第5話 Let’s ポジティブシンキング!

「…まさか最後の最後に言葉が通じない、ってオチがくるとは思ってなかったわぁ~…」


 初めて俺の部屋の窓から異世界に足を踏み入れた日の翌日、同行したというか先頭に立って突っ走った神戸かんべから『良かったら飲みに行こうよ('ω')ノ』とLINEがきた。

 実はあの日、何とも言えない展開に苦笑いしか浮かべることができなかった俺たちは、そのまま特に言葉もないままに解散していた。俺としてはこのまま異世界に行った記憶なんてなかったことにして良かったが、神戸的には何か思うところがあるのだろう。

 そんなわけで会社帰りに待ち合わせ、昨日とはまた別の居酒屋でいろいろと注文を済ませると、そう言ってやつは盛大な溜息とともにテーブルの上にと頬杖を付いた。

「…確かにまぁ、あそこまでご都合主義だったくせにいきなり現実感出すとか、正直ありえないよな」

「でしょーっ?! アニメやゲームの世界なら、あそこからようやく物語スタート!って感じじゃん?? まったく、こんな誰得でもない設定用意するとか、能無し極まりないっつーの…」

 ――いや、まぁ、あれはあれでアニメでもゲームでもなくて『現実』なんだけどな。って…あれ?、現実じゃなくて異世界?? いやっ、異世界だろうが何だろうが現実に起こってることには変わりない。

 とにかく、だ。あのとき神戸を助けてくれた青い髪と瞳の女性が話していた言葉は、あきらかにこっちの世界のものではなかったわけだ。会話が成立すれば異世界のことも教えてもらえただろうし、それ次第ではこいつに付き合ってもう少し足を踏み入れてみてもいいかなぁ~なんて思ったりもしたけど、これはもうすっぱりと諦めるべきだろう。

 だけどもそんな俺の考えとは裏腹に、神戸のやつはまたしても


「…でもさ、言葉が通じなくても身振り手振りだけで理解し合えるのが人間ってやつなんだよね――…」


なーんて自己陶酔も甚だしいセリフを口にしてきやがった。

「おまたせしましたー、若鳥の南蛮漬けですー」

「ほら、海外とか行ってもさ、身振り手振りだけで案外言いたいこととか伝わるじゃん?? それと同じでさ、言葉が通じなくても彼女に俺の気持ちを伝えることはできると思うんだ」

「………はぁ、」

「枝豆こちらに置いておきますねー」

「だからさ、もう一度彼女に会いに異世界にいこうよ、ゆっきー!」


 ――いやもうどんだけおめでたい頭をしてるんだよ、この友人はぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!


 こいつってこんなに現実を見ない、夢見がちなことばっか話すようなやつだったっけ? もしかして大好きな異世界がとんでもなく身近になったことで、冷静な判断ができなくなっちゃったとか??

 ――つか、『彼女に俺の気持ちを伝える』っておま…っ、一体何を伝える気でいるっつーんだよっ!

 もはや笑うしかないレベルの発言に、俺はただ目の前のビールジョッキを手に取り、その中身を豪快に喉へと流し込むだけだった。


「とにかくっ! この後ゆっきーんちに突入だからね!」

 …『コレ』がシラフの状態とか、本当勘弁してくれよ……。

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