一章 五話 人質救出作戦
第一章 再会
第五話 人質救出作戦
國崎の手には九十五年式自動拳銃とタクティカルナイフが握られている。九十五年式自動拳銃は今年作られた最新モデルで弾詰まりが少ないことで評判がいい。フルオート、セミオートを切り替えることができ、装弾数は20発。さらに消音器(サイレンサー)を装着しており、隠密行動向けにカスタマイズしてある。
國崎は裏口手前で耳に装備しているイヤホンマイクのマイク部分に向けて質問をする。
「しかしなんでまた、拳銃(ハンドガン)にライトを装着させなかったんだ?博士。」
『まあ待つんだ。大事な解説から優先させてもらうよ。』
「頼む。」
國崎は拳銃の再装填(リロード)を済ませる。
『まずは君のマイク。これにも最新の機能をつけてある。マイクに向かって「こんばんは」という言葉を想像して唇を動かしてみてごらん。』
「どういうことだ…?…『こんばんは』」
「「「!?」」」
國崎は唇しか動かしていない。それなのに國崎の声でこんばんはという音声がこの無線チャンネルにつないでいる皆に流れた。
『唇のわずかな動きを感知して音声を合成して流すシステムさ。』
『なるほどな、かの天才物理学者も使用していたシステムだ。』
『そう、それを応用したわけさ。伍快君のは私の部屋から持ち出したものじゃないから使えないけどね。』
「あっ、そうなんですか…。」
『ハンドサインや小声で構わんだろう。しかし、平和記念館は鉄血や人質がいるところにしか明かりがついていない。どうするんだ?』
『君の装着しているゴーグルはただの防弾ゴーグルじゃないんだよ。右横のフレームについてあるボタンを押してみてくれ。』
國崎はボタンを押す。
『!!なるほど…。これならライト要らずだ。』
『そう、そのゴーグルから出る特殊な電波を反射させ、建物の内部や、人間の居所まで突き止めちゃう代物さ。どうだい?サーモグラフィーやナイトビジョンよりも見やすいだろう?』
『確かに見やすい…!だが、人間以外の生命体は突き止められないのか?』
『とりあえずまだ、人間だけ。前に精度を上げ過ぎたら、その部屋にいるネズミやらゴキブリやらも突き止めちゃってね。その起動実験をした私の研究室に女性職員が足を踏み入れなくなっちゃったんだよ…。』
『それは何とも、災難なことだな。そしてお前がそこから中々でないのも恐ろしいことだ。研究室を変えるべきだ。』
『そろそろ突入して下さい。時間が差し迫っています!』
『わかりました。ほら、伍快。』
「?」
國崎はもう一つのゴーグルを伍快に渡す。
「あ、ありがとうございます!」
『さあ、行くぞ。』
『人質の居所は三階の奥の館長室にまとめられているらしいです。』
『最上階か。階段を使用して最短ルートを行くか。』
『ところで、伍快くんの装備を教えてくれないかい?』
「あ、」
『待て、声を出さなくて済む俺が説明する。』
國崎は階段に向かいながら口パクをする。
『伍快の装備はフルオートハンドガンサイレンサー付き一丁と、レーザーソード一本。そしてパワードスーツだ。』
レーザーソード。剣の刃に高熱を帯びさせ、バリアスーツやパワードスーツに大きな損害を与える。その扱い方からか、装備するものは大体パワードスーツを着る。
『なるほど、バリアスーツの無い敵は大丈夫だろうね。』
『そうだな。伍快、頼んだぞ。』
伍快がうなずく。
『待て。』
伍快は止まる。國崎のゴーグルには階段を下りてくる敵影が映っている。
『俺がやる。』
國崎はパワードスーツで底上げされた身体能力を活用し手すりを越えて素早く静かに、階段を下りている敵の後ろに回り込む。そして腕で首を締めあげる。気絶するまで時間はかからない。底上げされた腕力に掛かれば一瞬である。
『こいつを階段の裏に隠してくれ。』
手すり越しに伍快に気絶した敵を渡す。伍快は階段の裏に急いで隠す。
『余計な手は出さずに最短距離で館長室に行くぞ。二階の敵は無視だ。』
伍快は小声で
「わかりました。」
と伝える。
國崎と伍快は館長室の前に控えている。
『人質が八人か。敵の数は十人ほどという話でしたな?』
『ええ、証言からの推測ですが。』
『裏口三人、館内の見回り二人、そして館長室に二人…。』
『残り三人は?』
『待て…。ん?右側の奥の部屋に人の反応が。』
『そこにいるんでしょうか?』
『かもしれませんな。伍快、ここは任せる。俺と同時に突入しよう。そこで待っててくれ。』
伍快は頷く。そして口元にマイクを近づけ、
『わかりました。』
と言った。
『敵は小銃持ちか…。だが、肩掛けできるようにしてないな。ショルダーストラップがない。』
『ですね。』
と伍快が言う。
『こちらには小銃持ち三人、人質五名だ。こちらにデータに会った鉄血の現リーダー赤星健も見える。』
倉本は資料を読みあげる。
『赤星健はかなり保身的な奴です。残り二人の団員と館長室にいる団員を無力化して銃口を突きつければ降伏するでしょう。』
『わかりました。平和記念のパネルが団員と人質の死角になっているので移動します。』
國崎はしゃがみ姿勢で素早くパネルの裏側に回り込む。そしてパネルの近くにいる団員の近くで控える。この部屋には國崎に背を向けている団員が一人。國崎側のパネルに視線を向けているのが赤星健ともう一人の団員という配置になっている。
『そろそろ行くぞ。 3、2、1、 GO!』
館長室での戦いは一瞬で終わった。熟練されたパワードスーツ持ちのALPの警官の前に、不十分な装備を持った者たちでは敵にすらならない。突入してすぐに素早く手前の敵の首を刎ね、人質近くの敵を一本背負いし、武器を取り上げ手錠を掛けて無力化する。
人質側から悲鳴が上がるが、
「落ち着いてください!ALPの人間です!!」
と声を上げ、手帳を見せる。そのおかげで、人質たちはパニックにならずに済んだ。伍快はすぐにマイクを口元に向け、
「國崎さん!大丈夫ですか!」
と國崎に声をかける。
國崎はまず赤星の近場にいる団員の頭に銃弾を撃ち込み、素早く國崎に背を向けていた団員の右腕を左手で捻りあげ、体重を乗せて団員を地に臥せる。小銃が人質の方に落ちていき、悲鳴が上がる。國崎は赤星に銃口を向け、
「ALPだ!武器を捨てろ!!人質の方を向いてみろ、すぐにでもこの引き金を引く!!」
赤星は國崎を見据えたのち、すぐに人質の方を向き銃口を向ける。
「貴様!」
國崎は躊躇いなく銃弾を赤星の頭に打ち込む。だが血は流れない。銃弾は頭に入り込まず謎の力によって弾かれた。
「(バリアスーツ!!)」
赤星は銃弾の衝撃で後退したがすぐに國崎を見据えニヤリと笑った後、人質の方を向く。
「(間に合わないっ!!)」
と國崎が行動をしようと思考を巡らせたその時。
人質側から茶髪長髪の女性が一人飛び出し、近場に落ちてる小銃を拾いあげ赤星に向かって打ち込む。フルオート特有の断続的な銃声が響く。赤星は銃口を向けられた直後に両腕で頭を覆い、横跳びをして弾幕から逃れようとする。が、バリアスーツを破る銃弾を放った後女性は銃撃をやめる。そのことに一瞬気を取られた赤星は背後からくる人物に気づかない。黒コートを着たオールバックの初老の男性が赤星の右腕をひねりあげ、地に臥せる。
國崎はすぐさま二人に目を向ける。一般人であろうこの二人になぜこんなことができたのか。だが、その疑念はすぐに晴れた。
二人は國崎に向けて武装市民の証拠であるバッチを見せたのである。
あらかたの事件の処理が済まされた後、國崎は武装市民の二人を連れ倉本のもとへ連れてゆく。
「こちらが今回協力していただいた武装市民の方たちです。」
「ご協力ありがとうございます!」
「私が小銃ぶっ放した京川楓恋です。」
茶髪の女性が言い、
「私が後ろから組技をした鷹田慶介です。」
黒コートの初老の男性が言う。
「お二人とも本当にありがとうございます。協力金の話もありますので、こちらへ。」
「あ、ちょっと待ってね。」
京川が言う。
「ALPのお兄さん、ごめんなさいね~武装市民だってこと隠してて。あの状態だと、ね?」
「はい、わかってます。変に武装市民として行動を起こしても混乱を起こすだけです。ALPが来てから動くという判断は、冷静で正しいものだと思います。」
「へ~お兄さん若いのにやるねえ!ね?タカさん!!」
「その通りだな。できればまた、お会いしたいものだ。」
「そう言っていただけると、うれしい限りです。お二人とも、武装市民としても、一市民としてもこれから頑張っていってください。助けていただき、ありがとうございました。では。」
國崎はそう言い、その場を去る。
「いや~良い人だね。ALPってもっと嫌なやつばかりだと思ってたから特に好印象だねぇ。」
「はあ、そうですか。まあ、ALP自体もそろそろ時代に合わない組織になってきているので、近年中に組織ごとなくなる可能性がありますがね。」
「え、そうなの?まだ必要だと思うけどな。」
「京川。それ以上言うな。向こうが困るだろ。」
「あ、すみません…。」
「いえ、考え方はそれぞれですので。では、こちらの車で一旦署まで送ります。」
武装市民二人はパトカーに乗り、ALP南署へと向かう。
「また、武装市民の手を借りてしまったか。」
國崎は帰宅するため、夜の街を歩く。明るい人工灯とは対照的で、國崎は顔を俯かせながら歩く。
その時國崎の携帯が鳴る。都宮からである。
「國崎さん、今大丈夫でしたか?」
「まあ、疲れたけど何とか。」
「なんか元気なさそうですけど…。」
「ああ、まあちょっとしたミスをな。」
「そうですか…。でも國崎さんなら大丈夫ですよ!これからです。」
「まあ、そうなんだがな。で、用件は何だ?」
「あ、あの前言ってた聞いてほしいことなんですが、よろしければ今度の土曜空いていればお会いしたいんですが…。」
「ああ、ちょうど非番だ。その日で構わない。」
「ありがとうございます!あ、もう遅いですね…。」
「10時越えたか…。そうだな。」
「詳しい日程はまた今度でいいですか?」
「ああ、大丈夫だ。午後8時以降なら確実に出られる。」
「ありがとうございます!では、また今度。おやすみなさいです!」
「ああ、おやすみ。」
國崎は一息ついた後、
「まあ、武装市民の手を借りてでも死人が出なかった方が大事だ。そう思っておこう。」
國崎の顔は先ほどよりも幾分か明るくなっていた。
第五話 了
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