第3話 友人、襲来。
「何それ超面白いじゃーん!」
異世界への扉という迷惑極まりないオプション仕様の部屋に越してから約1週間後の週末、俺は大学時代からの友人を居酒屋に誘って早速新居の愚痴を洩らしていた。
「俺、異世界もののアニメとかゲーム超好きだからさぁーっ! めちゃめちゃ興味あるんだけど!」
普通なら「頭大丈夫?」「疲れてるんじゃないの?」と心配されかねないレベルの話だというのに、友人――
「いやいやいや…実際自分ちに異世界に通じる窓とかあったらテンションだだ下がりだぜ?」
「何でー? 窓を開けたら非日常的な世界が広がってるなんて夢みたいじゃーん!」
「…夢だったらどんなに良かったことか…」
どうやら異世界に興味のある人間とない人間は、まったく理解し合えないみたいだ…。変人扱いされなかったのはありがたいけれど、俺は愚痴る相手を完全に間違えたかもしれない。
思わず大きな溜息を吐きながら追加のつまみを頼もうとメニューを広げていると、生ビールを飲み干した神戸が耳を疑うような質問をしてきた。
「で、ゆっきーは異世界に行ってみたの?」
――何その『あそこにできた新しいお店行ってみた?』的なライト感!
えっ? えっ?? 異世界ってそんな、気軽な感じで行っちゃっていいような場所なわけ?? 何が潜んでいるのかも分からない、未知の世界なんじゃないの??
俺の『何云ってんだコイツ』と言いたげな表情を見て察してくれたはいいものの、さらにやつとの温度差はガンガン開いて行く――。
「もしかして帰ってこれるかどうか心配してんの? だったら入口になってる窓を開けっぱなしにしとけばいいじゃん」
「はぁっ?! 『帰れる』とか『帰れない』とかそういう問題じゃないし! つか、窓を開けっぱなしとか、俺が見てないスキにやばい生物とか入り込んだらどうするつもりだよっ?! せっかく買った家具とか布団とかグチャグチャになるわ!」
「えー、でもさぁー、せっかく異世界につながる窓があるのに、使わないなんて勿体なくない? ――あっ、お姉さん生ビール追加で」
「あとほっけもお願いします! ――つか、『勿体ない』とかマジで意味不明だしっ!」
「いやだってそれ、某猫型ロボットの超便利なドアがあるのにまったく使わないでいるのと同じだよ??」
「いやいやいやいや…っ! あっちは行き先選択できるからね!」
その後も結局互いの温度差は縮まるどころかとてつもない勢いで広がっていくばかりで――。どんなに反論しても異世界に対するドリーム感満載で話す神戸に若干イライラしてきた俺は、「これはもう実際に分からせてやるしかない!」という結論に至る。
「いやぁ~…リアル異世界とか超テンション上がるんですけどぉ~っ!」
「ワクワク感はんぱなーいっ!」
「水色の髪をしたヒーリング系の女の子とかいるのかなぁ~♪」
「壮大な世界が俺を待ってるぜーっ!」
酔いも手伝ってかテンションアゲアゲな神戸と二人、表参道にある俺の新居へと帰り着く。
――そんなにはしゃいでいられるのも今のうちだからな…!
「へぇ~っ、見た目は全然普通のマンションじゃん。立地もいいしオシャレだし、最高じゃん」
「…まぁな。で、ここが問題の窓です」
カーテンを開いて見せるものの、開けない限りはまったく普通の窓で、もちろん外の景色もいたって普通だ。だけども神戸にしてみれば『異世界とつながっているステキな窓』であり、途端キラキラと目が輝き出す。
「この窓の向こうに異世界が広がってるなんてマジかーっ! 開けるよ? ゆっきー。俺開けちゃうよ??」
「…どうぞどうぞ」
「では、お言葉に甘えましてーっ! やっほー、異世界さーんっ!」
そう云って勢いよく窓を開けたやつの目の前に広がったのは、険しい山の上と思われる壮大な景色。――おぉ、当たってる当たってるぅ~!
眼下には川が流れ草木が生い茂り、心地よい風が吹き抜けていく――。
「――いやこれ、『異世界への扉』じゃなくて某猫型ロボットの便利なドア的なもので海外とつながってるだけじゃね?」
「いやいやいやいやっ! よーく見ろよ神戸っ! あそこに飛んでんの大きな鳥とかじゃないからなっ!」
「いやだって…ねぇ? こんなの全然異世界感ゼロだわぁー…」
「ほらっ! あそこにも二足歩行の獣いるしっ! ――全っ然異世界感ゼロじゃないからっ!!」
「…期待して損したなぁ~…」
えーっ! 変なの飛んでるし二足歩行で歩く獣とかいるのにまったく異世界感ないとか、コイツの基準が全然分かんないんですけどーっ!!
それに、今日は青空みたいだけど、俺が初日に見たときは恐ろしい感じの雲が空全体を覆ってて、絶対良くないことが起こってるよ!的な禍々しい雰囲気だったんですけどっ!!
またしても温度差を感じている間にも神戸は勝手に窓から歩を進め、あろうことか異世界に足を踏み入れる。
「…おいっ! そっちの世界は危ないって!!」
「えーっ、全っ然危なくないって。『ココ』は、異世界じゃなくてただの海外です」
窓のほうを振り返りそういうやつの頭上に、突如黒い影が現れる。慌てて目を向けるとそこには、体長3mくらいのドラゴンっぽい生物の姿があった。
――――だから『危ない』って云っただろーっ!!!!!!
これもう状況的に『神戸、異世界で死す。』確定コースだし、俺が助けに入ったところでドラゴンっぽいやつの食事×2になるだけだし、そしたら窓から異世界生物による大名行列が始まって『全人類終了のお知らせ』がぁぁぁぁぁああ…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます