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「大体、前々から言おうと思ってたんですけどセンパイって『できない』とか『無理』とか『どうせあたしなんか』とか前もってネガティブワードはりめぐらせて身を守ろうとするところがありますよね? それ、周囲の人間にしてみればすっごく面倒なんですよ? 『そんなことないよ』っていうしかなくなっちゃいますから」
「うう……でも、だって、本当にダメなんだもん」
「ほらまた言った! もう勘弁してくださいよ。私に言わせる気なんですか? センパイが今まで学校で対人関係しくじり続けたのもそういうとこが原因だって!」
「……なにもそこまで言わなくたって……」
「あーもう! また泣く!」
ソラミちゃんの苛立った声があたしを打つ。
あたしの涙腺は小さいころからユルユルなので、ちょっとでも辛い、悲しいと脳が信号を出すとすぐにダラーっと涙が漏れる仕組みになっている。それに苛立つ人が多いことはよーく分っているけれど、でもどうにもならないのだ。
「泣きたくて泣いてるんじゃないもん。勝手に出ちゃうんだもんっ」
「もうっ、子供じゃないんだから。そりゃお友達だってはなれちゃいますよ、そんなんじゃ……!」
ひどい! 言いすぎ! また涙が勝手にあふれそうになったタイミングで杖に乗った校長先生が声の大きくなったあたしたちのそばへやってくる。
「これこれ、おしゃべりしないで作業に集中すること!」
「はいっ」
タオルハンカチで涙を押えてから、あたしは目の前の課題にとりかかる。
今日の課題は数学でも国語でもない、魔法のホウキの制作という魔女学校らしい課題だ。
でも、やってることは想像していたのと全然違うけどね……。
先生から手渡されたのは、柄の部分が樹脂っぽい素材、房の部分もちょっと手ごたえのある毛のような不思議な繊維が束ねられてできた全体的に小さくてオモチャっぽいホウキだ。リボンや模造宝石みたいな装飾がところどころに施されていて可愛いけれど、ソラミちゃんが通学につかっている木でできたがっしり丈夫な本格志向のホウキとは全然違う。まずこれじゃ掃除に使えないだろうな。
実際のところ、それはオモチャだったらしい。
「現代魔法文明圏の子供たちが魔法の基礎を学ぶ際に使う、知育玩具ですよ。これでなかなかよくできておりましてな……」
先生があたし達に手渡した後、校長先生がそう言ったから。
ホウキと一緒にカラフルな絵本みたいな教本も一緒に手渡された。小さな子でも読めるような簡単な英語で書かれている(残念だけど、まだまだ魔法文明圏公用語の出版物を日本語に翻訳される環境が整っていないのだ)。
幼児向けの英語を読み解くと同時に、その教本に従って魔法のホウキを制作しなさいというのが今日の課題、というわけ。
なんでこんな子供のおもちゃで……とついうっかりガッカリしてしまう。
手順もこんな感じで簡単そうだしね。
まずイラストと簡単な英単語で記された教本の指示にしたがって、まずホウキに魔法をかける。
魔女学校に入学した際に手渡された杖(魔法をかける際に補助として使う茶色いタクト状の棒、可愛くない)を右手に持ち、ホウキの柄に埋め込まれた模造宝石の部分に先端を当てる。
教本に従い、「音声入力の魔法陣」「音声入力の魔法陣」「前にすすむための魔法陣」「とまるための魔法陣」「地上に降り立つための魔法陣」などを丁寧に書き込んでゆく。模造宝石は魔法の回路でもあり、杖から入力された魔法を覚えてゆく……らしい。
さてそうやると、空を飛ぶために必要な魔法が入力されたホウキができあがる。
じゃあ次はいよいよそれにまたがって空を飛ぶわけ。あとは簡単、「飛べ」って命令する。すると浮き上がる。「前へ進め」って命令すると前進する。「とまれ」って命令すれば停まる。「降りろ」と命令すれば着陸する。以上。
……なんだかやっぱり思っていたのと違う。これじゃプログラミングとかそういうのと一緒じゃない? ていうかロボット作ってるみたいだし。
魔法ってもっとこう……呪文を唱えて精神集中したりするんじゃないの?
そういう疑問があたしの目から先生に伝わったらしい。平然と先生は言った。
「魔法には様々な種類、流派があります。しかし魔力適正ゼロの望月さんでも使える魔法は現代魔法しかありません」
うう。その通りなんだけど。
あたしはいわゆるただの人間なので、先祖代々魔女をやってるソラミちゃんのように自分が持っていたり自然界に存在している魔力を感知することができない。そういう感覚を感じ取る器官がそもそも備わってないらしいのだ。
それこそ、アニメみたいに異世界の存在から不思議なアイテムをもらうでもしない限り魔法は使えない。
わかっていてもはっきり伝えられると地味に堪える事実だ。
「なにもショックを受ける必要などありません。魔法文明圏の拡大に貢献してきた昨今の偉大な魔女・魔法使いの大半は魔力適正ゼロです。皆それぞれ基礎からしっかり現代魔法の理論を学び社会に貢献する大魔法をつくりあげたのですから。望月さんだって頑張れば歴史に名を残す魔女になれる可能性もないとは言えないのですよ」
「……はあ」
「ことに望月さんたちのいる世界ではこれから現代魔法の需要が必ず増えてゆきます。魔法文明と交流するにあたって魔法インフラの整備は必須になるでしょう。そういった時に現代魔法理論に通じた魔女の力は必ず必要になるんですよ、望月さん」
「……はい」
「……なんですか? それでもまだ不満ですか?」
いつもながら沈着で事務的な響きを漂わせているけれど先生なりにあたしのやる気を引き出そうとしてくれているのはわかっていた。わかっているんだけど……。
あたしはやっぱりこうつぶやかずにはいられないのだった。
「思ってたのと違う……」
でしたら旧式な魔法の師匠のもとでビシバシしごかれながら魔法を習得しなさい! というような冷たい目で先生があたしを見下ろしたので素早く謝り、あたしは大人しく課題に従っているというわけ。
でも、手順だけみていると簡単そうなこの魔法がやってみればとっても難しかった。
一通り魔法陣を書き込んで魔法を入力した後、ちょっと興奮しながらホウキにまたがって「飛べ」って命令してみる。
結果、ビューン! とロケットみたいな勢いで垂直に上昇する(先生が魔法で止めてくれなかったら多分成層圏に突入していた……‶月夜の森″に成層圏ってあるんだろうか? ま、あるよね多分)。
その反省を生かし、次は「木の高さまでゆっくり浮かんで、そのまま前進」と命令してみる。
すると、ゆっくり浮かぶところまでは成功するんだけど、次はジェットコースターみたいな速さでホウキは前へビューン! と進む(また先生がとめてくれなかったらあたしはどこかに激突するかホウキから振り落とされていた)。
そのまた反省を生かして、「木の高さまでゆっくり浮かんで、そのままゆっくり前進、そののち着陸」と命令する。
するとまた途中までは成功するんだけれど、のろのろと宙を前進したあとにそのまますとんと勝手に降下したのだ。鬱蒼と生い茂る森の上で。
木の枝をへし折りながら落下したあたしは全身ズタボロになって教室まで戻ってきたのだった。
先生が「汚れてもいい恰好で来なさい」と昨日注意した意味を噛みしめながら……(そんなわけで今日は学校のジャージを着ている)。
失敗するたびにソラミちゃんが私に治療魔法をかけてくれたので失敗の数や派手さに対して体は元気だ。
ソラミちゃんも、あたしのコミュニケーション下手やステラへの態度を非難しながらも怪我にはおまじないをかけてくれる。ソラミちゃんのお家は薬師や助産師をしていた正統派の魔女の家なので治癒系の魔法はお手の物らしく、かすり傷やちょっとした打ち身くらいならすぐに痛みをとってくれた。
そうこうしながらもあたしと同じように手渡された知育玩具のホウキに何パターンもの魔法陣を手際よく入力したのち、ホウキにまたがって命令する。
「一番高い木のてっぺんあたりまで浮いて、人が歩く程度の速度でそのまま前進。高さと速度を維持したまま右回りに半径三十メートル程度の円を描くように進む。円の始点に戻ったら反転して元の位置にもどる。その後ゆっくり降下」
あたしのホウキとは違い、ソラミちゃんのホウキは大人しく命令に従う。ふわりと浮き、一定の速度で空を飛ぶ。背中を伸ばしまっすぐ前を見たままホウキにまたがっているソラミちゃんの姿は「ザ・お手本」という感じだ。
ホウキにたったこれだけの動作を覚えさせるためにソラミちゃんはかなりの魔法陣を入力しているはずだ。それがいかに複雑で面倒か、本日役半日を費やしたホウキづくりの授業を通してよーく分った。
ふわっと着地したソラミちゃんをあたしは拍手で迎える。でも先生は腕を組みながら指摘する。
「終盤、向きを反転するところで自分の力で向きを変えようとしましたね?」
「……つい、日ごろの手癖で運転してしまいました」
「ただ普通に空を飛ぶだけならそれで構いませんが、この授業の目的はあくまで現代魔法の基礎の習得ですからね」
「はい先生」
女子アスリートと熱心なコーチを思わせる無駄のないやりとりに、あたしは感心しながら先生とソラミちゃんのやり取りを見る。
なんとかその日のうちに「任意の高さで浮き続けてくれる」「極端なスピードを出さない」という魔法陣を入力し、安全性を高めることに成功した段階でこの日の授業は終わった。
「ねえ、なんでソラミちゃんは自分の魔法がつかえるのに現代魔法も習うの?」
「前にも言ったでしょう? 王立魔法学園を受験するためです」
その日の帰り、せっかく苦心して安全に運転できるまでのところまで育てたホウキにまたがっていた。でも安全性を高め過ぎた結果、歩く子供と同じくらいのスピードしか出せなくなってしまう。
それじゃ困るということで、ソラミちゃんが自分のホウキとあたしのホウキを紐で結んで牽引してくれることのなった。ちなみにソラミちゃんがまたがっているのは授業で使った知育用ホウキではない。お手製のがっしりした愛用のホウキだ。
現代魔法ではなく、普段と同じ感覚でソラミちゃんはホウキを運転する。ちょっと体を傾けたり、舳先を下げたりで向きや高さを調節している。特に頭の中であれやこれやを考えている風ではなく、体に染みついた動きで運転しているように見えた。
どうやったらホウキに乗れるのか、どんなことを考えながらホウキを運転しているのかと前に尋ねた所、しばらく考えた後にこう答えてくれた。
「まず、自分の魔力と大気中の魔力を感じ取ってください。それを体内で練り合わせながらホウキにのって空を飛ぶ自分をイメージする。あとは大体自転車に乗る感覚と一緒です」
「……うん? ……よくわからない」
「でしょう? だから本来魔法を教えるのも教わるのも非常に難しいことなんです。個人固有の感覚を第三者に伝えるわけですから」
あたしのホウキを牽引するソラミちゃんの後ろ姿を見ながら、その時のことを思い出していた。
ソラミちゃんは前を向いたまま現代魔法を勉強する意味を説明していた。
「しょせん、うちの家に伝わる魔法なんて科学文明圏でなんとかかろうじて生き延びていたガラパゴス魔法ですからね。現代魔法文明圏じゃ通用しませんよ。ごくごく狭い地域でしか使われていないローカル言語しかしゃべれない状態で英語圏の名門大学に留学するようなことになってしまいます。それじゃあいくら地頭がよくても、最高の学び舎に籍を置いていても、意味がないでしょう?」
「はあ」
「そうならないためにも、共通言語・文化として現代魔法を勉強する必要があるんです。わかりますか?」
ソラミちゃんの言わんとすることはなんとなくわかったが、それ以上に意識の高さに目がくらみそうになった。
魔女の家に生まれて魔法がつかえるってことだけでもすごいのに、それじゃ自分には足りないからって新しい魔法を自ら学ぼうとする姿勢……あたしにはまず無いものだ。
あたしだったらきっと、ホウキにのって空を飛べるって所だけで満足してるな。
ホウキを運転するソラミちゃんの後ろ姿を見ながら、あたしは今日心の中で思っていたことをつぶやく。
「……ソラミちゃんってステラとなんか似てるね?」
「え? なにか言いました?」
位置の問題で、あたしの言葉はソラミちゃんのには聞き取りにくいらしい。振り向いて聞き返したのを「なんでもない」と言ってごまかした。
ソラミちゃんとはタイプが全く違うけれど、二人とも夢や目標を持っている所が同じだ。
夢のためには、自分がもっているものの平然と切り捨てられる思い切りの良さも一緒。よく似ている。
リルファンタウンに通っていた終わりの頃、あたしはうっすら、ステラに切り捨てられるんじゃないかっていう予感と一緒にいた気がする。
ステラがリルファンタウンに見切りをつけて、新しくできるフェアリーテイル・ハイに興味を移している様子はなんとなく察していた。
着々と建設されるお城を部屋の窓からワクワクして見守っていたし、ティーン雑誌で小出しに伝えられる情報をあたしと共有しようとしていたし。
「お城そのものが大きな高校で、そこでプリンセスとかスターとかモンスターの学生ってことになって通えるんだって!」
「十八歳以上は立ち入り不可なんだって! いいよなそれ、キモイ大人とかいねえし」
「大手芸能事務所がオーディションも開いたりするって、よくねえ?」
「ウィッチっていう魔法使いキャラにもなれるみたいだから、真帆にも向いてるしさ」
実際、リルファンタウンはステラにはもう小さくなっていたのだ。
アイドルランキングの常連になっていたけれど、対象年齢12歳までのゲームのランキングにいつまでもこだわっていたってアイドルとしては芽が出せない。アイドルを目指すステラは新しい作戦に切り替えなきゃいけない時期に来ていたのはわかる。
でもあたしはフェアリーテイル・ハイには興味がわかなった。
リアルの学校で居場所がないのに、なんでわざわざ高校って設定のスポットに行かなきゃならないわけ?
しかもフェアリーテイル・ハイはアメリカ産のハイスクール映画をイメージしているみたいだし(チアリーダーが歯の矯正器具をつけてるみっともない子に意地悪するような価値観で出来た場所に行きたいと思う?)。
その温度差を、ステラはなかなか理解できなかったみたいだ。
「ほら、スポットを通りますよ」
ソラミちゃんに声をかけられてあたしは衝撃に備える。
「よーし、そのまま着地……うわっ!」
牽引されているとはいえ自分がホウキにまたがっている状態でスポットをくぐるのは勝手が違った。バランスが取れなくて魔法陣の描かれた床の上にズドンとしりもちをつきながら着地する。
カウンターの藤原さんが、お帰りなさいより先に目を丸くした。
「あらあら、真帆ちゃんどうしたの? その可愛いホウキ」
「えーと、課題で作ったの」
「よかったわねえ。ようやく魔女学校らしいことを教えてもらえるようになったのね」
ええまあ、思っていたのとはちょっと違うけど……とは言わないで、会員証をスキャンしてもらった。
「あ、そうだそうだ」
いつもなら雑談をするタイミングで、藤原さんがカウンターの内側をかるく探ってから何かを取り出した。
ルーズリーフを折りたたんだ一通の手紙だ。それをあたしの手のひらに手わたす。
「はいこれ、ステラちゃんから預かってたの。真帆ちゃんに渡してって」
「……ありがとう」
ちらっとソラミちゃんがあたしの方を見たのが分かる。
藤原さんは、きっと微妙な表情になっているあたしを見て微笑んだ。
あたしが小学生のころからグリンピアのスポットルームの管理人をやっている藤原さんには、詳しく言わなくてもあたしとステラがどういう状態なのかうすうす察するものがあったのだろう。
ほんの少し笑って藤原さんは話し始める。
「管理人ってね、スポットの中で何が行われてるか、トラブルが起きてないか外からチェックするのも大事なお仕事なのよね」
「……知ってる」
「だから、真帆ちゃんとステラちゃんの二人がリルファンタウンでどうやって遊んでいたのか、藤原さんよーく見てたのよ? 二人が遊んでるのを見るの、楽しかったなあ」
「……」
「ごめんね、なんか変なこと言っちゃって」
ちょ、センパイ。ソラミちゃんがあたしの腕を引っ張り、壁にかかっている一つのスポットを指さした。ファッショナブルなコスチュームに身を包んだきらびやかな女の子たちの集団がこっちへ向かって歩いてくるところだ。
その中の一人、黒いタイトなドレスに身を包んでいる女の子はどう見てもステラだった。ということはその周囲にいるのはダンス部の子たちだ。
なんでこんな時間にあの子たちがスポットで遊んでるんだ⁉ まだ学校終わってない筈なのに!
「ああ、ダメよねえ。試験期間中にこんなところに遊びに来て~。一回注意しなきゃだわ」
呑気な藤原さんとは違い、あたしはパニック寸前だ。
どうしようどうしよう……! よりにもよって今日ジャージだし……! とその場でぐるぐる混乱した小動物みたいに落ち着きを失くすあたしを見て、藤原さんが苦笑した。
「もう、こっちに入る? 今日だけよ」
「ありがとう!」
もちろんあたしは藤原さんの言葉にあまえてカウンターの内側に入り、カーテンで仕切られたバックヤードに身を潜ませた。ソラミちゃんはやっぱり強くてあたしみたいに隠れたりはしない。
ダンス部の子たちがこっちの世界に帰ってきたのは、彼女たちの笑い声が文字通り降って湧いたことでわかる。あたしはカーテンの影でしゃがんで膝を抱える。
「ただいまー、会計おねがいしまーす」
「はーいお帰りなさーい」
ダンス部のリーダー格の子たちとにこやかに応対する藤原さんの声。
スマホやグリンピア会員証をスキャンし、電子マネーが支払われるシャリーンという音。
「ちょ、またあのハロウィン来てるよ」
「あの子魔女子のツレでしょ? 魔女子のツレが本物の魔女とかウケるんだけど」
というソラミちゃんに対する悪口なんかで一気に騒がしくなる。
そんな中、あの子の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ステラー、この後先輩たちが集合かけてんだけどあんたも来る?」
「いかないって言っておいて」
ステラの声だ。機嫌が悪い、不機嫌そのもののやつだ。
「はあ? 先輩あんたがSTFのランキング10位内に入ったからお祝いするって言ってくれてんのに?」
「事務所の人にタチの悪い地元の男とはつるむなって言われてんの。じゃあね」
たったったったっ……。
強めの足音が遠ざかっていった。
なのに、ダンス部の子たちはその場に居残っていた。がこん、という音が聞こえたあたりから察するに自販機でジュースでも買ってるんだろう。
「……事務所の人だって」
「地域のイベントでゆるキャラと一緒に踊れるようになっただけなのにもうアイドル気取りとか、笑える」
「でも、先輩ステラのことお気に入りだよね。連れて行かないとやばくない? うちら愛想つかされんじゃない?」
「STFのランカーが身内にいるから自慢したいってだけでしょ? じゃないとだれがあいつみたいな気の強いだけの意識高いブス興味持つかっての」
うだうだうだ……ダンス部の子たちはどうやらここで溜まって雑談を楽しむ。
ていうか、聞き捨てならない会話が繰り広げられていたきがするんですが。
あの子たちの中でステラは浮いている……っていうのはわかったんだけど、ステラがブス? ブスなわけないじゃん! あんたたちどこに目えつけてんの⁉ ……ってはっきり言えたらいいのに。
「ねー、あたしいいもん持ってんだけど」
「え、何々?」
これこれ、これなんだけど、と少し間を置いた後で、クスクス意地悪く笑う声が聞こえた。
やだな、これ。すっごい身に覚えがあるんだけど。
ダンス部の子たちは「いいもん」とやらを回覧しながら歩き出した模様。足音と一緒に声が遠ざかる。
「もういいわよぉ」
藤原さんの合図でようやくあたしはカウンターの内側から外に這い出ていた。
また‶ハロウィン″呼ばわりされていたソラミちゃんは、いつもの澄ましたような表情で立っていたけれど、無理やり笑みを浮かべた口元が却って怖い。二度目になるとさすがに腹も立つらしい。
「……センパイ、ステラさん大変なことになってらっしゃるみたいですよ?」
「……うん。順調にアイドルとしての地道に活動してたんだね……えらいよね……」
「いや、それもあるんですけど。そこじゃありませんよ」
ソラミちゃんは、ガン、と足元にあった空き缶用のゴミ箱を軽く蹴った。いつも澄ましているのが常なソラミちゃんは珍しい感情表現だ。こら! と藤原さんに怒られたけど無視する。
「あいつらが言っていた‶いいもん″がちらっと見えてしまったんですけど、言っちゃってもいいですかっ?」
「……ど、どうぞ?」
「金髪のタチ悪そうな男からステラさんがキスされてるプリでしたよ?」
「え?」
一瞬、ソラミちゃんが何を言ってるのか理解できなかった。
ソラミちゃんは、ふうっと息をついて指を立てた。そのまま何か口の中で何かを唱えた後に指を軽く折り曲げてもう一度立てた。
その指には小さなカードのようなものが挟まれていた。
「緊急時以外公共の場で魔法を使うことは推奨されていないんですが、ま、これは立派な緊急時ですしね」
はい、とソラミちゃんはそれをみせてくれる。
写っていたものを見て、あたしは悲鳴をあげた。
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