11-6

光牙からの警告、出撃してすぐに僕は上から来た彼女の振り下ろした刃をさける。

しかし素早く推進機によって高速回転した敵の刃が迫り来て僕の構えた刀が競り合う。

キーンという甲高い金属音と後、二人の動きが止まる。


「くぅっ…重い」


僕は刀の峰に左手を添え、両手で刀を支える。


『お前が、お前が殺したのか!?』


ガチガチと刃がぶつかる音とともに僕の耳に届く彼女の張り上げられた声。

顔は隠れて見えないが、その声から怒りが伝わってくる。

恐らくだが鬼のような形相になっているのだろう。


「殺した…一体誰のことだ?」

『分からないの!?』

「ぐっ」


彼女の声、腕に力が増す。やばい。このままでは押し切られそうだ。

僕は急いで刀を傾け、相手の刃を横に滑らせ、すぐさま後ろに離れ距離をとる。

しかし…彼女がそこまでヒスっている理由は分かったが、一体誰を殺したというのか。

殺した。殺した…分からない。

しかし、あの怒りは本物だ。僕の勝手な直感だがそう思う。


「僕は誰かを殺した覚えはない。なぁ、誰のことを言っているのか教えてくれ」

『――っ…この!』


彼女は背中に背負ったガトリング銃を構える。

轟音とともに一定感覚で雨のように次々と銃口から放たれる鉛弾。


『本当に覚えていないとシラを切るつもりなの?』


同時に彼女は怒りに震えた声で言葉を放つ。


「いや、だから振りとかじゃなくて本当に知らないんだって!」


知らないものは知らないのだ。

人を殺したそんなことを忘れられるはずがない。

怖い話が聞けない気の弱い僕なら尚更だ。

そんなことをしていれば確実に夢に出てくる。

勘違いで殺されてはたまらない。

僕は少し声に力を入れて返答する。


『本当に…知らないの?』


気圧せたのか、僕の思いが伝わったのか、彼女の声から勢いが消える。


「あぁ、知らない。一体誰のことを言っているのか本当に分からないんだ」

『本当に、本当に知らないの?パパのクレイマー・シュタインのことを』

「クレイマー…シュタイン?」


なんだ?初めて聞いた名前なはずなのに、初めてじゃない気がする。


『ねぇ?どうして黙っているの?』

「あ、あぁ…いや」

『やっぱり…知っているんだね。知っているのにどうして嘘をつくの?どうして殺したの!?』


くそっ話し合えそうだったんだけどなぁ。

人が乗っているGWとどうやって戦えば良いのか分からない。けど、やるしかないか。



「失礼しますよ」


黒服に眼帯とパッと見るだけでも例の病気にかかっているのではないか。

周りにそう思わせる格好をした少し小柄な少年『ヒロ』は軽く会釈をした後、部屋の中へ足を踏み入れる。


「遅いぞ、12分と24秒の遅刻だ」


入り口からの明かりのみに照らされた薄暗い部屋の奥から少し不機嫌そうな声がヒロの耳に届く。

ATだ。ヒロは彼がちゃんと起きている事を確認する。

薄暗い彼の部屋、もちろんここはプライベートルームではなく仕事部屋だ。

だが、その部屋の暗さは暗視ゴーグルが必要なほど暗い。

ヒロは仕事柄暗い所でもかなり目がきく。

しかし今は人がいても影がうごめいているようにしか見えず、表情などはわからないのだ。


「悪いね。ちょっと野暮な用事が出来てたもんで……寝てた?」


ヒロは後ろの扉が閉まり真っ暗になった部屋で再び会釈し、謝罪の言葉を口にする。

ヒロからしてATは上司にあたるのだが、敬語を使わず慣れ親しんだように話す。

恐らく大抵の相手に対してこうであろう。


「いや。それよりも、野暮な用事とは私に連絡するよりも大事な用なのか?」

「ええ、ちょっと鮫に道を聞いたら襲われたんですよねぇ。その時、ちょっと絶華(たちばな)の腕がポッキリいっちゃいましてね。それの簡単な治療と付いて来ないようにしっかり話し合ったりとまぁ、色々とあったんですよね」

「絶華と会ったか」

「えぇ、会いましたよ」

「その時、私のことは」

「言ってましたよ。ただそれは全部防人君のでしたがねぇ」

「そうか…」

「あぁ後それから防人君はATではないことは話してませんよ。絶華のただの勘違いですからそれがばれて彼が死んだら困るんでしょ?」

「…あぁまだ、な。……それで例の件はどんな感じだ?」

「えぇ、クレイマー・シュタイン…彼が襲われたと向こうの国のお偉方に連絡してもらいました。そしたら『彼』は案の定食らえつきましたよ」

「そうか…」

「もうしばらく泳がせて様子見をした方が良いですよね」

「あぁ本来なら今すぐにでも捕らえてやりたいが、奴の逃げ足はかなりのものだからな、ゆっくりと逃げ場を無くしてから追い詰めれば良い」

「りょーかーい。んじゃまぁ彼はしばらくの間ブレア…あぁ向こうの上司のとこにいるみたいなんで俺もしばらくはこっちにいさせてもらいますよ」

「あぁ、どのみちお前の眼が出来るまでは帰れないからな仕方ない」

「ではでは話はこれで、この後 絶華と遊ばなきゃならないので失礼します」


彼はふざけ半分に大げさに腕を胸の前に持っていって今度は深々と会釈をするとクルリと回って部屋を出ていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る