あるB級エージェントの報告-インタビュー終了。そして――


「――以上が、タンタリウスにおける作戦の、俺が覚えてる限りでの一部始終だ。後は病院でやたら検査したり、今みたいな聞き取り調査を受けたりって感じで、何が何やらって混乱してるトコ」


――なるほど。大樹竜体内における戦闘はともかく、αチームのリーダーからの報告と照らし合わせても、さして差異は見受けられませんね。


「生憎、英雄志向はないもんで。俺はクソトカゲを殴れればそれでいいんだ」


――あくまでも、名誉には拘らないと。


「……あー、でも嘘ついて病院を抜け出してまでクソトカゲを殴りに行くようなエージェントもいるって話もあるけど、どうなんだろうなぁ……」


――……では、これにてインタビューは終了……と。あ、あと伝えなければならない事が。


「……? 何を?」


――実はこれ、インタビューじゃありません。


「……はい? え、じゃあ超時空広報のインタビューってのは……」


――嘘です。実のところ、これ面接みたいなものでしてね。


「……何の?」


――Aクラスエージェント昇格認定試験のですが。


「……一応訊くけど、誰の?」


――勿論、貴方の。


「えっ」


――おめでとうございます。エージェント・スラッガー。貴方はこれまでの任務で相応の戦績を残し多くのクソトカゲを殴り、全世界における人類、及びそれに類する種の存続に貢献し続けた事を、ここに表します。


「…………」


――つきましては、後でそちらに管理部門からAクラスエージェント認定証明書が発行されますので、忘れずに本部に受け取りに行くように……おや、どうかなさいましたか?


「……あの、まるで話に着いてけないん、ですが。えっと、アンタその……お偉いさんか何か?」


――ま、ここまで来て隠す意味もありません。……ふぅ。全く、インタビュアーの真似事なんて、慣れない事をするもんじゃないですね。


「ち、ちなみにどちら様で……?」


――ああ、私は、こういう者です。


「……これって、Sクラスの証明カード? ……Sエージェント、No.012……まさか……」


――おや、ご存知で?


「……竜殴りの女傑、ドラッケン・リン」


――ドラッ・リンです。ドラッケンでもなければ、ドラッヘンでもありません。


「あ、そういう名前なんですね……すいません、正確な名前は聞いた事が無かったもんで……あ、眼鏡美人で素敵デスネ」


――どうも。あまりにも唐突過ぎて、なおかつ棒読み気味ですが、誠意は感じられるので気にしないでおきます。


「そ、それにしても、なんで貴方が面接を……?」


――本当なら、αリーダー……エージェント・ボクサーが貴方に昇格を伝える予定でしたが……少し事情が変わりましてね。いやはや、確かに体内に侵入して、大樹竜の撃破に成功した方はいましたが……まさか……。


「まさか……なんです?」


――いえ。これは今語るべき事ではありません。貴方自身もおいおい気づくと思いますし。私、ネタバレはあまり好かない方でして。


「へぇ。俺はネタバレされても楽しめる方……すいません。言わなくてもいい事ですねこれ」


――いえ。お互い知らない事ばかりのようですし、こうしたコミュニケーションは実際重要です。


「……ところで、さっき仰ってた事なんですけども。大樹竜を撃破したエージェントが『以前にも』いたと、そんな風に聞こえたんですが、それは……」


――ええ。そうですよ。大樹竜はAランクのクソトカゲの中でも圧倒的な生命力を持つクソトカゲとして知られてますし。一度倒しても、一定周期が経てば再び息を吹き返して活動を始めるので、昇格試験がてら、定期的に殴っているのですよ。言うなれば、惑星そのもののバランスの維持の為に行っているのです。想定される最悪のシナリオの場合、あのまま巨大化を続ければ、惑星そのものが大樹竜と化して、他の惑星を食べてしまいかねませんから。


「いやいやいや、今初めて知ったんですが。そんなにヤバいのだったんですかアレ。というか、貴方もクソトカゲって言うんですね……」


――……ああ。そういえばBクラスエージェント以下には、情報自体開示されていないんでしたか。


「え、そういうのあるんです?」


――エージェントにも色々いますから。基本的に、例えCクラスの人間だろうと、人材の損失はうちの組織にとって好ましくありませんからね。情報統制というやつです。


「……つまり、こういう事で? あの大樹竜はまだ生きてると?」


――その通りです。Aクラスに昇格するエージェントの試験の相手としては、十分な相手かと。他にも数種類いましたが、今回、大樹竜の活動期に入ったもので。


「……あと、もう一つ。リーダーもグルだったってのなら、γチームは?」


――ああ。そもそも出撃してませんよ? あのチームなら、その日は全員で休暇を取らされてましたし。本当に、あの飛行キチっぷりには参りましたよ。

「……そっか」


――それを聞いてどうするのです?


「いや……ただ、安心しただけっていうか」


――……全く。貴方は本当に変わっていますね。そういうところは美点と呼ぶべきでしょうか。他にもあるでしょうし、メモにでも取った方が……。


「……あの、なんでそんな俺の事知りたがるんで? 気がある……とかじゃないッスよね。でも、なんかこう、今後も俺と一緒にいる、みたいな……」


――……失礼しました。まだその辺りを話してませんでしたね。これから貴方はAクラスエージェントとして、更なる竜殴りを行ってもらうのですが……色々ありまして、私が貴方の教育係としてサポートに着く事になりました。


「サポッ……えぇ!? あの、貴方が!?」


――いいリアクション。ありがとうございます。では、私はこれで。それと、明日から早速任務がありますので、しっかり英気を養うように。大丈夫。貴方なら今日中には完治するでしょうから。


「ちょ……行っちゃった。……あぁ。そういや俺、Sクラス相手に、勢いだけであんな報告しちゃったんだよなぁ……なんか恥ずかしくなってきた」





音声記録オーディオファイルNo.0467-再生終了』


『タイトル:第37次タンタリウスの大樹竜攻略戦及びエージェント・スラッガーAクラス昇格試験インタビュー』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る