今後の進退について、その2

「馬鹿みたいだなあ」

 景は自宅のベッドの上で自嘲気味に口にする。

 結局、景は恵のことをなんにもわかっていなかったのだ。同時に景が夢を見すぎていたのかもしれない。

 付き合いが長くなったらお互いにわかり合って結婚して子供を作って、だなんてそんなこと思うほど簡単なことではなかったのだ。

 ちゃらんぽらんな恵はどうかと思うけど、それを見抜けずにのうのうとしていた景にも責任はあると思う。

 だからせめてきちんと別れることにした。

 恵は恵で景と別れたがっているのだから、そう難しいことではないのかもしれないけれど、それでもきっぱりすっぱり後腐れなく別れたかった。

 男女が別れたあとの付き合い方は色々あると思うが、景はその後も友達付き合いを続けたりしたくない。だからこそ、その後の付き合いを引きづらないように、ばっさりと別れる必要がある。

 景は作戦を練る。当然恵は景の自宅を知っている。ならば引っ越しをしよう。ちょうど今の家の更新時期も近いし、長いこと住んでいたので引っ越しのタイミングとしては悪くない。そのためには恵の家にある景の私物も引き上げたほうが良いだろう。それはきっと簡単なはずだ。恵はそういうことに頓着する質ではない。

 別れた後、もしくはその直前に電話とメール、その他連絡手段はすべて拒否しておくことにする。その手の手続きは面倒だが、やらない面倒よりやる面倒なのだ。

 それらのやるべきことをリストアップして、必要な情報を調べたり書き出したりする。やらなくてはいけないことは山ほどあった。

 しかしやる時はやる景なのだ。思い立ったら即実行であり、こうと決めたら基本的には譲らない。景の心はわずかに高揚し始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る