第2話 できればちゃんと説明してください。

 俺だって契約した部屋の窓が異世界とつながってたと知って、もちろん不動産屋さんにどういうことか話を聞きに行ったさ。


「そのようなことを云われましても伊坂様、物件情報にも契約書にもちゃーんとその旨は記載してありましたけど?」


 中肉中背の短髪メガネの担当は『にっこり♪』と擬音が聞こえてきそうなくらい満面の笑みでそう云って、物件情報を開いたパソコンの画面と契約書の原本をご丁寧に見せてくれた。―――が、


(…文字ちっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっ…!!!!!!!!!)


 いや待て、確かにあなたの云う通り物件情報にも契約書にもちゃんと


『窓を開けるとなんと!異世界の絶景が広がるという贅沢なお部屋です』

『異世界と通じている南側の窓に関しては、一切クレームは入れません』


ってそれぞれ書いてあるけど、なにこの文字の小ささ! こんなの黒ゴマのほうがよっぽど大きいんじゃね?!ってレベルじゃないかよ、ちょっと!

 あまりの衝撃に文句のひとつでも云ってやろうと、手元の契約書から視線を短髪メガネ(扱いなんてこれで十分だろ)に移したさ。――そうしたら相も変わらずの『にっこり♪』笑顔で


「隅々までちゃんとお読みになったからこそ、サインされたんですよね?」


 …あぁ、はい。サインというのは本来、そういう意味でするものですもんね、そうですね。その契約書のサインがある限り俺は「窓を開けたら速攻異世界☆」状態だとしても、おまえに一切クレームを入れることはできないわけですね――…。

(――でも契約のときに隅々までちゃんと読んでても、こんっっっっっなにちっせぇ文字、だたの汚れかと思うわっ!)

 そうは思いつつも契約書にサインしてしまった手前、もはやそんなことを云っても言い訳にすらならないだろうと理解していた俺は、ただすごすごと自宅に引き返すしかなかった――というわけである。


 最初から確信犯だったな、あのメガネ野郎。そうでなきゃあんな圧を与えるような『にっこり♪』スマイルなんてできるわけがないわ。

 今思い出してもムカッ腹が立つような悔しい気持ちでいっぱいになるような――云ってしまえばまぁ、いろいろな確認を怠った俺が悪いんですけどね!



【本日の戦利?品】

・異世界との扉にしては心もとない自室の窓に装着できるカギ(工事不要)

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