窓から始まる異世界ライフ!

嵩冬亘

第1話 異世界との接点は突然に。

「東京で一人暮らしがしたい!」


 そう意気込んで田舎から上京してきたのが大学1年生の頃で、結局家賃の高さから憧れの東京といっても23区外に住むことを余儀なくされた当時の俺、伊坂幸人いさかゆきと

 当初夢見ていた生活とは程遠かったけれど、学生だから貧乏だったし、身の丈に合った場所といえばまぁ、そうだろうなと、それなりに納得もしていた。


 でも、無事に大学を卒業し、大企業ではないもののそこそこ名の知れた企業で働き始めた俺は考えた――。「やっぱり東京23区内に住みたい!」と。

 もちろん、まだまだペーペーに等しい人間の給料なんてたかがしれたもので、みんなが羨むようなマンションや億ションに住むことはできない。とは云え、大学生の頃よりは安定した収入が毎月入り、夏と冬にはボーナスも支給されるわけだから、余程背伸びをしなければ全然23区内に引っ越すことはできるはずだ。


 それから毎日のように住宅関連のサイトをチェックしまくり、ついに俺は夢のような物件と巡り合うことができた。


 ――そうそう、この物件をネットで見つけて速攻内覧にいって、引っ越しを済ませた当日まではテンションMAXだったんだよなぁー…。

 いや、でも表参道駅から徒歩5分程度の距離にある1LDKのマンションで、家賃が5万円って時点で何となく気づけよ俺って感じなんだけど、あのときはあまりの嬉しさに冷静な判断ができなかったんだと思う。


 だってさぁ、誰が予想できるよ? 一見普通に見えるベランダ沿いの窓を開けると、そこにはまったく違う世界が広がっているなんて――。過去に自殺した人がいるとか霊が見えるとか、そういう事故物件の話は聞いたことがあるけど、さすがに異世界とつながってるから家賃が安いですよなんて話は初耳だし、普通に考えてありえない。


 大体、『窓を開けると異世界への扉がオープン!』だなんて、晴れた日にベランダに布団や洗濯物を干すこともできない。常に部屋干しによる生乾き臭のなかで生活していろと? ――あっ、生ゴミの仮置きもできないし、夏も窓開けて涼めないじゃんかよっ!

 内覧の段階で一度でも窓を開けていればこんな事態にはならなかっただろうに…つくづくあのときの浮かれていた自分が恨めしい。


 ぶっちゃけ、異世界に対して何の興味も関心も好奇心もない人間にしてみればこんなの迷惑極まりないオプションであり、今すぐにでも引越ししたい気持ちで満々だ。

 しかし、引っ越し費用に加えて家具もいくつか新調してしまったため、そんなお金の余裕はどこにもない。

 結果、貯金ができるまでは最低でもこの部屋に住まなければいけない――。どこだかよく分からない、未知の世界とつながっている窓がある『この部屋』で。


(…こんなごくごく普通の引っ掛けるタイプのカギだけで本当に安全なのかよ…)


 とりあえず近日中に新たなカギを購入しに行こう――。心にそう決めると、引っ越し初日は諦めにも近い状態で、なるべく窓から離れた位置に布団を敷いて眠りに就いたのだった。



【本日の戦利?品】

・異世界に通じる扉を手に入れた!

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