第9話 防具で防御力上がるのはわかるけど腕輪で上がるのはちょっと納得いきません

「魔王っ!」

日に日にアポロさんの口調が荒くなってきます。

以前も書きましたがアポロさんはかなり温厚なモンスターです。

「サディちゃん!アポロさんにアレ、アレ持ってきて!」

ここ最近体も心も疲れ気味のアポロさんにちょっとしたプレゼントを用意しました。

「これ、今の戦闘が落ち着いたら行ってください」

「魔王、これは?」

「妖精地区にある旅館の宿泊券です。あそこの温泉、羽年齢が5歳若返るって有名ですからね」

「妖精地区って…。あそこフェアリー属性ないと入れないじゃないですか?」

「そこを妖精の長に頭下げて特例で認めてもらいました」

まさか土下座までするとは思いませんでした。

「ちゃんと5人分ありますからお孫さんも連れてゆっくり羽休めして下さい」

「魔王…」

「そのためにも早くあの勇者に倒してもらわないとなりませんね笑」

「はいっ。なんかちょっと元気出てきました。よ〜し、倒されるぞぉ〜!」

いつものアポロさんに戻ったみたいで良かったです。

土下座までした甲斐がありました。

「で、魔王。実は、、、」

「装備の件、ですね?」

「ご存知だったんですか?」

「すみません。2度も伝え忘れてしまって…。私の落ち度です。で、いま勇者達の装備は?」

「勇者と黒魔術士はデフォのままです。ですが…」

「?」

「剣闘士と白魔術師は皮の防具です」

あれ?なんででしょう?

「剣闘士の初期防具って確か鉄の鎧ですよね?白魔術師もロングローブじゃなかったですか?」

「そうです。なのにあいつ、わざわざ購入してまでグレードダウンさせてるんです。私ね、普通なら与えるダメージ5なのにそんなもんだからあのパーティに40も与えられちゃうんです。この『咬ませ犬のアポロ』の異名を持つ私が普通に全滅させちゃうんです。私、あいつが何考えてるかわからなくなってきました」

「わかりました。私の方でキツく叱っておきますから」

「お願いします魔王。私これ以上戦闘に体が耐えられない…」

「お気を確かに!次で、次で終わらせますから」

「それなら…いいのですが…」

不安ですよね?

私もです!


「サディちゃん!メイルさん呼んでもらえますか?」

呼ばれて出てきたメイルさんがサングラスをかけてました。

「メイルさん、どうしたんですか?そんなサングラスなんてかけちゃって」

「あ?なにが?」

グレたのですか?

「あのぉ、またお願いしたいことがありまして…」

「あ?あいつ?あぁ、わかった。連れてきてやるよ。ただし!無傷で連れて来れるかはわからねぇからな?」

えっと…どっちがでしょう?

「拒否ったらバチコーンやって首に紐つけてここに連れてきてやっから」

なんか…非戦闘員だったメイルさんがエルさんに勝っちゃったもんだから何か勘違いが始まったみたいでした。

「え〜っと、出来れば穏便に…」

「だぁかぁらっ!それはあいつらの態度次第だからっ!ナメた口聞いたら俺バチコーンいくから」

「あ…え〜っと、はい。とりあえずよろしくお願いします」

「大船乗った気でいろよ」

オラつく態度とは違ってパタパタと可愛らしく窓から飛び立っていくメイルさんを見送りながら、何事もなければいいなぁって思いました。



「えっと…魔王様、エル様を、いてっ、お連れしました…あ、やめて」

「エルさん、メイルさんの首につけた縄を解いて下さい!」

「だってコイツ弱ぇクセにナメた態度とるからちょっとムカついて笑」

メイルさんは非戦闘員です!

しかもあなた、こないだその非戦闘員にいい勝負で負けたじゃないですか!

「ちくしょテメェ覚えてろよ!」

縄が解けた瞬間にエルさんが手の届かない高い場所まで飛び立つと威勢良くまたオラつくメイルさんでした。

「うっせボケ!笑。悔しかったら魔法くらい使えるようになってから来いやチビ!」

だから非戦闘員なのでずっとLevel 0のままで魔法覚えませんから。

「で、今日はまた何?ちゃんとパーティ組んだじゃん。用事あるなら魔王が来てよ〜」

私ラスボスですよ?

そんなイベントがあるなら行きますけどまだ当分ないんですから。

「今日は装備についてお話ししたいと思いまして」

「サディちゃんは?」

「………サディちゃ〜ん、エルさんにコーヒーとスライム水ようかん持って来てもらえますか〜!」

「コーヒーに羊羹?」

「すみません。今ちょっと紅茶もジャパン茶も切れてまして」

「用意しといてよ〜」

あなたのせいで最近来客が多いんですよ。

「本題に戻りますよ。アポロさんから報告があったんですが、エルさん装備がおかしいみたいなんですが」

「ごおががあ?」

あ、水羊羹食べてからでいいです。

「そうかなぁ?」

「エルさんと黒魔術士さんの装備がデフォなのは良いとして、どうして剣闘士ちゃんと白魔術師ちゃんの防具をグレードダウンしてるんですか?」

「見た目」

やっぱりですか…。

「だってあんなゴツっとした鎧じゃ色っぽくないじゃ〜ん。それに長いローブだと露出少ないしぃ」

「エルさん」

「なに?」

「旅のぉ、目的ぃ!」

「目的は魔王倒すこと」

「でしょ?早く先に進んで下さいよぉ。エロ目的で最初のアポロさんから進めないって本末転倒ですよ」

「けどさぁ、戦う時はそりゃゴツっとした露出の少ない方が防御力高いだろうけど、俺ら移動するときの方が時間長いんだよ?なら戦闘してない時の方を重視したくなるのは男として当然じゃないっ」

むしろ戦闘を重視しなきゃならないと思うのですが…。

「エルさんわかってないですねぇ」

「なにがっ!」

「剣闘士ちゃんの防具は剣を振りやすいように細かく分割されています」

「知ってるよ」

「胴を守る部分と肩を守る部分は分割されます」

「たから知ってるってば」

「アポロさんのように空を飛んでいるモンスターに攻撃する時はどうします?」

「どうしますって、そりゃあ剣をこう上段に構えて…はっ!」

「わかりましたか?」

「脇チラ…」

「そうです。女剣士ちゃんは気が強い性格とはいえやはり女の恥じらいはあります。裸の上から鎧は着ません」

「確かに、黒い水着みたいなの下に着てる」

「黒い水着じゃありません!あれは、、、」

「ブラジャー。そう思い込めば良いのか!」

わかってきたじゃないですか。

「エルさん?気の強い女の子がたまに見せる無防備なブラチラ、お嫌いですか?」

「大好きです!」

「鉄の鎧を装備しましょ」

「はいっ!ごめんなさいっ!」

いい子です。

「ロングローブも同じです。今は肌が見えなくてもいずれスリットが深く入ったローブを売ってる町があります。ショートのものだってあるんです。いいですか?時々見るからドキドキするんです。いつも露出してたら痴女と同じです!すぐに見飽きちゃうんですよ?旅は長いのですから長く続けられる楽しみを持たなきゃ」

「魔王の言うこと、わかるよ」

チョロくて助かります。

「それからコレ、差し上げます」

「何これ?」

「私と直で連絡が取れるペンダントです。ココ押したら私と繋がるので今度アポロさんにアタックかける時に連絡ください」

「連絡してどうするの?」

「直接私がアポロさんの倒し方を指南します」

これ以上長引かれたらアポロさん本当に死んじゃいます。

「ん〜〜〜〜〜…わかった。じゃあみんなのレベルが5になったら連絡するよ」

「そうして下さい」

これで始まりの村は攻略できそうですね。

「じゃ戻って装備直してレベル上げしなきゃ」

「テレポ使います?サディちゃんに会っていきます?」

「今日はこのまま帰るよ。押してばかりじゃ口説けないからね。たまには引かないと」

「そんなテク誰から聞いたのですか?」

「村の教会にいる神父さん!」

相変わらず古いですねプーシンさん。

だからずっと結婚できないままなんですよ笑。

「はい、テレポ。じゃ連絡待ってますね」

「うん、待っててね。すぐレベル上げて連絡するね。またね〜」

「はい、また」

エルさんが消えていきました。

これで悩みのタネもひとつメドがつきそうです。

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魔王さんと勇者さん 灰猫 @happykoyuki

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