3
七日間、という区切りが重要な意味を持つようになった。冬美ちゃんがここにいられる時間だ。
冬美ちゃんは僕らよりも一歳年下で、帰国子女らしい。日本には一時帰国していて、イギリスに戻らなければならないのだという。都会どころか外国だった。
「じゃあ、英語話せるの」
「はい。あとメキシコにもいたので、スペイン語も」
「すごい……」
冬美ちゃんはボードゲームに興味を持って、控えめに笑いながら楽しんだ。日本でしか手に入らないものも多いようだし、何よりご両親があまりそういうものを買ってくれないのだそうだ。
ヨオコは家から立派な釣竿を持ってきた。父親のものらしく、大きなリールが目立つが、手入れはあまりされていないようで汚い。
「倉庫にあったから持ってきた」
「すげー」
僕らが竹から作ったものとはまるで違う。冬美ちゃん以外はすごく興奮した。
「あの……」
「どうしたの、冬美」
「えーと……魚って、川にもいるの?」
冬美ちゃんのとんでも発言に皆しばらく顔を見合わせた。
「えーと」
困るヨオコ。
「そっか、イギリスには川がないのか」
おかしなことを言う武雄。
「今から、実際に釣れるところを見に行こう」
建設的なことを言う久司。そんなわけでみんなで釣りをすることになった。
小さな滝壺があり、腰掛けられる大きな岩がある場所。昔からそこが僕らの釣りスペースだった。
「冬美ちゃん持ってみなよ」
武雄が強引に釣竿を持たせる。
「こ、こうですか」
「そうそう。浮きをよく見ておくんだ」
と、最初はいろいろと教えることがあったのだが、結局は待つしかない。竿が一本しかないので、みんな暇になる。
「ひょっとしたら、本当に川には魚いないのかもねー」
一番最初に飽きたのはヨオコだ。自分が持ってきたのに釣竿を使えないので拗ねているのかもしれない。
「あっ」
と叫んだのは久司だった。視線の先は浮き……動いている!
「おっ、ほら、引いて」
「え、え」
武雄が必死にサポートしようとするが、冬美ちゃんはおろおろしてなかなかうまく糸を巻けない。結局武雄がリールを巻き始めた。
そして僕は、冬美ちゃんの後姿をずっと見ていた。白いワンピースが似合うだなんて、なんて素敵なんだろう。
何とか釣り上げられたのは、あんまり大きくない魚だった。
「マスかな」
よくわからないけど、久司が言うならそうなんだろうということになった。そして、次に竿を握ったのはヨオコ。待ってましたという感じだ。そして武雄が続けて指南をしている。
「なんか疲れちゃいました」
冬美ちゃんは、僕と久司の方を向いてはにかんで見せた。かわいすぎた。
「戻ろうか。釣れることはわかっただろ?」
「はい。私、釣りは苦手だと思う」
「久司は」
「僕はもう少しいるよ」
「そっか。じゃ、いこっか」
平静を装ったが、ドキドキしている。僕のすぐ後ろをついてくる冬美ちゃん。今から、二人っきり。
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