『タンタリウスの大樹竜』-4
さて、長々と聞きたくもねぇ自慢話……自慢話? ま、とにかく長々と付き合わせちまったな。……そうかい。ま、お仕事だもんな。世辞でも嬉しいっちゃ嬉しいもんだが。
ま、後はそんなに時間が掛かったわけじゃない。
『リーダーの武器のグローブをそのまま拝借して、大樹竜をぶん殴った』、それだけだ。
……詳細に話せって言われても、あそこからちょっと記憶が怪しいんだよ……頑張って思い出してみるけど。
そうだな……リーダーを触手から救出した俺は、更にリーダーから指示を受けたんだ。
「これ以上、どうしろって? 流石に俺も、今ので疲れちまって……」
「なら、俺の分のも使え」
何を、と言われる前に、太股に何かが刺さる感触。まだ感覚が麻痺してるから、痛みまでは無かったな。
見てみれば、リーダーがその手に持った何かで、俺を刺していた。
その手をどければ――あらやだ、筋力増強剤ではあーりませんか。
「ちょ、何して」
「ついでにこれもだ!」
そう言うなり、リーダーは続けざまにもう一本、今度は活力増幅剤の方を刺してきやがった。
また、脳がハイになる。
「ホント何してんだァァァァ!?!」
「よし! まだまだ元気だな!」
「アンタも十分元気だろ!」
「こっちは肋骨が1・2本折れてるなんてレベルじゃねーんだよ馬鹿!」
「じゃあなんで平然と喋れてんだよ!」
「気合と、根性!」
「知ってるよ!」
「なら聞くな! ……フゥ」
そんな不毛な
あ、リーダーにタメ利いちゃったのは気にしないで、頼むから!! お願いだから上には言わないで! アレ打たれちゃうと変になっちゃうの! ……気色悪いは無いでしょ、畜生め。
眼前のクソトカゲは、気づけば炎上していたはずの頭が沈下していた。あの肺活量で火を消したのだろう。だが、先程赤熱化バットでブチ空けた穴はそのままだ。
「ハハッ、再生する必要も無しってか。帰りたい」
「給料欲しけりゃ働け。逃げ出したくなっても働け」
「で、それ以上に殴る為に働け、でしょ?」
「なら、さっさと野郎の核を見つけ出して殴れ」
「何処にあるかの検討すら付きませんぜ」
「どうせ体内にある」
「……冗談でしょ? 根拠は?」
「お前よりも長い経験と、お前より頼れる勘だ」
「……オーライ。やってやりますよ」
「行ってこい。ぶっ倒した暁には、お前をAランクに推薦してやる」
「ハッハッハ、よぅし、程々にがんばるぞー」
「嫌そうな顔してんなお前な」
「そんなまさか」
ん? 話長い? 大丈夫大丈夫、あのクソトカゲ、調子ぶっこいてんのか俺一人倒すのは余裕だと思ってんのか、こっちをじぃっと見つめてたんだよ。で、攻撃も何もしてこないでやんの。随分舐められたもんだよな。
で、随分余裕綽々なもんだから、こっちも余裕を見せて、Cクラスの連中にリーダーと、あと負傷したBクラスの仲間を連れて下がらせるように指示を出した。
「……頑張ってください」
「応よ」
カーッ、Cクラスって基本的に使い潰される定めみたいなもんだから、大体こっちに対しても無愛想なのばっかなんだけど、あの時頑張れって言われて、思わず感動しちゃったね! でも俺、ホモじゃねぇよ! 報告書に俺がホモって書いたら殴るからな! あとゲイでも駄目! 別に差別の意図はねぇけど念の為な!
……ゲフンゲフン。まだ活力増幅剤の効果残ってるわけでもないのになぁ。
とにかく、俺はそっから、再びクソトカゲに向かって駆け出す。
だが、まだアイツは余裕そうだった。こっちが傷だらけなのを見て、「所詮、矮小なミジンコなどこの程度……」とか思ってたんだろうな。それはそれで好都合だった。
俺自身、筋力増強剤でどれだけ強化されたのか実際のところ計測も何もした事はなかったんだが、多分俺達の落下地点と奴との距離は、20・30メートルぐらいは離れてたかな。
奴はここに根付いているのか、当然動かない。
で、俺は二歩ぐらいで、クソトカゲの喉元に再び肉薄した。あまりもの速度に、奴も反応できなかったらしい。
『IMPACT BOMB, STAND-BY』
先程このグローブで打った時に相当な威力がある事は、哀れな触手君が証明してくれた。だから、奴の喉元に打ち込むのに、何の躊躇いも無かった。リーダーが頭部に殴った時は――そもそも別の攻撃だったのかもしれないが――砕け散ったりとかそういう事は無かったが、喉ならまだやれるだろうと、そんな考えからだ。というか、他に殴れそうなところなかったし。
……え、地面? あ、なるほど。地面を割ってそっからって意味ね。その発想は無かったわ……てか俺より竜殴りの事考えてない……? あれ、俺ちょっと残念じゃね……?
……えー、それでですね。俺はそのグローブの機能を発動させ、そして殴ったわけですよ。
すると、ボカン、って爆発音がして、喉にでけぇ蜘蛛の巣が出来上がった。
……分かってるよ、国語力が足りないって事ぐらい。俺はただありのままをだな……まぁ、いい。
そんなでけぇ蜘蛛の巣のようなひび割れが出来上がったわけだが、穴が空いたわけじゃねぇ。だがこの状態、逆に言えばあと一発ぶち込めば穴が空くってわけだ。
そう思った俺はそのまま、もう一度グローブの機能を起動させ、思いっきし殴った。
「どぉぉぉっせぇぇぇい!!!」
そうすりゃものの見事に、クソトカゲの首に立派な穴が空いたってわけだ。空いた穴から、ブワッと空気が勢いよく噴き出し、俺は何とか耐える。
「よかったなぁ! こっから栄養を直接入れられるぜ! その第一号は俺だがなぁ!」
とりあえず煽るだけ煽り、今度はポーチから小振りの懐中電灯を取り出し、マスクのこめかみ辺りにセットした。
喉の中を覗いてみれば、まるで森に転がってるような中が空洞になった枯れ木のようだった。マスクをしているから臭いまでは分からないが、下から吹きあがってくる生温かい空気が、臭そうというイメージを俺に与えた。
植物だから案外いい匂い……いや、樹木臭い?
下の方まで光が届かず、底がまるで見えない。だが、迷ってる暇はなかった。
どうせ、クソトカゲは俺の背中を狙ってるんだ。なら、選ぶべき道は一つしかない。一方通行だ。
「バンザーイ!!!」
俺は躊躇なく、その穴に飛び込んだ。ま、高いところから落ちるのはクソトカゲと戦ってりゃ嫌でもなれるからな。それに、生きたまま任務が終われば、医療部門で怪我ぐらい幾らでも直せる……って、そら知ってるわな。
どれぐらい落下しただろうか。なんとか体内の壁面に沿って落下していると、下の方が段々と明るくなっていくのが見えた。
まさか、上に向かって落ちてるわけでもなし。つまり、アレは体内の何かしらの器官だろうかと思ったわけだ。願わくば、アレが核であって欲しいとも。
グローブで殴った反動でバットを壁に突き刺し、落下速度を減速させながら俺はその光を目指す。
「……なんだありゃあ」
果たして、それはクソトカゲの臓器でも何でもなかった。奴が体内で飼ってた寄生虫。と言っても、昆虫図鑑でも見た事ないような種類の、しかも俺と同じぐらいの大きさの、赤く発光する羽虫が迫ってきているのだ。デカいのは恐らく、クソトカゲの栄養を奪ってるからだろうか。
こんだけでけぇ図体なんだ。栄養も半端ねぇだろうな。
「邪魔だぁ!」
鎌のような顎を広げて俺に噛みつかんとするそいつに、俺は正面からバットで殴った。
ま、クソトカゲ殴るよか楽だったわな。それはもう、グシャッてな感じで頭が潰れた。
でも、ソイツが一匹だけってわけじゃない。奥の方から、更に数匹飛んできた。どいつもこいつも、体を発光させてやがる。どうも、クソトカゲの方もこいつらを一種の防御機構としていたらしい。つまり共生関係、言い換えるとWin-Winの関係ってやつだな。
そっからはまぁ、向かってくる羽虫を千切っては投げ、千切っては投げの繰り返しだ。いくらでかいと言っても、俺は一直線に落ちるだけで後は突っ切ればいいだけだし、そんなに強くないし。
で、特に苦戦する事無く、俺は遂に、それらしいところに辿り着いた。
滑り台のようにスポーン、と放り出された先、その眼前に広がったのは、さっきまで戦ってたクソトカゲの首と頭以上に巨大で、緑色に光る球体の何か。
「……ちょっと待って想像以上にデカァい」
そのあまりもの大きさに、開いた口が塞がらなかったね。しかも、あちこちから伸びてるツタみたいなので空中で支えられてるんだから、物理法則もあったもんじゃねぇなと。この仕事で物理法則とか常識とか頼る方が間違いなんだけどもな。
で、どうやってこのえげつねぇのを倒したかだけど……こればっかりは、俺一人でなんとかしなきゃならなかった。
「リーダー、これは流石に……リーダー? リーダー! ……マジかよ、通じねぇ」
なんせ、通信機の電波が届かないからな!
そんなこんだで、俺はクソトカゲを殴る為の脳ミソをフル回転させて考えた。
アレは俺が殴った程度じゃどうにもならなそうだったし、他に手を考えるしかなかったんだ。直接殴って解決出来んのは、それこそSクラスの連中ぐらいじゃないだろうか。
だから、俺は遠回りな方を選んだ。アレを支えているらしい周りのツタを切って、落下させちまおうって魂胆だ。
だが、時間はかけられない。どうやらこの緑の光球体が、酸素を放出したり、逆に二酸化炭素を吐き出したりしてるらしく、支給された計器の酸素・二酸化炭素濃度の数値が出鱈目な事になっていた。
しかし、だからといって簡単なわけでもない。まさか、落ちてくるだけで到達できる場所にある重要そうな器官に、防衛機構がないとでも?
案の定、さっき襲い掛かってきたデカい羽虫がワラワラ飛んでくるし、しかも上で見た触手の二倍三倍が襲い掛かってくるんだからたまったもんじゃない。
「死ぬッ、死ぬぅ!」
そりゃもう、悲鳴を上げながらワーワーってなるわな。いくら腕が折れようと千切れようと、戻ってくれば大抵治せるっつったって、これは怖すぎるだろ。しかも――あの時はそんな事考えてる暇無かったけど――倒したとしても、体内から脱出できるのかすらわからなかったんだから。
後はもう、根性だ。「クソトカゲを絶対殴る」、ただそれだけを考えて。
冷却が完了したバットでツタをぶった切り、時にはグローブの衝撃波で羽虫諸共ぶっ飛ばしたり、いきなり緑の光る球体……いいや。便宜上、光球体としよう。その光球体からビームが飛んできたり……。
「ぎゃあッ!? 野郎ォ、自分の体内が焼けても構わねぇのか!? てかなんでビームが出るんだよ!」
後で科学部門の連中から聞いた推測によれば、光合成で溜め込んでいた光のエネルギーを放出してるんじゃないか、だと。下手すれば体外に放出する可能性すらあったらしい。なんでそうしなかったのかはぶっ倒した今じゃ分からんが、世界のクソトカゲに常識なんて通用しないって、改めて知った瞬間だったな、アレは……。
とにかく、俺は側頭部を逆にぶん殴られたり、羽虫の顎で太股を若干抉られたり、背中をレーザーで焼かれたりしながら、ツタをぶっ千切ってやった。
シメは……まぁ、分かるだろ?
「オッッッルァァァ!!! 落ちろよやぁぁぁ!!!」
しぶとく二本のツタで自重を支えている光球体を、俺はトドメとばかりに上からぶん殴って落としてやった。
……そりゃ、登ったに決まってるでしょうに。重力のパワーと殴打の威力の相乗効果がどうたらこうたら。この為だけに登った甲斐があったってもんだな。
ま、最終的にぶん殴って倒せるなら物理法則だの理屈だの、どうでもいいんだよ!
……オホン。そんなこんだで光球体をブチ落すと、だ。グチャッて生々しい音立てて、地面……地面? とにかく、下に叩きつけられた。
で、こっからがまた参ったんだが、ほら、俺って上から光球体を殴って落としただろ? で、それがクッション代わりになったのは良かったんだが……元々表皮か何かがかなり軟らかかったんだな。そのままズボッて、光球体の中にめり込んで、中に入っちまったんだ。
そこからは、気を失ったせいで何も思い出せない。精々、グワシャアって崩れる音が遠巻きに聞こえたぐらいで、気づいた時にはもう、俺はそこから引きずりだされて、目を開けると知らない天井でしたってわけだ。
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