11-8

静かになった防人を見てリラは手にもっているスタンロッドを僕の腹部からゆっくりと離す。


「はぁ…はぁ…」


さっきまで叫んでいたからかリラの息づかいはかなり荒くなっている。

だらりと垂れる防人の手足を見て、リラは防人を捕まえているアームを離す。


「……や、やっつけたの?」


リラは落ちていく防人を見つめながら静かに呟く。


「いんや」


防人はニヤリと白い歯を見せると左腕のアンカーを飛ばし、操って地面に刺さった刀の柄にワイヤーを巻き付けると一気に引き上げた。


「ま~だだよぉっと」


宙を舞う刀をしっかりと左手で握ると防人は切っ先をリラへ向けて少し嫌みっぽく微笑み言った。


「くっ」


リラは目の前に浮かぶ自分の敵を見つめ、顔をしかめる。

それもそのはず、レールガンとスタンロッドで電気を消費したせいでバッテリーの残りがあんまりないのだから。


「どぉした? 来ないならこっちから行くぞ!」


防人はバックパックから粒子を吹かし一気に接近する。

リラはスタンロッドを急いでしまい、腕の刃を出しすと防人の刀を受け止める。


「ほらほらどぉした!腹ががら空きだそ!」

「うっ」


腹部に来る重い蹴り、吹き飛ばされたリラは体勢を立て直す。


「ほらほらまだまだ行くぞ!」

「――っ!!」


リラは防人の振るう刀を腕の刃でかろうじて受け流す。

さっきまでとは違う。

これがこの男の人の本当の姿なのか。

リラは背筋に氷が張り付いたような冷たさを感じる。

あまりの凶変に驚き、戸惑い、気圧されている。

リラは背中のアームを防人に向け、内蔵されているマシンガンを放つ。


「下手な鉄砲、数打ちゃ当たるが結局損の方がでっかいよってね」


防人は余裕そうに鉛弾を避けながら腰部のミサイルを放つ。

放たれたミサイルは少ししたところでマシンガンによって打ち落とされ辺りに爆煙を撒き散らす。


「はぁ!」


リラは煙の向こうにいる防人へ脚部のミサイルを放つ。


「どぉこ狙ってんの?」

「――!?ぐっ」


右から聞こえる男の声、リラは防人の振り上げた刀を二本のアームで受け止める。

動きの止まった防人に向けて腕の刃で攻撃しようとするが、彼はそれを難なくかわして再びリラの腹部に蹴りを入れる。


「はい、おまけぇ!」

「ううっ」


光牙から放たれたミサイルがリラの頭部に直撃し、メットに亀裂が走る。


「このっ!」


煙を払い、彼女は近接戦闘を加える。


「おっと」


リラの振るう左腕と背中のアーム、計3本の刃を防人はしっかりと刀で受け流し、避けていく。

だがそこにとどめることはできた。

リラは何か弱点のようなものはないかと目を凝らす。


――あれ?


ふとリラは妙なことに気がつく。

さっきから防人の右腕がピクリとも動かないのだ。

初めは手を抜いているのかとも思ったが、この状況で両手を使わないのはやっぱりおかしい。

現にリラの右側の攻撃の一部は避けきれず掠めているものもある。

もしかしたら動かさないんじゃなくて動かせないんじゃないのかな?

そう思ったリラは攻撃のを右側へと集中する。


「ちっ」


感づかれたか。と言わんばかりに防人は舌打つ。

防人は光牙の被害状況を確認すると右腕とその他所々が赤く点滅している。

他にも反応が鈍いところがあるし、恐らくあの電気のせいで回線が焼けたんだろうな。


「おっと」


しかし、少し不味いか……しゃーない。こっちもそこそこ食らうがこのままではジリ貧になるしな。

防人はリラの刃を受けとめ、腰のミサイルを放つ。


「ぐっ」

「きゃっ!」


防人は煙の中ですぐさま手の刀でリラの二本のアームを切り飛ばす。


「はぁ!」

「――っ!!」


彼女の首へ目掛けて降り下ろされる刀、だがその刀は彼女の首元でピタリと止まる。


「おい、お前…まさか……リ……リス?」


彼女の顔を覆う装甲が割れ落ち、顔の一部が露出する。

青い髪にサファイアのような瞳。それを見たとき防人は自然と口からそう発していた。


「リリス?違う。私はキスキル・リラだ」


彼女は防人の言った名を否定する。

しかし、防人にはその名前が浮かび続ける。


「う゛ぅあ゛ぁぁ!!?な、なんだ!?あ、たま……がぁ!?」


突如襲ってきた頭痛に防人は手に持っていた刀を落とし、頭を押さえる。


「な、何?何なの?」


リラもいきなり目の前で起こったことに戸惑う。


『やっと見つけました』

『現在、敵と交戦中の模様。牽制の後、彼女を連れて撤退します』

「う゛ぅっくそっ!」


防人は後からやって来たリラの援軍から放たれるマシンガンの弾丸を下がって避ける。

三人の援軍は防人とリラの間に入り、内二人が防人に向けて銃を構える。


「ご無事ですか」

「え?ぁ、はい。大丈夫…です。ありがとう……ございます」

「――!!」


残りの一人がリラに声をかけて様子を伺うと何やらテンションが上がったのか。彼女を抱き抱える。


「え?な、何を?」

「どうやらお疲れのようですので私があなたを運んで差し上げます」

「え?えっ?」

「安心してください。私がちゃんと抱えてますから」

「え?あ、えっと…はい」

「よし、撤退するぞ」


戸惑いながらリラが頷くと防人へ銃を向けていた二人はくるりと回転し、その場を飛び去っていった。


「一体彼女は? ……それに今僕は一体何を……ぐぅっ!!」


ちょうど敵が見えなくなる頃、防人の頭痛が頂点に達して意識は暗闇へと落ちた。

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