一章 二話 「英雄」というもの
第一章 再会
第二話 「英雄」というもの
夕日が刻々と沈んでいく中、國崎と都宮は街道を歩いている。南区の署に向かうためだ。7年前の戦いの後、ALPが五つの地区に設立された。東京二十三区その他市町村を五つに分け、北区、東区、南区、西区、中央区と称した。実はこの呼び方は警察機関、武装市民、そしてレッツェル主義集団にしか知られていない呼び方なのだ。逆に言うとこの聞き方をすることで、上記の関係者か否かを判断することができる。ALPも警察的な教育を施されているため、反応から嘘か否か見当をつけれる。この区分けは対過激レッツェル主義集団のための工夫なのである。
「あの、國崎さん?」
國崎のマントを纏いながら都宮が質問をする。
「なんだ?」
「『國崎』って名前ってことは、あの『革命の英雄』なんですよね?」
「ああ・・・そうだ。」
「やっぱり!!あの難攻不落の国会議事堂のゲートをいち早く突破したり、義勇軍派自衛隊の方々と協力して当時の手ごわい軍略家だった総理に銃口を向けたと言われてる、あの國崎さんですよね!?」
「まあ、その話は全部本当だが・・・あんまりその、だな。偉人的に扱うのはやめてもらえないか?」
國崎たちは話しながらバスに乗る。
「どうしてですか?せっかくそこまでの華々しい武勇伝があるのに・・・。」
「革命時の英雄なんてものは、所詮平時だとただの戦闘狂に過ぎないんだ。」
「というと?」
國崎と都宮は一番後ろの席に二人で座る。國崎は車窓から現在の東京の景色を眺めながら会話を続ける。
「今は俺みたいなやつでもまだ需要があるからいいさ。それでもかなり俺の立ち位置が微妙だ。考えてみろ。革命の英雄なんてものがなんで今南区の署に向かっている?」
「え、そういえば。はっ!もしかして國崎さんその戦闘狂とやらで目に映る上司を片っ端からボコボコに・・・!?」
「あほか!そんなことしたら俺の首は繋がってねえよ!!」
「いやでもその凶悪そうな目つきと戦闘狂なんて、それしか考えられないですよ!」
「仮にも警察関係で初対面の奴にそこまでズケズケ言えるとは・・・。よほどの馬鹿か大物だな。」
「いやあ國崎さんほどの大物なら、心も大きいかと思いまして。」
「・・・その考えは危険だ。改めた方がいい。俺たちALPの人間はいつでもかこつけて目の前の人間を排除できる。レッツェル主義者だったと言い張ってな。少なくともこの制服を着ている奴にはそんな態度はとらない方がいい。」
國崎の話を聞き、思いをめぐらせたようなそぶりをした後、都宮はこう言った。
「やっぱり國崎さんは優しい人だったんですね。」
「?やっぱりってどういうことだ。」
「マントをつけてくれた時といい、今の忠告といい、國崎さんは人のことを優先する人なんだなって。」
國崎はこの言葉が彼女の象徴なのではと思った。戦闘時からも今のやり取りからもわかる無謀さ。いや、やり取りに関しては純粋だと言ってもいいかもしれない。そして、少ない情報で他人の本質を見抜く。それはある意味強さではあるが、彼女の純粋さとは相性が悪い。
「思ったことをすぐ言うその性格、直した方がいいかもしれんぞ。身のためだ。」
「ほら!やっぱり優しい!!」
「くそっ、調子が狂うな・・・。まあ、俺はこんなのだから南区にいるんだよ。」
「そういえば、國崎さんは左遷されたんですっけ?」
「左遷はされてない!!・・・と言いたいところだが、俺が上から忌み嫌われてるのは確かだ。」
「なんで革命の英雄を・・・?」
「国はな、日本は世界にむけていち早くレッツェル主義から抜け出した国だとアピールしたいんだ。日本の転向を切っ掛けに先進国諸国では次々と革命が起きた。それでもあちこちで火種がくすぶっている状況だ。それだとレッツェル主義から抜け出したとは言えない。」
國崎は車窓の景色を見直して言う。
「見てみろ。さっきの建物は内戦前とはまるで別物になってる。このバスが走ってる道路なんて弾痕だらけで使い物にならなった。そもそも、今の30代後半より後ろの世代は、バスなんてものは見聞きしたものでしかなかったんだ。」
そんなことを國崎は語りながら都宮の方を向く。都宮には、國崎の目には今の東京都とは別の「何か」が映ってるように見えた
「そう、ですよね。でも!今こそこうやって走れてるからこそ」
「そこだ。誰もが『今は平和になりつつある』と思っている。皆内戦の悲惨な爪痕から目を背けたいと思っているし国はその心理を利用して『平和な国となった!!』と宣言したがっている。」
「なんで、そんなことがわかるんですか?」
「俺が左遷された理由がその答えだ。俺は革命の英雄ってのもあってこの年にしては結構な地位にいたんだ。具体的に言うと中央区勤めで同じ階級の連中が軒並み50代くらいのな。だけど、突然辞令を渡されてな。めでたく南区のトップ3になっちまった。で、俺の後釜にとある文官が任用されてな。それを切っ掛けにか、俺以外にも内戦に参加した成り上がりの若い連中が次々と左遷されたんだ。」
「それってつまり・・・」
「そう。戦時で活躍した連中が邪魔になったんだよ。平和政治を行う上で武官がいたんじゃあ、世界に対しても示しがつかない。」
「じゃあ、やっぱり平和は近いってことですよね?」
「確かにレッツェル過激派の絶対数は減少してきているし、平和は近づいてるっていえる。ただし、だ。」
「ただし・・・?」
「忘れちゃならないのは、文官を操ってる高齢な連中は内戦時期に壮年期、つまりバリバリ動いてた時期を過ごしてるってことだ。いつの時代もそうだったが戦争を経験した奴らは終わった後でも、その心の中に『野望』をもっている。俺は、大した抵抗をする気も起きなかったよ。戦争はもう、起きてほしくなかったしな。まあ、南区の署じゃあ邪魔者扱いになっちまったけどな・・・。」
『ALP第四署前でございます。お降りになる際は、お忘れ物の無いよう・・・』
運転手の決まり文句が聞こえる。毎回言ってるのが飽きたのか、はたまた夕暮れがけだるさを感じさせるのか、どことなくやる気を感じられない。
「さあ、降りるぞ。」
「あっ、待ってください!」
國崎が二人分の料金を支払い、降りる。
「ここが、ALP署・・・。」
対レッツェル主義の拠点となるALP署。厳ついデザインながら、最新鋭の施設がそろっており、近未来的な見た目となっている。それは、都宮の目にはあまりにも大きく見えた。
「ALP署なんて普段はこないし、そもそも関係者以外は立ち入り禁止だからな。」
「そうなんですよ~。武装市民の試験とかは別のところで行われてるし、直接ALPと関わる機会もありませんし・・・。」
「この署の中には機密情報も多いし、ある意味国にとって前線基地だ。それこそ、武装市民としての活躍や、就職試験とかじゃないと入れない。」
「・・・大きいですね。」
「ああ、中央はこの比じゃない。そんな中央でどんなことが起ころうとしてるかはわからんがな。」
國崎は夕日を背にしてる都宮に向かって言う。
「俺は自分でできることを、やっていくしかないんだ。俺みたいな今も昔も戦うことしかできない奴には、これからの未来はない。」
その一言には、一種の諦めのような感情があったように都宮は感じた。先ほど、レッツェル主義者と戦っていた時と同一人物とは思えないくらいに。
「・・・いいえ。國崎さんはもっと今の日本のために働くべきです。」
都宮はボソッとそう呟く。
「ん?何か言ったか?」
「いいえ!なんでもありません!それよりほら、協力金をですね!!」
「いやいや、そんなにすぐ出てこないからな!?まず事情聴取と遺体、生き残りの処理を要請して諸々の手続きをしないと!」
「え、そんなに時間かかるんですか!?」
「ざっと二時間は。」
「ええ~マジですか・・・。これはタカさんに連絡しとかないと・・・。」
「何か用事でもあったか?」
「いえ!!こっちで何とかなるんで!それよりも早く署の中を見てみたいです!!」
「・・・職場見学じゃないんだからな?入ったらすぐに応接室行きだぞ。」
「そんな~!つまんないですよ!!」
「規則だからな。」
誰がどう見ても、革命の英雄と武装市民の少女がしてるとは思えないような、そんな話をしながら國崎と都宮はALP第四署に足を踏み入れていった。
第二話了
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