9

 痛みで頭がクラクラする中、あたしの体から重みと感触が消えた。

 

 どうやらソラミちゃんがあたしの上に馬乗りになるステラを引きはがしたらしい。ソラミちゃんはてきぱきとあたしの上半身を起こし、耳元で呪文を唱える。

 ぼんやりかすんでいた視界がクリアになり、びりびりしびれた痛みも消えてゆく。ただ流れ出た鼻血はどうしようもないらしく、喉のあたりに血の味があふれてあたしはむせてゲホゲホ咳をした。


 クラクラしていたので気をまわしてられなかったけれど、ソラミちゃんは結構乱暴にステラを引きはがしていたらしい。ステラは芝生の上に横たわり、起き上がろうとするところだった。


 さっきまで怒りに燃えていた目の憑き物が落ちて、今は泣きそうになっている。



「初対面なのに申し訳ないんですけど、暴力はよくないんじゃないですか? これから芸能人になろうって人が」


 ソラミちゃんの若干凄みを聞かせた声に反応したのか、ステラの表情がまた怖くなる。


「初対面じゃないだろ? この前リンピーのフードコートにいた癖に。名前は? どこ中?」

「真宵ソラミ、望月真帆さんのお友達です。月夜の森の魔女学校で仲良くさせていただいています。どうぞよろしく」


 この状況だというのにソラミちゃんはとうとうと冷静に名乗った。こんな状況だけど、「お友達」って言ってくれたのがちょっと嬉しい。



「そう。あたしはステラ。真帆の友達だよ、な」

 ‶元″の部分をステラは強調した。

 立ち上がったステラは顔をこっちから顔をそむけた。


「そいつ、ヘタレだし、薄情だし、友達甲斐がないし……どうしようもないヤツだからあんたも気をつけな」

「ええ。この一件で把握しました」


 ええ~……何それ、二人してなんでそこは認めるの……?

 というあたしの思いはぐっと飲み込む。


 ステラがこっちに背を向けて、お城の方へ歩きだしたからだ。あたしの方を振り向きもせず。

 ヘタレで薄情で友達甲斐がないあたしだけど、その言葉に打ちのめされてる場合じゃないのだ。


「待って、ステラ!」

「もうすぐライブの時間なんだよ、今月のプロムクイーンコンテストの! それでプリンスからティアラもらえれば即デビューって話が決まってるんだ! それにそなえて集中したいんだよ!」


 ティアラは振り向きもせずに大声で叫んだ。FTH内の専門用語が多すぎて正確なことはよくわからないけれど、とりあえずステラにとって大事なライブの時間が迫っているということはわかった。


「だからこれ以上あたしをグラグラさせんな! ベストなライブが出来なきゃあんたのせいだぞ、真帆。コンディション最悪なことにしやがって……クソが!」


 八つ当たりじゃないですか、とぼそっと小さくつぶやくソラミちゃんを(悪いけど)その場において、あたしはステラの後を追った。


 ステラは振り向き、あたしが追いかけてくるのを察してダッシュする。あたしも構わずその後を追った。ステラは速い。遠慮なく速度を上げる。あたしとの距離はぐんぐん広まる。


「ま……待ってよぉ、ステラぁ……!」


 ステラはお城の形をした校舎の中に入り、市松模様の床を蹴って、カラフルなコスチュームの生徒たちを素早くかき分けて、シンデレラがおりてきそうならせん階段を駆け上がっていった。あたしは必死で追いつこうとするものの、人造人間みたいな怪物の格好をした子にぶつかって床に転がる。


 ぶつかった子に謝っている間に、ステラの姿は消えていた。らせん階段の両脇には大きな振り子時計が二つ設置されている。片方がこの世界での時間、もう一つがあたし達の世界での時間だ。あたしたちの時間を示す時計は、18時前を示している。


 あたしに残された猶予のことを考えていた時、背中にドンと痛みが走った。踏まれたと気づいた時にキャラキャラした声が頭の上から降ってくる。



「ちょっと魔女子、そこにいたら邪魔なんだけどー」

「通路の真ん中でへたり込まないでくれるー?」


 振り向いて確認するまでもなかった、そこにいたのは華やかなドレスに身を包んだダンス部の子たちだ。ステラに叩かれた後のすさまじいあたしの顔を見ておかしそうに笑いあう。


「うっわダッサ。マジひっでえ顔なんだけど」

「つか未練たらしく仲直りにきて殴られるとか、面白すぎなんだけど」

「面白すぎたから動画撮らしてもらったんだけど、ホラ」


 ダンス部の子たちがあたしの前でスマホを振りかざす。小さい液晶に映し出される動画は、さっきステラがとびかかってあたしを平手でひっぱたき、さらに馬乗りになって往復びんたを食らわせている一部始終だった。ソラミちゃんがステラを羽交い絞めし、あたしの上から引きずり下ろすところまできっちり撮られている。



 叩かれてるのはあたしだけどあいかわらずステラのアクションはきびきびして華があって見ごたえがあるな……と感心している場合じゃない。ステラは今日のライブの結果次第で即デビューできるかもしれないアイドルの卵なのだ。結果はふるわなくても東京進出するって決めている大事な身の上なんだ。


 そんなステラの暴力動画はまずい。絶対まずい。

 

 あたしはスマホを持っているダンス部の子にとびかかる。けれど彼女はわざと、あたしがジャンプしても届かないところにスマホを持ち上げる。


「消して! その動画はやく削除して!」

「はあ? 意味わかんないんだけど。ステラに殴られてたのに消してとかさあ」


 ダンス部の子は面白がる。


「そうそう、この動画さえあればあんたもアイツを言いなりにできるのに」

「殴られた慰謝料っつうことでアイツに招待状出させたら? そうすりゃスター寮のおともだち特権でFTHで楽しく過ごせるし」

「そんな特権要らない! だから早く消してってば!」


 ぴょんぴょん跳ねていたあたしの髪を、スマホを持っているのとは別のダンス部の子がつかんだ(ああ、ヘアスタイルをロングのツインテールなんかにしたから……)。


「勘違いしてんじゃねえよ、魔女子。あんたのために撮ったんじゃないんだからさぁ」

「そうだよ、なあ」

「ねえ?」


 ダンス部の子たちは顔を見合わせてクスクス笑った。意味ありげな、いやらしい笑いだった。きれいでおしゃれなドレスが台無しになる笑い。

 そこまで来たら、あたしもこの子たちが何を目的でステラの暴力を動画におさめたのかわかる。

 

 この子たちが、FTHで楽しく遊ぶためだ。全国区のアイドルになったステラの友達、そしてスター寮生のステラの友達として、スター寮生と同じ特権を受け続けるために(この子たち自身が努力してスター寮生になっているとはどうしたって考えられない。きっと例の招待状システムを利用しまくっているんだ)。

 おじさん俳優ばっかり出てくる社会派ドラマで耳にしがちな、「甘い汁を吸う」ってやつのためだけに。


 あたしの頭の中に、仏頂面でこの子たちと一緒にテラス席に座っていた時のステラの横顔が浮かぶ。それにあたしが五日間凹むきっかけになった金髪の男とのプリクラも。

 ひょっとしたらステラはあれをネタに、この子たちに招待状を出す羽目になったのかもしれない。

 

 あたしの中ですべての線がつながりあった時、ダンス部の子はあたしの髪を離した。その子は去り際にあたしの目の前で一通の封筒をひらひらさせて見せる。封蝋で綴じられたクラシックなそれが、きっと招待状なんだろう。



「じゃーねー、魔女子~。うちらはVIP席でステラのライブ見てくっから~」

「プロムクイーンライブは18時半からだよ~。そこのモニターで中継してっし、そっからヲタ芸でも打ってれば?」

「ね~、VIP席に‶教員″の人いる? うちらも声かけてもらえねーかなあ」

「いやそれ無理っしょ。でもせめて若手アイドル紹介してもらえ――」



 ……人間、腹が立ちすぎると思いもよらない行動に出てしまうものなんだね。


 気が付いたらあたしは、招待状をひらひらさせていた子に体当たりを食らわせていた。大人っぽいヒールの靴を履いていたその子は簡単によろめいて倒れる。タックルを成功させたあたしは、その子に馬乗りになっていた。無意識にさっきステラにされたことをなぞっている。


「っだよ、重いんだよ! 魔女子の癖に!」

 あたしの下で招待状を持っていたこが顔を歪める。その顔をあたしはひっぱたく。ぺちんと間が抜けた音しか出ない、大して痛くなかったはずの平手打ちだけど、その子は一瞬驚いた表情になる。

 無我夢中であたしはその子の両腕を押えた。


「謝れ! ステラに謝れ!」

 おびえたようなその子の顔に向けてあたしは叫んだ。腹の底から叫んだ。



「ステラは、あたしのステラはあんたたちの肥やしじゃないんだ! どっかいっちゃえこの蛆虫! アブラムシ! 寄生虫! サナダムシ!」



「……!」

 あたしが組み敷いている子の顔色がさっと変わる。反対にあたしは妙な解放感に襲われていた。ずーっと胸の中にわだかまっていたものが吐き出されたような爽快感というか。


 けれどすぐ、ほかのダンス部の子たちに髪の毛を引っ張られて引きずり降ろされる(今日限りロングのツインテールにするのはやめよう。地味に痛い)。


「はああ? なに調子こいてんだよ、魔女子の癖に! なにがあたしのステラだよ! レズってんじゃねえよ!」

「うるさい、あんたたちなんか所詮ステラがいなけりゃ何にもできない寄生虫じゃないか! そんなやつらにになに言われても怖くないんだからね。この蟯虫! 回虫! 日本住血吸虫! ロイコクロリディウム!」


 

 突き抜けた怒りがあたしのテンションを高め、自分でもよくわからないことを言いながらもう一度招待状を持っていた子にとびかかるが、奇襲は二度は通じない。それにやっぱり多勢に無勢だ。ダンス部の子たちに集団で囲まれ、慣れた動作で小突かれ蹴られる……。



「きゃあっ!」


 その時悲鳴が上がった。サッカーボールのように小突き回されていたあたしが悲鳴があがった方を見ると、招待状を持っていた子の指先から炎と煙が上がっていた。つまり、招待状が炎上しちゃったのだ。


 あたしの記憶に、数日前の光景がよみがえる。プリクラを燃やしたソラミちゃんのあの魔法……。

 あたしたちの視線の先には、案の定、右手の人差し指をたてたソラミちゃんがいる。なぜか左手にはスマホをもって誰かと通話中らしく耳に当てていたけれど。



「センパイ、なんでそんな寄生虫に詳しいですか? ロイコクロリディウムを早口でかまずに言える人、私初めて見ましたよ」


 ソラミちゃんがとぼけたような口調で言う。


「……っ! あんたの仕業かよ、ハロウィン女!」

 招待状を燃やされた子が憎々しそうに唸った。


「ハロウィン女らしく、お菓子をくれない相手にはイタズラをくらわしてやったまでです」

 ソラミちゃんが短く呪文を唱えながら指先をくるくる回すと、爪の先に金色の粒子が宿る。それをダンス部の子が持っていたスマホにむけた。金色の粒子がスマホにぶつかると、バチンと音を立てて粉々にはじけ飛ぶ。スマホを壊された子は、悲鳴を上げて手を押えた。


 その隙にソラミちゃんは、あたしに自分のスマホを手渡す。


「はい、センパイ。藤原さんから連絡です」


 よくわからないまま、あたしはソラミちゃんのスマホを受け取った。招待状を燃やされ、スマホを壊されて怒りくるうダンス部の子たちの怒りはソラミちゃんに向かう。あたしもぼんやりしている場合じゃないけれど、とにかく電話に出た。


「もしもしっ、藤原さん?」

『あらぁ、真帆ちゃん? やっと真帆ちゃんと連絡とれた~。も~さっきから真帆ちゃんの電話にかけてたのに全然つながらないんだもん~』


 ソラミちゃんは意外と身のこなしが素早く、つかみかかるダンス部の子たちを適当にいなしている。わからない程度に魔法をつかっているのかもしれない。って感心している場合ではない。


「ごめんなさい藤原さん、今それどころじゃないの! 後にしてもらえない?」

『え~、今聞いておいた方がいいと思うわよ? 今の真帆ちゃんにとっても役立つ情報なんだから』


 藤原さんの声はこんな時だというのにいつもと変わらずのんびりしている。


『あのね、真帆ちゃんも知っている通り、FTHとリルファンタウンは運営元世界が一緒でしょ? いわばリルファンタウンを卒業した子の受け入れさきがFTHってわけで~』


「知ってる! わかってるよそんなことは!」


『だからあ、今、FTHがリルファンタウンプレイヤー限定の素敵なキャンペーンをやってるのよ~。リルファンタウンで獲得したコスチュームやアイテムがFTHでもそのまま使えるの~。もちろん、魔法も~』


「――」


『リルファンタウンで使える魔法は、FTHでも使用可能。その仕組み、分かるぅ? 二つの世界は同一地平上にあるからっていうのもあるんだけど、それ以前に同じ現代魔法のシステムを利用して構築してるからであって……』



 電話の向こうで藤原さんが魔法に関して専門的な話を始めようとしてくれたけれど、あたしはそれを聞き流した。リルファンタウンで使える魔法はFTHでも使用可能、そして今ではお得なキャンペーン中ってことだけをキャッチする。

 そこさえわかっていれば十分だろう。


「どうやればリルファンタウンのあたしになれる⁉」

『まずグリンピア会員証を掲げて~』


 言われた通りにあたしは、ピンクメタリックの懐中時計の形をした会員証を掲げた。


『はい、OK。そのまま待機~』


 藤原さんが電話の向こうでスポットルームの管理に必要な魔法の端末を操作する音が聞こえた。しばらくしてグリンピア会員証から、きらきらと星屑を思わせる輝きがこぼれてあたしの体を帯状に取り巻いた。


 あたしの変身は時間にして一秒にも満たなかった筈だ。

 でもあたしの姿はさっきとは一変していた。すみれ色のツインテールはそのままだけど、ピンクをアクセントにした黒いひらひらドレスはリルファンタウンランカー時代のあたしの姿そのまま。


『はい、これで完了~』

 藤原さんの声に会わせて、グリンピア会員証が変化した。あたしが昔、欲しくてたまらなかったあの「ほしくずのステッキ」だ。

 

 あたしの体から、今まで感じたことのない力と勇気が沸き上がる。星形のクリスタル先端についたステッキは可愛いけれど、可愛いだけじゃないのだ。


「ありがとう藤原さん、大好き!」

『どういたしましてえ』


 藤原さんとの通話を切り上げ、「ほしくずのステッキ」をソラミちゃんにつかみかかろとしているダンス部の子たちに向けた。そして昔、毎週のように唱えていてた呪文を唱えた。


「トゥインク・ルンルン・リリアント! 星屑よ降り注げ!」


 ざわっ……! 

 あたしが呪文を唱えた時、あたしたちのケンカをキャットファイトとして面白がって見物していた周囲のギャラリーの一部が顔色を変えたように見えた。きっとその子たちはリルファンタウンの年季の入ったプレイヤーだったのだろう。


 呪文を唱え終わったあと、あたしは叫ぶ。


「ソラミちゃん、避けて!」

「了解です」


 ソラミちゃんは一瞬であたしの背後に現れる。瞬間移動の魔法を使えたとは知らなかった。


「ていうか、なんなんですかさっきの間抜けな呪文?」


 ソラミちゃんの質問に答えている余裕はない。

 シャララララ……! 弦をかき鳴らすような音色が響いた直後、天井付近が輝き、星屑が雨のように降り注いだからだ。

 まるっこくちょっとマンガっぽい、五角形の黄色い星屑が回転しながら、いくつもいくつも。それがダンス部の子たちの頭上から滝のように襲いかかる。


「ちょ、え、ウソっ……!」

「えええええっ⁉」

「キャアアアア⁉」


 シャラララララ……! 耳障りだけは心地よい音を立てながら、黄色い星の雨はダンス部の子たちにぶつかり続けた。あまりにも降り注ぎすぎてシャララララ……! から、ジャラララララ……! に近いような、金属の弾を一度にひっくり返したような音に代わり、耳をつんざく。


 ダンス部の子たちはファンシーグッズにデザインされているのよなまるっこい五芒星の雨に押しつぶされる。



「……うわあ……」

 最初はこの攻撃を余裕をもって見ていたソラミちゃんの表情が、たっぷり数分はつづく星屑の集中豪雨攻撃を前にして段々恐怖に歪んでゆく。


「大丈夫なんですか、これ? あの人たち死んでませんか?」

「大丈夫。この魔法は『おともだちとの魔法たいけつ』でも使用可能なやつだから安全性は保障済み! ……これ以上強力なヤツは人に向かって使うとダメなんだけどね」

「ということは、対人用最強の魔法って考えてもいんですか? リルファンタウン限定の」


 フロアに黄色くて丸っこい星の山が出来上がる。その下にうずもれているダンス部の子たちは手や髪や足の一部を除いてすっかり見えなくなっている。


「……呪文のマヌケさに反して地味にえげつない魔法ですね……」

「だって、あの呪文を叫ばなきゃ星が降ってこないんだもの。……あ! 『呪文を唱える→ステッキが星を生み出す→ターゲットの上に降り注ぐ』って魔法が入力されてるんだ、このステッキに! すごい! 現代魔法ってこういうことなんだ!」

「……まあ、古代ギリシアの哲学者はそういうときにエウレーカー! って叫んで走り回ったと思うんですけどね……」


 黄色い星の山を見て、ソラミちゃんは言葉を濁した。


 ようやく星の雨が止んだのを確認して、あたしはもう一度星屑のステッキをふるう。


「トゥインク・ルンルン・リリアント! 星屑よ消えなさい!」


 ポンっ!

 白い煙を上げながら、黄色い星の山は一度に消えた(『呪文を唱える→星を消滅させる』という魔法も入力されているんだな、きっと。それにほかにもたくさんの魔法が)。


 黄色い星の山の下から、ぐるぐるに目を回して気を失ったダンス部の子たちが姿を現した。


「……!」


 あたしの全身が、今まで感じたことのない達成感に満たされる。

 今までケンカもしたことがなくて、嫌なことを言われても言われっぱなしだったあたしが、ここまでやったんだ――。


 自分の結果を見ていたら、何故かへなへなと全身から力が抜けた。

 激昂→反撃→敵を倒した達成感……という、激しい感情の高ぶりに体がもたなかったらしい。


「…………」


 疲労と虚脱感でへたりこむあたしとその隣にいるソラミちゃん、そして気を失ったダンス部の子たち。そこへめがけてピリリリリ……! と警笛を吹き鳴らす妖精たちが吹っ飛んで来た。

 

 しかも今度はたくさんだ。


「キャンパス内で私的な魔法対決は禁じられています! 誰ですかルールを破ったのは!」


 警備員、そして頭が固いガチガチの未婚女性教師といった役割で児童文学に出てきそうな格好をした妖精たちがあたし達を取り囲む。


 リルファンタウンの魔法を使えるけれど、魔法対決はしちゃいけなかったのね……と今更知った所でもう遅い。


「……FTHのシステムは面白いと思うんですけど、プレイヤー同士のトラブルを長時間放置することに関しては改善の余地がありすぎませんか? 運営ボンヤリしすぎ」



 ソラミちゃんが両手を上げながらぼそっとFTHをそう評した。

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