第6話 花屋敷

「何だ!?」


 ベルセルクは見当違いな方向に突進し、商店街の店を一つ破壊した。

「くそっ! 体が思うように動かん!」

 ベルセルクは、ラックの方を向けないどころか、立つことすらおぼつかないようであった。

「ふん、ベルさんさ、僕達が何の意味もなくあんな無駄話をしていたと、本気で思っていたの?」

「な、何だと!?」

 「え? 違うの!?」と本気で驚いているアンジェは、とりあえず無視しておく。

「時間稼ぎに決まっているだろ。ロゼさんの技が発動するまでのな」

「うむ。ラックくん、ご苦労」

 ラックがにやっと笑うと、後ろでロゼがサングラスをぐいと持ち上げた。

「いったい何をした!?」

「ふふ、それは」

 ロゼはバッと両腕を広げて見せた。


「言うわけないだろ!」


「そりゃそうだ!」

 本当にノリのいい怪人だ。

 ただ、これでしばらくは時間を稼ぐことができる、とラックは安堵していた。

「ちょっと、ラック」

 そんな最中、アンジェが袖を引いてきた。

「どうしたの?」

「いったい何が起こったわけ?」

 何も知らないのはアンジェも同じだ。さすがに説明がほしいらしい。

「これが、ロゼさんの能力、花屋敷フラワーガーデンだよ」

 アンジェが頭にハテナを浮かべるので、論より証拠と、ラックはあるところを指さした。そこは、先程までベルセルクが立っていた場所である。

「お花?」

 そこには、青白い花が咲いていた。花はロゼの足元から無数に咲き散らし、ベルセルクの足元まで道のように続いている。

「ロゼさんは植物を操ったり、成長を促進したりできるんだ。ただ時間がかかるから、必死に時間稼ぎしていたわけ」

「必死に……?」

 何か言いたいことがあるのか。

「でも、どうしてあの怪人は、混乱した状態に」

「あの花はチョウセンアサガオの変種よ」

 答えたのは、ロゼだった。

「アサガオ?」

「そ、でも、チョウセンアサガオは麻薬に使われるような幻覚作用があるの。あいつは、それをもろに吸ったのよ」

「ま、まやく!?」

「あ、変種だから大丈夫。中毒性もないし、幻覚見るだけ。うん、大丈夫」

「な、なるほど」

 なんか言い訳がましいな。

 コホンとロゼは咳払いを一つした。

「つまり、しばらくは幻覚に惑わされてまともな攻撃ができないわ。ふふ、ざまぁみるがいい」

 ドヤッと見栄を切るロゼに、アンジェは感心したように、おぉ、と感嘆した後、それから心配したように尋ねた。

「あの、ロゼさん? そっちには誰もいませんよ?」

「……」

 再度、ロゼはぐいと胸を張った。


「……しばらくまともな攻撃できないわ!」


「いや、あんたもかよ!」

 花屋敷の必殺技、もとい自爆技である。

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