一章 六話 再会(前)
國崎の戦い
一章「再会」
六話「再会(前)」
國崎真人は今、ショッピングモールにいる。普段は制服かジャージの彼だが、今は襟付きの長袖のシャツに薄めの茶色のチノ・パンツを穿いている。
なぜ彼がそんな恰好をしているのかというと…
「あっ、國崎さーん!」
少女の声が聞こえる。数日前、國崎と共にレッツェル過激派と戦った都宮零である。彼女は長袖のパーカーにジーパンを穿いており、ショートカットの髪と合わせて見ると、とてもボーイッシュな出で立ちとなっている。
「最近冷えますよね~。」
「ああ、先週まであんなに暑かったのにな。秋口は苦手だ。」
「あっ、私もなんですよ!ほんと、着るものを用意するのも大変だし気温を見極めるのも大変だしで…。」
「で、なんでこんなところでの待ち合わせなんだ?お願いならそこら辺の喫茶店でもいいだろうに。」
「まあまあ、お願いついでに付き合ってほしいことがありまして!」
「まあ、今日は非番だからいいんだが…。で、何に付き合ってほしいんだ?」
「この前、返り血を浴びちゃって服がダメになっちゃってその補填が私の口座に振り込まれたんですが…。なかなかの金額でして!前の服二、三着は買えちゃうくらいの!!」
「おお、そんなに入ったか。良かったじゃないか。」
「それでですね、せっかくなのでお高めの服を買いたいんですがね…。私そういうのには疎くて…。」
「いや、俺もだぞ?制服に頼りっきりだし、普段着はジャージだからな。」
「え!?そうなんですか?その服は??」
「ショッピングモールの待ち合わせ、しかも女性とのとなるとジャージはいかんだろ…。」
「あっ、気を遣わせてしまいましたか!?」
「いや、大丈夫。奇跡的に普通の服がタンスの奥で眠っていた。」
「あ、そうですか。良かったです。で、高めの服を選ぶのに私だとセンスがないんでせめて男の人に似あうか確かめてほしくてですね…。」
「なんで俺なんだ?他に知り合いとかは?」
「いるにはいるんですけど…。あの人たちだと頼りないし…。それに仕事が忙しくて手が離せないって言ってたんですよ。だから、せっかくだから今日会う國崎さんに選んでもらおうかと。」
「…まじか。」
國崎真人は、都宮零に呼び出され無理難題を押し付けられたのだ。
國崎と都宮はそこそこ値段のしそうな店の前に来た。
「一応俺は金はそこそこあるから好きなの買っていいぞ。」
「え!?本当ですか!!??」
「ああ、勲章やらなにやら取ってるから年金も貰えるしな。」
「はーっ。か、格が違う…。」
「あっこれとかどうですか!」
「ん?またパーカーか。せっかくこういうところに来てるんだ。もっと女の子らしい服を買っていいんだぞ。」
「あ、いえ…。私には女の子らしい服なんて似合いませんし…。」
「そんなことはないんじゃないか?ほら、これはどうだ?」
國崎は紺色の長めのジャケットを見つけた。そしてそれに似合いそうな服とスカートをなんとなく見繕った。白のブラウス、そして青のスカートを持ってくる。
「これ…ですか?」
「嫌だったか?」
「いえ、私こういう服とかには無頓着でして…。小さい頃は剣に捧げてました。」
「そうだったのか。」
年頃の少女とは思えない発言。だが國崎は驚きと同時にある種の納得があった。
國崎は剣道や剣術に詳しいわけではない。だが、國崎の助けになるといったあの時の彼女の発言。それは実力に裏付けされたものだと思ったのだ。あの声の抑揚、眼、雰囲気。様々な要素が合わさった上であの自信に繋がっているのだと今確信できた。
「そうか、でもせっかく綺麗なんだから、服くらいは似合ってるのを選べよ。」
「えっ!?」
少女は若干頬を赤らめる。
「あっ、すみません!そんなことを男の人に言われたの、初めてでして!」
「そ、そうなのか?」
都宮は格好こそボーイッシュな形に収まってはいるが、女性の中で見ても整っており、美形と言っても差し支えないほどである。
だからこそ、年頃の女の子らしい格好をするのもありなのでは、と考えた上の発言である。
「どうだろうか?」
「そ、そうですね…。ちょっと待っててください。」
少女は國崎から持ってきた服を奪い取り空いている試着室に駆け込む。
「(まずいことしたかな…。)」
國崎がしばらくの間試着室の前で待っていると、
「どうでしょうか…。」
と不安そうな声と共にカーテンが開かれる。
そこには年相応の、そして端正な顔立ちに合った服を着た都宮の姿があった。
「あっ、ああ…。いいんじゃないか?とても、似合ってる。」
國崎は若干動揺した。まさか自分の選んだ服がここまで似合っていたとは。そして都宮の可愛らしい姿。
「そ、そうですかね…。ありがとうございます。とてもうれしいです。」
そう言い、さっとカーテンを閉め、秒単位でカーテンを閉めいつものパーカーに着替えた。
「で、ではこれで…。いったい、いくらになるんですかね…。」
「俺が買ってやるから大丈夫だ。この前の個人的なお礼だと思ってくれ。」
「ふ、普段ならここまでしっかりした店で服は買えませんでしたから…。会計が怖いですねえ…。」
「74000円となります。」
「ななッ!?」
「カードで。」
「カっ!?」
格が違う世界でした。
それから数時間後、二人は少し遅めの昼食を終え、都宮が連れていきたいところがあると言ったので通称「南区」の通りを歩いていた。
時刻は4時半。
秋の半ばということもあり、もう日が暮れ始めてきている。
「どこに連れて行こうというんだ?」
「もうすぐですよ!」
國崎は若干の不信を抱きながらも少女の言われるままに歩みを進める。
やがて、一軒の五階建てのビルに着く。外見はボロボロ。なかなかに年季の入ったビルである。
都宮はそのビルの中に入り、エレベーターで三階に向かう。
「実は私、このビルに事務所がある、自警団組織に所属しているんですよ。」
「自警団組織?」
聞いたことはあった。このご時世だからこそ成り立つ職業。
「着きましたね。こちらです。」
「ああ…。」
都宮は事務所のドアを開ける。
「ようこそ!」
乱雑に書類が置いてある机が多数。ブラインドのかかった窓には所長と思わしき初老の男性がいる。その近くのソファーに女性が一人。奥の机でひたすらパソコンを弄っている長髪の男がいる。
國崎は驚いた。事務所の散らかり具合ではない。
初老の男性、近くにいる女性に見覚えがあった。
「あ、あんたたちは!?」
「おや?」
「あらまあ!」
鷹田慶介と京川楓恋。
國崎はこの二人と再会した。
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