一章 十話 國崎班

第一章「再会」

第十話「國崎班」


◆國崎

 アルタライト関連のことを考えると、やはりALPが気がかりになる。部下や同僚が関わっていないか心配だ。

 聞き出すのは……いや、やめておこう。かなりリスキーだ。


 そんなことを考えていた俺はあっという間に職場に着いた。

「おはよう」

「おはようございます!」

「おはようございます」

「おはようです!!!」

「…おはようございます……」

 俺が部屋に入ると複数人の挨拶が聞こえる。男二人と女二人の声だ。

「いやぁ~この間の事件の処理大変でしたよ~!」

「ああ、アレの処理はきついだろうな。なんてったって銃撃があって死人が出たんだ。死人が出てない事件と比べたら処理する案件の数も段違いだ」

 伍快健蔵。

 接近戦を得意とするレーザーソード使いの新人。去年訓練学校を卒業した20歳。

 どうやら「革命の英雄」なんてレッテルを張られた俺に憧れてるらしい。コミュニケーション能力が高いのか職員と積極的に話をしてくる。

「でもまさか、俺達狙撃部隊要らずで終わるとは。流石です、先輩」

 楽原真司郎。

 冷静沈着で狙撃が得意な伍快の同期。ALP狙撃部隊にも所属する一流のスナイパーだ。

 距離が基本的に近い伍快とは正反対で、どんな人物にも一定の距離を置いている。

「私はあの時ラーメン食べながらテレビで様子見てました!!」

「ニンニクは?」

「もちろん、マシマシで!!!」

 阿藤奈々。

 班の事務担当の22歳。戦闘能力は戦闘員ではないので低いが、拳銃の成績は悪くない。

 声が大きく、とにかくラーメンが大好きである。次の日が非番だとニンニクを盛りに盛る。非番じゃない日は普通に盛る。

「……ちゃんと歯磨きました……?」

「あたしを誰だと思ってんの! 絶賛彼氏募集中の22歳だよ!? そこら辺のケアはちゃんとしてますぅ~!」

「奈々先輩……声、でか過ぎ……」

「はァ!? 先輩に向かって何言ってんの!?」

「先輩……若干、ニンニク臭いです……」

「ゑ……?」

 秦野陽子。

 奈々の後輩の21歳。同じく事務担当であるが、同期の中では拳銃の腕前はトップクラス。

 前髪が長く、上から見ると目が隠れてる。名前と対照的で暗い印象を受けるが、発言を聞くと結構いい性格をしていると思う。

 この四人に俺を加えたのが自称ALPの精鋭、通称「國崎班」である。自称とは言うものの、個人的な体感としては平均的な戦闘能力は他の班と比べてかなり高いと思っている。実際、俺達の班は「最強の若手部隊」をコンセプトに選ばれたメンバーで構築されている。


 まあ、体のいい厄介払いなんだろうが……。


 こじんまりとした仕事部屋に備え付けられているテレビを、阿藤がつける。

『日本機械科学研究所では、ワープシステムのテストを先日募集していましたが、一昨日からテスターの元へ配達を開始したそうです。テスターは非公開ですが、その目的は確実に転送できているかなど、最終調整を行うためのもののようです。』

「もう始まったんだ!」

「ワープシステムか。 ロシアの方ではもう実用レベルまで進んでいるそうだが、日本もやっとここまで来たか。 まあ、そのロシアの技術力でも人のワープはまだ出来ていないそうだが。」

「ワープ…、夢が広がりますね!」

「ああ、戦略的にも、ワープシステムの登場で大きく変化するだろう」

「…聞いたことあります。 向こうではもともと軍事利用が目的で作られたとか……」

「たしかに、武器の調達とか奇襲とかにも使えそうだもんなあ~、楽原?」

「ちょっと静かにしてもらっていいか……?」

「ああ、悪い……」

 楽原は集中しているときに話しかけられるのが嫌いなタイプだ。上司として、その友達ができない性格が若干心配である。

 テレビをつけながら各々仕事をする、結構自由な職場である。まあ、俺が堅苦しいのが苦手なだけなんだが。


 昼食はみんなが食事を持ち寄って職場で食べるか、外食かの二種類に分かれる。外食の時はグループチャットで全員に前日までに伝えておく。これは俺が当日いきなり用事ができることがすこぶる嫌いだからである。

 ……正直、警察という仕事とかなり相性が悪い。

 今日は外食の日だが、前日に店は決まらず、今日決めようということになっていた。

「私焼肉食べたい!!」

「そんなに金持ってませんよ……」

「ええ~? しけてるわねぇ。私は出さないけど頑張ってよぉ」

「今月は厳しいですよ。」

「そうですよ、俺達は給料低いんですよ? それに前も外食でラーメン屋行ったじゃないですか。今月先輩のリクエストで10回も外食ですよ? 口臭ケアもそうですけどスタイルのケアもちゃんとしてくださいよ。」

「はァ!? ……楽原君、いい度胸してるじゃなぁい……!」

「冗談ですよ。」

「あの……私は焼肉でも「大体ね!? 楽原君は年上に対する『気遣い』ってもんが足りてないのよ!!! 口が達者だからって調子乗ってんじゃないわよ!?!?」

「……先輩こそ、後輩に対する『気遣い』が足りてないんじゃないんですか?」

 やばい。楽原がキレた。

「先輩はいつも声が大きくてやかましいんですよ! ここ仕事場だって分かってるんですか!? 家か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

「何ですって……!」

「それに言わせてもらいますけど、伍快が金がきついって言ってるんですよ!? そんなんだから彼氏ができないんじゃないんですか!?」

「ちょっとそれは今関係ないでしょ!?」

「それに奈々先輩だって何か言いたげだったのにそれを遮って! いい年なんだから落ち着いたらどうです!?」

「いや、私は焼にk「大体あんただってせっかくみんなが話出したのにそれに乗らなかったりで、空気読めてないのよ!」

「あのわt「それは今関係あります!? 大体先輩なら焼肉ぐらい奢ってくださいよ! 我儘過ぎです!」

「あn「私だって外食するために色々削ってんのよ! 彼氏ができなくて食べることくらいしか趣味の無い私の何が分かるってんのよ! 後輩なら先輩の我儘くらい付き合いなさい!!」

「そこまでだ!!!」

「國崎先輩……」

「ヒートアップしすぎだ。いいか阿藤。先輩は後輩を導くものだ。我儘で振り回すものじゃない。」

「で、でも「でもじゃない!!!」

「……す、すみませんでした」

「楽原。お前の言いたいこともわかるが、少々口が達者過ぎだ。女性に対して身体的なことをいうもんじゃあない。自重しろ」

「すみませんでした」

「そして二人とも。秦野がさっきから『焼肉でもいい』と言っていたことには気づいていたか?」

「「え?」」

「お前らはヒートアップしていて周りのことが見えなくなっていた。それは戦闘に巻き込まれる可能性が高いALPにとって致命的な欠点となりかねない」

「それは……」

「いいか?そもそも熱くなりすぎることは自制すべきだ。何が得策かを極限の状況で見極められるかが生死を分ける。……話がそれたな。まずは二人とも秦野に謝れ。話を遮ったのはお前らだからな」

「……ごめんね?」

「すみませんでした」

「で、結局昼飯はどうする? 解決してないぞ」

「あっ、そういえばそうっすね」

「私は……さっきは焼肉って言ってたけど伍快君がお金が厳しいって言ってたし、……変えてもいいよ?」

「あ、いえ。秦野先輩が珍しく自己主張してましたし! いいですよ! 心配しなくて!!」

「まあ俺も伍快がいいなら……」

「それじゃあ焼肉か?」

「そうっすね!」

 なんか秦野もうれしそうだ。そんなに食べたかったのか。

 阿藤はまあ、しゅんとしているけど食べれば元気が出るだろう。

「よし、今日は俺のおごりだ」

 そう言いながらマントを羽織り職場のドアを開ける。

 3秒後。

「「「「やったーーー!!!!」」」」

 現金な奴らの歓喜の声が聞こえた。


 ALPは残業はそこまでないが、代わりに事件が起きたら夜中でも呼び出される。こういう仕事だから仕方がないが。

 それは今日も例外ではなかった。

「はい、了解です。では現場で。」

「何の電話ですか?」

 伍快が聞いてきた。

「國崎班出動だ! 殺人事件だ!!」

「ええっ!? もうすぐ定時なのに!? それに事件なら警視庁に任せれば……」

「それに関しては俺も非常に残念だが仕方がない。今回はレッツェル主義も絡んでそうなケースらしい」

「それは……仕方がないですね」

「ええ!! 焼肉食べた後で死体を見なきゃいけないの!?」

「言わないでくださいよ奈々先輩……うぷっ」

「さあ! 行くぞお前ら!!」

 國崎班の出動だ。


第十話 了

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