんなのまであったんだ」
「おっ、面白そう」
武雄も興味があるようだ。
そのあとみんなで将棋をしてみたが、すぐにヨオコは飽きてしまい、武雄も勝てないので「おかしい!」と言って無理やり久司とヨオコを誘って別のゲームをし始めてしまった。結局再び僕と冬美ちゃんで将棋を続けることになった。
「そろそろ帰ろうか」
いつもは僕が言うセリフを久司が言った。夕方になっていた。
「また明日……教えてね」
「うん」
気分は、もう明日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます