一章 三話 國崎とALP

第一章「再会」

第三話 國崎とALP


 ALP南区署、一般向けにはALP第四署。この署を中心にして、南区は復興を果たしてきた。五年前の内戦の爪痕は深く、ALPという組織が四年前にできてからやっと復興が始まった。当時の東京は暴動や、レッツェル主義残党などが暴れまわっていたのだ。復興を行うにしても、中心となり治安を守る機構が必要だった。この任務に白羽の矢が立ったのが、ALPである。ALPは前レッツェル主義政権の秘匿としていた軍事情報を吸収し、当時の最新式の装備で治安維持に当たった。そのALPの活動拠点となったのが、五つに分かれて作られたALP署。その名残もあって、ALP署の周りには、雑貨店や飲食店などが並んでおり、一つの街が形成されているほどである。

 そんな街の中で物々しい雰囲気を放つALP署。近未来的な機器が敷地内に並ぶ中、建物自体は無機質な四角い五階建ての建物。その差がより威圧を強めている。

「なるほど、こんな感じになっているんですね~。」

 國崎はエントランスにいる受付嬢に話しかけている。

「とりあえず、そこのソファーで待っててくれ。これから案内する奴が来る。」

「わかりました!うわーこのソファーめっちゃ座り心地いいですよ!!」

 都宮は周りを見渡すが、あの機器だらけの敷地内のごちゃごちゃした感じとは裏腹に内部はさっぱりとしている。エントランスも綺麗で、物は少なめになっており、非常に居心地がいい。

「しかし、すごい綺麗ですね。外見からだと想像つきませんよ…ってあっ!」

 都宮が國崎の方を見ると、國崎はもう居なかった。


 國崎は今回の出来事を上司に報告するために、最上階の五階へとエレベーターで昇って行った。上司と言っても署長である。

「あの爺、俺の応援要請を無視しやがって…。」

 國崎が応援要請をしても、応援が来なかった。國崎をよいと思わない連中しかいないこの状況。当然だろう。問題なのは、組織のトップが私的な感情で動いているということである。前々から、國崎に対してあたりが強かったのだが今回の件は國崎からしたら、たまったものではない。

 國崎は歩みを強め、署長室の前に立つ。ノックをし、

「失礼します。」

「入りたまえ。」

 儀礼的な意味しか持たない定型の挨拶をし、國崎はドアを開け、署長に向かいながらこう告げる。

「國崎真人、ただいま警邏から帰還いたしました。」

「どうした?ただの帰還なら報告はいらんぞ?」

「いえ、それがただの警邏ではなく、途中でレッツェル主義過激派の襲撃を受けまして。」

「なんと、それは一大事だったな。」

 署長赤崎茂雄は眉をピクリとも動かさずにこういった。

「(白々しい奴だ…。)」

 國崎は喉の寸前までこの言葉が出かかったが、飲み込んだ。

「ええ、ちょうどバリアスーツを修理に出していたところでしたのでかなり苦労させられました。」

「それは何とも運の悪いことだったな。で、そのレッツェル主義者どもはどうした?」

「はい、レッツェル主義者は全部で四名。内三名を射殺し、一名を捕らえ、手錠を鉄柱に括り付け、逃れられないようにしておきました。」

 ALPの手錠は最新式のもので、位置情報と外そうとしたら通知の入る機能付きである。

「そうか…。だが、よくバリアスーツ無しで凌いだな。」

「ええ、呼んだはずの応援も来なく大変でした。」

「おや、そんなことが。通達の段階でミスがあったのかもしれぬ。」

「(あるわけねぇだろ!!)」

 國崎はそう叫びたくなる衝動を抑えた。

「今回は、武装市民の協力もありまして。」

「武装市民?君が武装市民に頼るとは、珍しいな。」

「ええ、色々と大変でしたので。」

「…君は武装市民というシステムは理解しているのかね?」

「もちろんです。この時代、自分の身は自分で守らなければいけません。そこで、技能、精神を鑑定し、治安維持に協力できるかどうかをALPが判断し、ふさわしい一般人に武装を許可するというものです。」

「そうだ、今でこそALPへの協力システムを構築したが、あくまでも『武装をしている一般人』。頼りきるようなことになってはいかんのだ。」

「わかっております。」

「バリアスーツがなくても君ならなんとかできたと思うのだが。これで武装市民が死亡するようなことがあれば責任は我々に来るのだ。君が独断で起用できるほど甘いシステムではない。」

「申し訳ありません。」

「訓練に励み、高価な機器に頼るようなことの無いようにしてほしいものだ。」

「精進します。武装市民には至らない私を助けていただきました。ですので褒賞を渡さなければなりません。」

「わかった。では、その武装市民を入れたまえ。」

「わかりました。入ってきていいぞ!」

 國崎は背にしていた戸に向かって大声を出す。二回のノックの後、

「失礼します。」

 戸が開く。緊張した面持ちの短髪の少女とその案内役と思しきALPの制服を着た女性が入ってきた。

「彼女が今回協力していただいた武装市民です。」

「と、都宮零と申します!!」

(緊張しすぎだろ…。)

「それはそれは、うちの國崎がご迷惑をおかけしまして。」

「あ、いえ!革命の英雄である國崎さんが拙い私の技に合わせてくれたおかげでして…。」

「ご謙遜を。刀一本でレッツェル過激派と渡り合うには相当の腕前が必要でしょうに。ありがとうございます。報奨金は後で振り込まさせていただきます。」

「いえ。ありがとうございます。」

國崎が口を開く。

「この娘が助けてくれなければ私は無事では済まなかったでしょう。そのことも踏まえて、報奨金の金額をご検討していただきたく思います。」

「もちろんだとも。では、案内の者に付いていってくだされ。手続きを行いましょう。」

「わかりました。ではこれで…。あっ國崎さん、これ。」

 都宮は國崎が渡したマントを返す。

「おう。」

 國崎は短い返事をし、軽い笑顔を作る。

「また後で会いましょう!」

 都宮が言う。國崎はあぁと大仰に頷き、

「……え!?」

 國崎が振り返る。だが、都宮はもういない。

「…君も隅に置けないね。」

(黙ってろ!クソ爺!!)

「しかし國崎君、武装市民はあくまでも市民。頼るようなことになってはいけないよ。何度でも言おう。」

「わかっています。今後はほかの署員との連携を強め、同じことが起きないよう努めるつもりであります。」

 國崎は内心の怒りを抑えながら言った。そのあともしばらく國崎は、署長の嫌味地獄につき合わされ続けた。


◆都宮

 やっと終わりましたか…。うーん、やっぱり堅苦しいのは苦手です。大事な書類を書くとき特有のあの空気、あれには慣れません…。しかしあの署長嫌な感じのする方でした。署長室に入る前の会話も少し聞いていましたが、随分と嫌味ったらしく言ってましたね…。やっぱりバスで言っていた通り、國崎さんは周りから疎まれているんでしょうか。國崎さんのあの話、国のことを思うあの心がある人こそ私たちが求めるALPの人間です。ぜひともスカウトしなければ…!國崎さん、来てくれますかね…。って

「よう、来たぞ」

 いるし!!

「ど、どうも!國崎さん!!まさか、来てくれるとは!」

「そりゃあ、ああいわれたら行くしかないだろ。」

「あ、ありがとうございます…。」

「で、何の用だ?」

「あ、はい。ちょっと國崎さんとお話したいことがありまして。」

「まあ、仕事もそろそろ終わるしいいけど。」

「そうですか!いやあの、実は私の服さっきの戦いでおじゃんになったじゃないですか?まあ、突撃しに行った私も悪いんですが。」

 今都宮はALPから渡された無地のTシャツと、ベージュの長ズボンをはいている。

「す、すまん。」

「いえいえ!別にそれは構わないんですけど!…服がだめになった代わりにと言っては何ですが、お願いを聞いてもらっていいでしょうか!」

「仕方ないな…。まあ、報奨金があるだろ、なんて空気の読めないことを言うつもりはない。服は女性にとって大事なものだとよく聞くからな。それに、俺個人への頼み事だろ?構わない。困りごとがあるなら何でも言ってくれ。」

「さすがです!あの、それでは今から…」

 國崎の携帯が鳴る。

「すまん、ちょっと待ってくれ。」

「はい。」

「國崎です。はい、ええ存じております。えっ、今からですか!?はい…はい、了解しました。装備を整えてから向かいます。失礼します。」

「すまん、今からは無理になってしまった。」

「任務ですか?」

「ああ、俺の力が必要だそうだ。」

「私も向かってもよろしいでしょうか?」

「いや、だめだ。いくら武装市民とはいえ、これ以上一般人をこちらの事件に巻き込むわけにはいかん。」

「そう、ですよね…。」

「ああ、でもまだ願い事を聞いてなかったな。良ければこちらに連絡してくれ。俺の携帯だ。」

 國崎は手帳に書き込み、それを破って都宮に渡す。

「少し急いでるから、俺はこれで。」

「あ、ありがとうございます!また連絡します!」

「おう、また今度!!」

 國崎は都宮に手を振りながら振り返り、ALP署内の装備室へ向かう。

(しかし、また厄介なのを押し付けられたな…。)


 國崎は装備室に入る。真っ暗である。ただ、一点だけ明かりがあり、

「おーい!バリアスーツの修理は終わったか!?」

 女性の声が返ってくる。

「ばっちりだよ~。しかし、もうすぐ仕事終わりだったってのに災難だねえ。」

「まあ、そういう仕事だからな。博士も新しい装備品の開発大変だろ。」

 國崎が室内の明かりをつける。そこには、ひたすらディスプレイを眺めながら、キーボードを尋常ではない速度でたたく、長髪で、巨乳で、隈の深い、白衣の女性が椅子に座ってた。

「うわ、たまには休めよ?」

 バリアスーツなどの諸々の装備品を素早く身に着けながら軽口をたたく。

「いや~、お互い様っしょ。あんたはいつも命懸けだし。そっちも休みなさいよ?」

「まあ、そうだな。だが、あんたがいなくなったらうち(ALP)は大変なことになるからな。体に気を使ってくれ。」

「わかったよ~。それより、今回の事件は一体何なんだい?君が出るなんて、よっぽどだね。」

國崎はため息をつきながら口を開く。

「3時間前に起きた、人質立てこもり事件の解決だ。」


第三話 了

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