11-7
あれから数十分くらいにわたる戦闘。
彼女の持っていたガトリングにバズーカ、脚部のミサイルなどの遠距離武器はほとんど打ち切っていた。
全く、一体どこの武器庫をまるごと装備して来たのやら。
でたらめのようで意外と正確に撃ってくるのでこっちのシールドの数値は今はほとんど残っていない。
「はぁ!」
「くぅ!」
鳴り響く金属音、弾ける火花。
僕の持つ刀と彼女の腕の刃がぶつかり合う。
「はぁ…はぁ…」
僕は息を荒らげながら視界に敵を捉え続ける。
ある程度和らげているとはいえ高速で飛び回るのにはかなりのGがかかる。
さらに急旋回に急降下からの急上昇、その逆もしかり。
身体に溜まる疲労感は相当なものだが、これに似た疲労はATの特訓に比べれば断然マシだ。
それよりも驚いたのは彼女の動体視力だ。
僕の軌道の中心点に彼女を留めてはいるが、攻撃を全て両腕の刃で受け流している。
キンッ!と再び弾ける火花。攻撃を受け流され、僕はすぐに次の攻撃のために急旋回を始める。
「うっ!…」
突如、内容物が腹から込み上げてくる感覚が僕を襲い、僕は反射的に刀を持たない左手を口元にもっていく。
僕の動きが僅かに鈍ったその隙に彼女は右腕の刃をこちらに向ける。
するとスペツナズ・ナイフの如く腕の刃がこちらに飛んでくる。
まさかあの刃が飛ぶとは。
身体を動かせない僕は吐き気をこらえ、刀を思いっきり振り落として刃を弾き落とす。
「これなら!」
彼女は腰の装甲をその手で開き、中からマイクのようなものを取り出すと柄のそこに付いたピンを引き抜いてこちらに投げてきた。
――爆弾か!?
そう思った僕は飛んでくるそれを横にずれて避けようとしたが、沸き上がる内容物に身を悶えさせる。
目の前で轟音とともに爆発する手榴弾。ものすごい爆風と飛散する破片をもろに食らい残りのシールドの数値が1割を切る。
同時に喉元まで上ってきていた今日の朝食混じりの酸っぱい胃液が口一杯に広がっていき、頬袋が一気に膨らむ。
胃から送られている胃液の量はすぐに口内の許容範囲を超えて出口となる口から溢れだす。
ぼとぼとと落ちていく液体はちょうど真下の孤島の林中に落ちていく。
しばらくすれば土に染み込んで肥料となるだろう……多分。
しかしまぁ、ある意味では助かったのかもしれない。
腹の中身を口からぶちまける様子を相手に見せずに済むのだから。
女性に自分が吐いているのを見られるのはやはり抵抗感がある。恥ずかしいと言ってもいい。
とにかく、今彼女は「やったか?」と待ってくれているんだ。
爆発の煙が晴れる前にさっさと僕は腹の中身を空にした。
僕は手を覆う装甲を粒子に戻し、甲で口を拭って元に戻す。
本当ならば今すぐにでも口を濯ぎたかったがそれは叶わない。
僕は口内の酸っぱさを唾とともに吐き捨てる。
光牙も後でちゃんと綺麗にしてやらないとな。
僕はそう内心で呟くと右手でしっかりと刀を握る。
「ん、なんだ?」
煙が晴れると視界に映る敵の姿。
彼女はこちらに両手で構えた銃を向けていた。
まだ武器を隠し持っていたことに関してはもう驚かない。
問題はその形状、持ち手と引き金のついた球体に細い筒刺さっているだけ、しかしこちらに向けている銃口部分に向かうほど幅は狭まり、銃口は筒の半分くらいまで細くなっている。
長さは彼女の身長よりも長いのではないだろうか。
さらにその球体からバックパックへと伸びる黒くて太いコードのようなものが伸びている。
「それは?……」
『私はパパの仇を撃つんだ!』
僕の言うことが話を聞いていないのか、それとも聞こえているがまともに取り合っていないのか。
どちらにせよ彼女が相当頭にきているのは口にする声からわかる。
構えているものは切り札みたいな感じなのかな。
わからないけど、撃たれる前に切ればいい。
武器を失えば、戦うことを諦めてくれるかもしれない。
それが無理でも話くらいは聞いてくれるかもしれない。
僕は刀をしっかりと握り、最短距離で敵に接近する。
「――!?」
彼女の構える銃バチバチという音をたてながら銃口がピカリと光る。
そして気づけば大量の火花をあげて光牙のシールドの数値が底を尽き、≪リロード≫の文字が表示される。
「今、の…は」
弾が見えなかった。しかもあの、電気の弾ける音。
「レール…ガン」
僕は無意識に頭のなかに浮かぶ言葉を口にする。
レールガン
電流を通す伝導体を弾としてこの弾の上に流れる電流とレー ルに流れる電流に発生する磁場により弾体を加速、発射するもの。
しかし、あれにはかなりの電気が必要になる。
となると背中の大きなバックパック。
あそこにはバッチリーが恐らく入っているのだろう。
いや、それ以前にリアルの戦争系のゲームあの手の兵器はかなりの大型で固定砲台だったりするから人が手にもって撃てるサイズまで小型化出来ていることに驚いた。
まぁ粒子砲とかあるのに何をいまさらという感じもなくはないが驚いたものは驚いた。
『ふふふ、すごい、すごい。この銃に力があるのがこの手に伝わってくる。これさえ、これさえあれば貴方を倒せる。これならパパの仇を討てる』
心の奥底からうれしそうに笑う敵。
彼女は再び、引き金にかけた指に力を込める。
再び放たれる弾丸。しかし、今度の弾の速度は遅く、素早く体を反らしそれを避ける。
恐らくあの銃は威力の高い弾を撃つためにある程度チャージが必要なのだと僕はそう思い、敵に高速で接近する。
「うっ」
体にかかるGに顔を歪ませつつ、歯を食い縛り、彼女の持つ銃に狙いを定める。
『くっ』
放たれる弾丸、僕は銃口の向き、引き金にかかる指をしっかりとズーム、確認してあの銃から弾が放たれる直前に体を動かしてそれを避ける。
『なんでっ当たらないの!?さっきは当たったのに』
彼女は声を上擦(うわず)らせ叫ぶ。
どうやら武器の性質をよく理解していないようだ。
「はぁっ!」
懐に飛び込むと手を捻って刃を上向きにし、刀を振り上げる。
銃身が音をたてることなくあっさりと切れ、歪なハンドカンが出来上がる。
やったと思った瞬間に球体の持ち手のちょうど反対側がパカリと開き、中から金属の棒のようなものが露出、その先の方がこちらに向く。
「チッ」
危険だと直感的に判断し、後ろに下がろうとするが、それは叶わない。
なぜなら金属棒の露出とともに彼女のバックパックが真ん中から縦に二つに割れ、180度回転、アームとなってしっかりと僕の両肩を掴んだからだ。
腹部に当てられる金属棒がバチバチと音を立てて電気が流れ始め、激痛が身体を襲う。
「うぁぁ!」
光牙からの警告が鳴り響き、自然と口から苦痛にまみれた叫び声が漏れる。
逃げようにも体は二本のアームにしっかりと捕まれている。
そのアームを切り裂こうにも身体が言うことをきかない。
全身に走る激痛、筋肉がピクピクと激しく痙攣を起こしているのがわかる。
ヤバイ、意識が……。
徐々にうるさいほどに鳴り響いるはずの警告音が離れていく。視界が歪み、辺りが暗くなっていく。
◇
僕は…死ぬのかな?
『うぁぁぁ!』
真っ暗な闇の世界に浮かぶ僕の耳に届く幼い少女の叫び声、さっきは分からなかったけど今はどこかで聞いた気がする。
誰なのだろう?どこで聞いた声なのだろう?
思い出せそうなのに…出てこない。
君は誰なんだ?
しかし金縛りにあったみたいに身体は動かない。声もいくら叫ぼうとその口から出てくることはなかった。
――全く、懲りねぇ奴だな。
また、だ。今聞こえいる少女の声とは違う男の声。
……だ?
――ほぅ、俺の声が聞こえてんのか。となるとお前、今かなりヤバイ感じなのかな。
彼にはこっちの声が聞こえているのか、かなり気楽そうに話しかけてくる。
――ふむ、たしか人は死にかけると今までの出来事が甦って来るんだったな。
君…は?
――俺か?俺はお前だよ。
君が、僕? 彼が何を言っているのか僕にはよくわからない。
――そうだ。ふむ、どうやらうまくいきそうだな。少し借りるぞ。
借りる?
そう言ったとたんにドクン!と何かが全身に走り、僕の意識は再び飛んだ。
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