國崎の戦い

紅茶

一章 一話 運命に導かれる青年少女

第一話 運命に導かれる青年少女


「面倒なことになったな・・・」

 國崎は銃声の鳴り響く中、そう呟いた。敵は壁越しに四人。拳銃で際限なく打ち込んでくる。対する國崎の装備は拳銃一丁。バリアスーツは故障中で修理に出している。いざしびれを切らして敵前に出ようものなら、瞬きする間もなく蜂の巣にされることは明白である。

「ここまで厄介な連中とはな。」

 國崎は警邏として、街道を巡回していた。その時、裏路地から一発の銃弾が國崎の足先を襲った!敵は念入りに調査し、國崎がバリアスーツを纏っていない状態を狙ったのだ。そして國崎は敵を追いかけ、上手い具合に身を隠しやすい建物の多い裏路地にまんまとおびき寄せられたのである。


◆國崎

パッと見た感じ、相当な弾数を持っているな…。俺の弾もいずれ尽きる。今は盲撃ちで牽制してはいるが、ごり押しされたら負ける。一応勧告はしたが、聞く耳を持たない連中だったな。

応援は・・・期待できないな。俺といつも居る同僚、部下は今起きている人質立てこもり事件で署内にいない。伍快の奴だけでも居てくれたらどれだけ楽なことか。俺を目の敵にしてる署の連中は、なんだかんだ言って解決する俺に全部押し付けようとするだろう。本当に仕方のない連中だ。まったく、俺も年貢の納め時かねぇ。


「お手伝いいたしましょうか。」

「やれやれ・・・また厄介事か。」

 國崎は声のした方向を見る。そこには10代後半ほどと思われる短髪の少女が立っていた。パーカーにショートパンツ。一見少年と見間違えそうになる外見である。

「誰だあんた?ここは危険だ。とりあえず離れて、」

「ご心配は無用ですよ。ほら。」

 少女は國崎に腰にぶら下げているものを手に取って見せる。少女の手には、銃が闊歩するこの時代に似つかわしくない「刀」が握られていた。そしてその少女の胸元には、狼と芝桜の描かれたバッチが付けられていた。

「『武装市民』か・・・。そんな武器で大丈夫か?」

「大丈夫です。勝てます。」

 少女の目には「確信」があった。刀という武器しか所持していないのに、この少女ならやってくれると思わせる自信。

「・・・そうか。それじゃあ任せてもいいか?指示はこちらで行う。」

「構いません。よろしくお願いします。」

  一発の銃弾が盲撃ちに使用するために、弾幕の中に晒していた銃身に命中する。

「チッ、時間がない!」

 左手で制服の内側から小型の機会を2つ取り出し、片方を少女に投げて渡し、もう片方を自身の耳に取り付けた。

「イヤホンマイクですか?」

「そうだ、これでタイミングを合わせるぞ。」

「わかりました。」

「じゃああんたは裏から回って、っておい!?」

 國崎は驚愕した。それもそのはずである。少女は建物の出っ張りや、備え付けの機器を利用して軽やかに跳んだのだ。そして、國崎が壁にしている建物の屋上まで行ったのである。

「こっちの方が早いですよ。」

 わずかに微笑みの含んだ声が聞こえる。

「・・・そうか!期待してるぞっ!!」

(話を聞かない系だったか・・・。まいったな。)

「こちらで確認したところ、四名の方が銃を撃ってますね。」

「そうか、俺の目視した人数で変わりはないか。そっちは陽動してくれるだけでいいからな。」

「わかりました!突撃します!!」

「お、おい!!」

「行きます!!」

 そして少女は屋上を飛び降り鞘から刀を抜く。そして峯で少女の視点から見て一番左にいる黒服の男の首を叩く。重力加速度による衝撃も加わり黒服の男は一瞬で地に臥す。黒服の仲間たちが少女と倒れた仲間に目が行き、弾幕がやむ。少女は敵のど真ん中に飛び込んだ。少女は絶体絶命の状況に陥ったのだ。

「あのバカッ!」

弾幕がやんだ瞬間、國崎が身を出し、素早く三人の男の眉間を正確に撃ち抜く。少女の周りには、男の死体三体が並んだのだ。

「危ないぞ!!まったく!」

「でも、私なら平気だってわかってましたよね?」

「・・・まあ、そうだが。あんた、その『パワードスーツ』どこで手に入れた。」

「ちょっとツテがありましてね!」

 パワードスーツ。身体能力を強化する服の内側に装着する装備。近接攻撃を得意とするものが着込むのだ。國崎など銃撃戦を得意とするものは防御力の高いバリアスーツを装備する。性能としては銃弾を約20発防ぐ。パワードスーツは身体能力が上がる代わりにバリアスーツほどの耐久力を持たないが、数発程度の弾丸は防げるのだ。

「バリアスーツやパワードスーツは一着で家一軒は平気で建つ。あんた、ただ者じゃないな。」

「まあまあいいじゃないですか。その制服ALPの方ですよね?警察関係の方だからって個人情報の詮索はよろしくないですよ!!」

「・・・まあいいか。あ、それよりあんた、協力してくれて助かった。」

「あんたじゃなくて、名前で呼んでください!都宮零って言います!!」

「そうか、すまない。じゃあ、都宮さん。」

「零でいいですよ!」

「そうか。じゃあ、零さん。署まで来てくれ。正式に礼をしよう。」

「やった。協力金とか貰えるんですよね!?」

「もちろん相応の金額は出るが・・・。もしかしてそれが目当てだったのか?」

國崎は少女が気絶させた男に手錠を掛け、近くにあった鉄柱に繋げる。

「まあ、そんなところですかね!」

 少女は笑顔で答える。

「確かにあんたみたいな腕利きならそんなこともできるんだろうが、しかし危ないにもほどがある。かなり若いんだしもっと自分の体を大事にしろよ?」

「はーい。」

「本当に分かってるのか?さあ、ついてきてくれ。署へ行こう。」

「わかりました!」

「ああ、それと」

「?」

 國崎は自分のマントを外し、少女にかける。

「零さんの服、よく見たら少し返り血がついている。女の子の服を汚すようなことをしてすまない。署までその恰好をしていてくれると助かるんだが。」

「えっ・・・あ、いえ。そうですか。はい、ありがとうございます・・・。」

 少女は予想外のことをされたと言わんばかりに顔を俯かせる。

「あの、警官さんのお名前、よろしければ。」

「ああ、そういえばまだ言ってなかったな。俺の名前は」

 この青年、少々ためらうような表情をしてから

「國崎真人だ。」


 第三次世界恐慌が起き、世界中の人々が現在の経済体制、資本主義では限界があると感じた。そこで登場したのが、グローバルに対応した、国民を平等に豊かにしようというレッツェル主義。皆が皆、この主義の主張、思想を良しとし国単位でレッツェル主義に乗り換えた。それは日本でも例外ではなかったのだ。だが、レッツェル主義では、皆が想像していた平等とは程遠いものだった。度重なる言論統制、思想弾圧そして秘密主義。国民は凄まじい重圧を受けていった。そんなことが続いたため、国民は資本主義派の指導者の下、自衛隊の一部と国民の義勇軍を募り、国会議事堂を襲撃した。レッツェル主義下に密かに設立された軍と衝突し、泥沼の戦いの末に義勇軍は勝利した。國崎真人は義勇軍の中で最も政権奪取に貢献した人間として、「革命の英雄」と言われた。

 その戦いから7年たった今でも、反旗を翻そうと企む「レッツェル過激派」がまだ存在している。そこで現政権は、治安を安定させるためALP「アンチ・レッツェル・ポリス」を警察内部に設立させ、過激派殲滅に力を入れさせた。内戦で武勲を立てた國崎はALPの主力として、その手腕を振るっている。

 この物語は、そんな國崎真人が何を見て、何を思い、どう選択していくのか。彼の「戦い」を記した物語である。いうなればこの物語の主人公は彼だけではなく、彼と関わっていくすべての人と言えるのかもしれない。

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