4

 なんだか怖い子だな。

 それがステラへの第一印象だった。

 


 初めて足をふみいれた小学校の教室で、色とりどりのチョークでイラストや「おめでとう」のメッセージで黒板をまるでにらむようにまっすぐ見つめながら、席に座っている女の子。よそゆきのピンクのワンピース姿がイヤでしかたないとでも言いたげににこりともしない、よく日焼けしたような肌の色をした長い黒髪と大きな目を持つ女の子。

 それが鈴木星子ステラだった。

 入学式を終えたばかりの教室の後ろ、よそ行きの顔つきで並ぶ保護者の中で明らかに浮いている派手な服のおんなの人が、目鼻立ちのくっきりした華やかな顔立ちと肌の色からステラのお母さんだっていうのは一目でわかった。

 教室を出た後、すこしクセのある日本語でピンク色ワンピースにマリンブルーのランドセルを背負ったステラと手をつなぎ、笑顔で話しかけている様子をなんとなく目で追っていた。


 「すてら」なんて、変わった名前。

 それに加えて浅黒い肌、ほりの深い顔立ち。今まで自分の近くにいなかったタイプの女の子だった。

 長い手脚、髪をまとめているせいで強調された頭の小ささと形の良さ、笑顔じゃなくても思わず目を奪われてしまう、黒目と白目のはっきりした怖いくらいにきらきらした二つの眼。

 あまりに印象的でついジロジロみていると、反対に睨み返されてしまった。振り返って、何見てんだよ、ってその目でにらんでから、ぷいと前を向き手をつないだお母さんとさっさと歩いてしまう。

 あたしはその場で立ちつくし、うつむいた。学校生活というものに不安を感じてしまったのだ。

 

 ともあれ、これがあたしとステラのファーストコンタクトの一部始終。

 

 それから数年は、なーんにもお互いに関わりなく過ごした。


 だってあたしにとってのステラは怖い子だった。

 いつも不機嫌そうにムスっとしていたし、顔立ちや自分の名前をからかったり親や家庭環境について陰口をたたく同級生相手には男女かまわず殴りつけて黙らせるようなけんかっ早い子だった。自慢じゃないけどあたしは小さいころから評判の泣き虫で臆病者だから、暴力は振るうのも振るわれるのも振るってる人をそばで見るのも、あまり好きじゃない。

 

 そんなステラにとっては、あたしなんて気が付けば教室の隅っこにいる変なヤツでしかなかったと思う。もっとも、ステラはあたしに直接そう言うことはなかったけど。

 

 どういうわけだかステラとは、小一から小五まで同じクラスだった。クラス替えを挟んでもなぜかいつも一緒! でもさっきも言った通り、あの日あの時がくるまでまともに口をきいたことはない。

 あたしは教室の隅っこ本を読んだりで妄想にふけったりする地味な子供だったし、ステラは乱暴者の男子のグループに入って担任をいじめて学級崩壊をしむけるような問題児である上に常に注目を集める目立つ女の子だった。長くまっすぐな黒髪をカラフルなシュシュでまとめたポニーテールをなびかせて、鹿みたいにすらりとした体をキレよく動かす姿がきらきら眩かった。特に足がとっても速かった。運動会のリレーのときなんか、みんな普段のステラの怖さを忘れてバトンを持って競争相手をぐいぐい抜き去るステラの姿に声援を送ったものだ(田舎の公立小学校で少々のやんちゃと足の速さは正義!)。


 そんなステラと、自分で言っちゃうけどトロくさくて不気味な不思議ちゃんだったあたしとなんか、そもそも接点なんか生まれるはずがなかったんだけどね、――本来なら。

 

 

 そんなあたし達が学校の外で初めて出会いお互いに会話するという、びっくりするような瞬間があたしたちが小五の夏に訪れたのだ。

 そんな奇跡がおきた場所は、我らがグリンピアのスポットルーム。

 もうちょっと正しく言うなら、スポットゲームの一つ「ようこそ☆リルファンタウンへ」の中だった。

 


 リルファンタウンのことは、今さらくだくだしく説明する必要もないんじゃないかな? 

 今でも世界中の女の子に愛されている絶賛運営中のスポットゲームだし、双方の世界に幸福をもたらしたスポットゲームの大成功例としておじさん向けビジネス番組でもよく取り上げられてるもの。


 でもま、念のため簡単に説明するね。


 異世界の小さな町・リルファンタウン。そこは二頭身の動物の姿をした妖精たちが暮らす夢と魔法でできた不思議な町だ。

 スポットを通ってきた女の子達にはまず、可愛いコスチュームと杖やほうきといったアイテムを与えられる。これにはリルファンタウン内で使える限定的な魔法がかかっていて、呪文を唱えてコスチュームに着替えると誰でもエリア限定の魔法が使えるようになる。要するに「可愛いコスチュームを着た魔法使いの卵」に変身するってわけ。

 魔法使いの卵になった女の子達は、妖精さんたちの仕事を手伝ったり、悪いモンスターをこらしめたり、クイズやダンスに挑戦してレベルを上げていく。そうして魔法の力を強めたり、助けた妖精さんたちからからお礼として与えられる可愛い服や素敵なアクセサリーをコレクションして楽しむって内容だ。


 魔法のレベルを上げて最強の魔法使いになるもよし、服やアクセサリーを集めてファッショニスタになるもよし、歌やダンスを極めてトップアイドルになるもよし、お店を手に入れて思い思いのショップを作るもよし、可愛い妖精さんたちと仲良くなるもよし。

 住民たちやプレイヤーに悪ささえ働かなければ何をやってもよいという自由度の高さが楽しかったのもリルファンタウンが大ヒットした理由だって、日曜日の朝にやっているおじさん向けのビジネス番組でそう言っていたけど、それだけでこれほど大ヒットするわけ無いじゃない! だってだって、何よりすべてが圧倒的に可愛いんだから、リルファンタウンは!

 パステルカラーのおうちや金平糖みたいなお星さまが浮かび、ぬいぐるみみたいな妖精さんたちが笑顔で出迎えてくれる様子を想像してほしい。レベルをあげれば手に入るドレスも、お姫様風ドレスにロリータ風、原宿風、オルチャン風、各種民族衣装風、クールなものやスポーティーなもの、現実世界ではないような、あったとしてもとてつもなく高価でお母さんに「もうちょっとお姉さんになってから着なさい!」と怒られるようなものがそろっていた。そこじゃどんなドレスも自由に着られるのだ(レベルさえあげれば、の話だけど)。

 ファンシーグッズの世界が現実化したような世界がもぉぉぉぉ~本っ当に可愛くて幼い女の子達に熱狂的に支持されブームを巻き起こしたんだから。

 今までにあったテーマパーク型スポットゲームなんか、竜だ魔法だ勇者だなんてもうベッタベタなRPGを実写化したような世界が舞台のものばかりで、魔法が使えるってこと以外ときめく要素なんてまるでなく、全然可愛くなかったんだから!  剣だの冒険だ龍退治だ、汗臭そうなスポットゲームの中にやっと生まれたリルファンタウンの衝撃的な可愛さといったら! その感激を伝えようとしたら、もうあたしじゃ語彙力が足りなくて「本当にほんとうに本当にすごかったんだってば!」って力強く訴えるしか術が無くなっちゃう。

 


 おじさん向けビジネス番組によると、リルファンタウンの舞台に選ばれた異世界の村は、元々は世界の隅っこにあるような小さくて貧しい農村だったんだって。しかも、たちの悪いウィルスみたいなモンスターの襲来に悩まされるような、生活するにはかなり不便なところだったみたい。

 でも、ゲーム会社と契約を結んで開発を進めた結果、魔法の力を与えられた女の子たちが続々やってきてはゲームの一貫としてモンスターを駆除するようになったんだって。それだけじゃなく、お店をつくったりライブをしたり、自主的におともだちを呼び込んできたおかげで円だのドルだの人民元だのが落とされてその村は大発展したんだそう(そのせいでその村にあった独自の文化が破壊されただとかなんとか難しい問題が生まれたりしたみたいだけど……ま、くわしいビジネスや社会事情は各自調べてね)。


 

 あたしたちはちょうど、そんな可愛くて画期的なリルファンタウンぶち当たり世代なのだ。


 特にあたしは、リルファンタウンに猛烈にハマった。そこは夢見ていた魔法の国だった。 

 毎週末になる行列にならんでスポットをくぐり、可愛い魔法使いに変身してはリルファンタウンで冒険を繰り広げていた。

 あたしがとりわけ夢中になったのは、レベルをあげ最高ランクの大魔法使いになることだった。大魔法使いになると貰える「ほしくずのステッキ」がどうしてもどうしても手に入れたくて仕方がなかったのだ(……本当にすっごい可愛いの! クリスタルで出来た星が先端についていて振るうと本当にきらきら星屑が飛ぶんだがから! しかもかける魔法の種類に合わせて星の色が変化するの)。

 そのために土日はお母さんからお小言をくらいながらもリルファンタウンに通いつめ、モンスターを追い払い、妖精さんの農作業やお店を手伝い、着々とレベルを上げていった結果プレイヤーランキングに名を連ねるほどになったんだから。


 一歩一歩着実に夢に向かって歩んでいた時だ、ステラが声をかけてきたのは。


「あんたうちのクラスの魔女子まじょこだろ?」


 少しかすれた大人っぽい声で、はっきりと、そう呼びかけられたのだ。


 ……そう、あたしは学校の一部の女子から魔女子って呼ばれていたのだ。

 休み時間には魔女や魔法の出てくるお話の本ばかり読んでる以外はずーっと窓の外を見ているような、テンポのズレた女子へのあだ名としてはまあ無難な部類じゃないかな……っ?


 でもあまり名誉なあだ名ではないし、そもそも教室の外でそのあだ名で呼ばれるのは想定外だったから、一瞬その場に立ちすくんだ。


 声がした方向をみれば、教室の中と同じようにポニーテールで星型のアクセサリーとホットパンツとノースリーブのトップスを組み合わせたスポーティー系のコスチュームのステラがいた。

 スポットの内と外とではあまり雰囲気が違わないステラに対して、あたしは髪の色をすみれ色に変えていた上に毛先がおしりを隠すほどうんとのばしていた。

 おまけにその時着ていたコスチュームはは黒をベースににピンクで彩ったふんわりファンシーなワンピースだった。量販店のキッズ服を着まわしている、地味でさえない教室の印象とは完全に別人に変身していた筈だった。だから、同級生だって遊んでいるリルファンタウンでも一人でのびのびと遊んでいたところだったのに、油断していたらこれだ!


 思わず固まったあたしの腕を、ステラはむんずとつかんで引っぱった。


「ちょうどよかった。お菓子屋のクマさんが山の上の金色のリンゴが必要だって言うんだけどさ、途中でなぞなぞ出してくるめんどくさいヘビが出てくるんだ。手伝ってよ」

 

 ステラに強引に引きずられる形で冒険にでることになってしまったけれど、気難しいヘビが管理する金色リンゴを手に入れるクエストはとっくの昔に攻略済みだった。

 ステラが苦戦していたクイズにも答えて、無事金色のリンゴも手に入れた。

 道中おそいかかる小うるさい低級モンスターもあたしがすべて追い払ったので、お使いに成功するともらえるクマさんが作ったタルトタタンを手に入れた頃にはすっかりステラのあたしを見る目が違っていた。


「あんたすげえじゃん! 伊達にソロでランキング入ってねえよな。……あ? なんでそんなこと知ってるかって? リンピーのリルファンランキングの五位内にいつもいるマジカル☆MAHOは5-3の魔女子だって有名だよ? 知らなかったの?」

 


 ……道理でクラスの意地悪な女子たちから最近クスクスかげで笑われてると思ったら……。


 今でもその時の恥ずかしさを思うと死にたくなるし、ますます学校なんて大嫌いになるんだけど、心から尊敬したように大きい目をキラキラ輝かせてあたしをまっすぐ見つめていたステラのことを思い出すと恥ずかしさは消えて誇らしさが沸き上がる(と同時に胸がチクチクするような罪悪感も……このことは後で説明するね)。

 教室内でいつも浮かべているむすっとした表情がうそみたいな素直さで、あたしを見つめたのだ。近くで見るとステラは、本当にみとれるくらい顔かたちの整った子だった。

 それまであたしのことをちょっとしたことで誉めてくれるのは父さん母さんにお祖父ちゃんお祖母ちゃんぐらいだったから、ステラのまっすぐな言葉にドギマギしてあがってしまった。その時の顔がかあっと熱くなる感じもいまだに覚えている。



 ステラはタルトタタンを甘いもの好きな小鳥の洋服屋さんへ持って行き、それと引き換えにお目当てのコスチュームを手に入れた。ステラの好みを反映したような、白と水色が基調のスポーティーなダンスウェアだ。ミニスカートからステラ最大のチャームポイントである長くて細い脚が伸びていた。

 それを着て町のステージでダンスと歌を披露し、アイドルランキングを上げるのがステラの目的だったらしい。

 その日のステラのパフォーマンスは圧巻の一言。

 あたしは観客席から、ライトをあびながら自信たっぷりに歌い踊るステラを見上げてため息をついていた。すでにファンもいるらしく、数人の女の子たちがサイリウムを振りながらきゃあきゃあと歓声をあげていたっけ。

 

 冒険した甲斐もあって、ステラはアイドルランキングを一気に跳ね上げて、トップ20圏内にランクインした。ここまできたらトップ10入りも夢じゃないって位置まで。

 ライブを終えたステラは喜びと興奮で顔を上気させながらあたしの手をぎゅっと握りしめてぴょんぴょん跳ねる。


「ありがとう魔女子! あんたのお陰だよ。金色のリンゴがどうしても手に入らなくてずーっと詰んでたんだ。こづかいも無くなっちゃうし、もうダメだ~ってなってたんだよ」


 それからスポットの外に出て、アイスキャンデーを一本おごってくれた。

 おこづかいを使い果たしたって聞いたばかりだったから、いいよって断ったんだけど、ステラは強引に押し付けた。お礼ということらしい。


 ソーダ味のアイスをしゃぶりながら、ステラはぽろぽろとくったくなく、あたしにいろんな事情を打ち明けた。

 毎日仕事に忙しいお母さんを助けるために小中学生でもお金をかせげる芸能人になりたいこと、そのとっかかりとしてリルファンタウンのアイドルランキングを上げ、ゆくゆくはパフォーマンス部門の全国大会への出場資格を手に入れたいこと。 あまり家にいた試しのないお父さんが、気まぐれに顔を見せる時に結構な額のお小遣いをくれること。

 誰もが一瞬おどろく本名は、ステラのお母さんががどうしても娘には星って意味の「ステラ」という名前にしたいってこだわったからってこと。でも、お父さんがそんな名前はキラキラネームにも程があると反対し「星子せいこ」という名前を提案したこと。だけどステラのお母さんが断固として反対しつづけた結果「星子」と書いて「すてら」と読ませるキラキラネームどころかDQNネームに落ち着いてしまったこと。

 そうやって、お母さんとお父さんを語るときの声の強弱や表情その他から判断するに、どうやらステラはお母さんが大好きだけどお父さんのことはあまり好きではないこと(せいぜい、たまにやってきて多すぎるおこづかいをくれるだけの気まぐれな人程度にしか認識していないこと)なんかを知らされる。


 今思えば結構重たい話だったけど、ステラは話し方が上手で、お父さんやお母さんの口調をまねて見せたときはついつい笑ってしまっていたっけ。そうすると、ステラも張り切っていよいよ歯切れよくポンポンと勢いよく色んな話をしてくれた。

 

星子せいこなんて昔のアイドルみたいでクソださい。絶対ステラの方が可愛いし、ママがふんばってくれて助かったよ」


 終りの方には、なんだか大人の世界をにおわせる複雑な事情まで明かされてしまったけど、ステラはと一貫してケロリとしていた。



 アイスを食べ終わったステラはそのあと、あっけらかんチームを組まないかと持さそってきたのだ。


 アイドルランキングを有利に進めるには本人の努力の他に妖精さんたちが用意したクエストを攻略してレアアイテムを手に入れる必要がある。アイドル修行には熱心だけど魔法使いとしてのレベルあげに全く興味がないステラあ、各クエストをこなすのが面倒で仕方がなかったらしい。

 そんなときに出会ったあたしの魔法使いとしての能力にステラは強く魅入られたらしいのだ。

 規模の大きいイベントに参加してランキングにつめあとを残すくらいリルファンタウンをガチでやりこむには、チームプレイは避けられない。この当時だってこぞって女の子は仲良しとチームプレイを楽しんでいた。あたしはその友達がいなかったのでソロで遊んでいたわけだけど(だからソロでランキング入りするリルファンタウンプレイヤーなんて、女子小学生業界では「友達がいない子」「ぼっち」とイコールだったりするからあまり名誉なことじゃないんだけど)。


「あんたとあたしが組めばリンピーどころか市内で一番になれるよ、絶対」


 好きでソロで遊んでいたわけじゃないあたしは、いつか誰かチームに誘ってくれないかな、なんて、実はとちょっとだけ期待していた。

 だけどそれが、クラスで一番怖くてきれいな女の子だったなんて……!


 怖い! 何かの冗談だ! って恐怖の方が先に来る。嬉しいって感情は引っ込んでしまって出てこない。

 だって、同じクラスでステラ達悪ガキチームがどんな悪さをしているかをずっと目撃していたんだから。

 あたしはあたりを見回した。物陰にかくれている意地悪な同級生たちがだまされるあたしを見て笑ってるんじゃないかと警戒したのだ。


 教室内での絶対王者であるステラは首をかしげた。サバンナの小動物みたいにあたりをきょろきょろ見回して周囲の様子をうかがうあたしのおびえが理解できなかったらしい。そしてややいら立ちをにじませながら、答えをさいそくした。


「組むの? 組まないの?」

「あの、私とあんまり仲良くしない方がいいよ? 鈴木さんまで変なあだ名で呼ばれたりバイキン扱いされるよ?」

「ハァ?」

 

 自分で自分のことをこんな風に言うのは情けない。覚悟を決めなきゃ口にできないことだ。

 でもそれを聞いたとたん、ステラは思いっきり眉間にしわを寄せた。

 その表情が怖くてあたしは身をすくめる。その様子を見てステラなりに何かを感じたらしい。意味もなくしゃぶっていたアイスの棒を口から取り出すと、ニイッと笑った。


「それじゃああたしはあんたを魔女子って呼ぶのやめる。これからは真帆でいい?」

「う、うん」

「あたしのことは鈴木さんじゃなくステラな。返事は月曜まで待つけど、それまではまじめに考えろよな」


 ステラはそれだけ言うと座っていたベンチから立ち上がり、そんじゃあ明後日学校でな~と言いながら手を振って去っていった。

 ゴミ箱にアイスの棒を捨てる後ろ姿までさっそうとして、ついつい目で追ってしまう。ポニーテールが左右に揺れていた。あたしの髪もあんな風にまっすぐだったらいいのに、とちょっと思った。くせ毛は今に至るまで、あたしの悩みの種の一つだから。


 

 二日後の月曜日、いつものように教室の隅で地蔵のようになって休み時間をやり過ごそうとしていると、またヒソヒソくすくすと囁かれる陰口が耳に入る。

 お気に入りの魔法使いの物語を読むあたしの耳にわざと入れようとしている「魔女子」のあだ名。

 

 きゅっと心臓が縮みあがったがその瞬間、ガタンと机やいすがひっくり返されるような激しい音がした。次の瞬間、あたしへ陰口をたたいていた女子が床の上に倒れていた。

 鼻血を出しながらも何が起きたのかわからない女子をたった今殴りつけたばかりのステラが見下ろしてていた。

 突然の暴力沙汰に頭の中が真っ白になっているあたしの方へ、ステラは明るく笑いかけた。


「これでお前のこと魔女子って呼ぶやつはいなくなったぞ、真帆。だからあたしとチーム組めよな」

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