第3話 虚の戦闘描写など

 俺は虚……名前は無いがそう自分で読んでいる。常に楽しみを追い求めているのだが、どうも楽しめない……その理由は俺の能力にあった。自らを虚といった存在。それは生物なのかも分からない。そいつは実体も無い。そして現在も俺は近くにいるウサギを見る……だが、そのウサギも俺と同じ様に自分を見ようとしているのだ。


「はぁ……またか……」


 虚は念力で声を出す。まずこの存在に発声器官などは存在しない。今ある姿も仮に作っているだけだ。そしてウサギもふーっと息を吐く……そう虚と言われる存在の能力である。この能力は無意識に発動してしまい、他の存在は虚と同じ思考をするようになる。


「ウサギじゃつまらないな……何も楽しめやしない……他を辿ろう……」


 虚は空間を移動した。もともと実体が無い事もあり移動手段はワープだ。そしてウサギも自分の住処へと足を進める。その速度には天と地程の差があるのだが、ウサギに己の意思など既に存在しなかった。


 そして、虚は他の世界に来ていた。


「この世界に俺を楽しませてくれる輩がいれれば嬉しいのだかな……」


 そう虚は呟く。虚は別の空間も移動が出来る。そして虚の能力は別の空間でも発動する。例え相手が別の空間に居たとしてもだ。虚がこの世界に来る前にこの世界には勇者と言われる存在がいた。だがその勇者達は虚がそこを訪れる前には既に虚と思考が一致していた。


「この世界に俺を楽しませてくれる輩がいれば嬉しいんだが……」


 多少の言葉のニュアンスは違えど思考は一致していた。そして虚が勇者達の前に降り立つ。


「虚という存在を殺す」


 虚は自分自身を殺すと言い放ち自分を攻撃しようとした。この一見何も意味が無いような行為。だが、虚の能力が発動している以上相手に自分を殺させるにはこう考えるしか無かった。そして勇者達も虚の目論見通り同じ様に虚を狙う……だが、


「やはりダメか」


 虚が手を緩めると勇者達も手を緩めた。そう虚のもう一つの能力、それは自分は直接干渉できず相手も干渉できないと言うものだ。他の存在は虚に攻撃を放っても一切干渉はできない。それは勿論自分もだ。虚は話す事は出来る。そして相手にも伝わる。そして思考を同一化させることはできる。だが、直接は干渉出来ないのだ。


「ここもダメか……俺を楽しませてくれ」


 虚はそう言う。だが相手も同じ事を呟く。


「ああ、そうか、俺は仲間と戦いたい。本気で」


 既に諦めの境地に至った虚はそう口にした。否や、勇者達は仲間達と本気で戦い始めた。虚も仲間と言うものが見えた様に本気で戦っている。だが、虚は何も起こっていない。干渉出来ないのだ。そして仲間なんていない。虚は勇者達を想像して戦っているのだ。本気で。どうやって痛めつけようかと……その間虚は本気で楽しそうに戦う想像をしていた。


 そして、それに合わせて勇者達も傷を負っていく。だが暫く時間が経つと、虚は飽きたかの様に投げやりに言い放った。


「はぁ、つまらない!つまらない!やはり俺は駄目なんだ!こうやって他人に干渉し、自分は干渉出来ない!そして、他の奴は俺と同じ事を考える!そんなの全部結末が分かってるじゃねえか!何が自分の思い通りになればいいだ!ふざけるな!」


 虚は中身が変わったかの様に癇癪を起こす。


「こんな人生意味なんて無い……!俺がいても駄目だ!死ぬ!俺は死ぬんだ!うおおおぉぉぉ!」


 虚は気が狂ったかの様に暴れ出し死のうともがき始めた。





 そして暫くの時が経った。


「……またか……」


 虚の周りには勇者達の自殺した死体が転がっていた。だが虚は無傷である。何故なら、直接干渉出来ないのだから。


「また次を当たるか……」


 そして虚は次こそは自分を永遠に楽しませてくれるものがいると信じて探しに行った。


 そして、とある日の事だった。


「やぁぁぁ!」


 最初に、自分に攻撃を入れた奴が現れた。目にも止まらぬ強烈な一撃。だが、当然攻撃は虚をすり抜けてしまった。そいつは認識されない能力を持っていたのだ。しかし、虚に攻撃は入らない。そいつは攻撃を虚に当てる事は出来ない。直接干渉出来ないのだ。そのまま虚はそいつの存在に気がつかないままその世界を去って行った。


 もしも、そいつが攻撃を当てられたとして無駄だっただろう。そして虚には実体なんてものは存在しない。虚の能力は一度でも存在を察知した時から無意識に発動する。ダメージを受けたということは何かが起こった。それはつまり現象を認識する事を意味していた。虚はその現象ごと認識して無意識にそいつの思考を奪うだろう。


 一度消滅系のスキルを使う奴と出会って虚は自分自身を奴に消滅させると言う事を考えた……だが、結果は駄目だった。そいつは空にひたすら消滅の効果を伴う攻撃をしたのだ……そして虚は消滅しなかった。そう、干渉出来なかったのだ。虚は自分を楽します強者を求めて今も彷徨う。

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