11-5
「ふぁっん~、朝から疲れたな…」
アリーナでのトーナメント開催挨拶中、僕は口元を手で隠しながら大きなあくびをする。
戦闘が行われていたという場所に皆で到着した時には既に誰もおらず、結局そこらに落ちていた物を回収、持ち主を調べるためにこの類の武器を使う専用機もちの生徒のデータと照らし合わせたところ一人としてヒットはしなかった。
誰かが独自で造り上げたものなのかどうかまでは分からないが、とりあえず回収したものをしまってから実技テスト≪学年別トーナメント≫の行われる各々の会場(アリーナ)に入場したのだった。
そして数十分に渡るトーナメント等の説明が話される。
トーナメントは学年別に分けられ、シャッフル、自分の名前の書かれた枠内に書かれた他の人の名前が対戦相手である。
トーナメント用に設定された1000ポイントの粒子シールドを先に削り切った方が勝者となり、再び勝ち残った者でシャッフルされて次の相手が決まる。
そして最後まで勝ち残った者が優勝、自分自身の順位によって単位がつけられる。
更にこの学年別トーナメントで1位~10位にランクインした者には賞金が与えられる。
という事が先生の口から話されている。
さて、数十分にわたる先生の説明が終わり、最後に開催宣言が生徒会長から放たれる。
「それでは、生徒一同。正々堂々と闘って優勝を勝ち取りなさい!」
彼女の声が響き渡り、生徒たちの喚声があがった。
◇
一学年のクラスは全4クラスで生徒数はおおよそ百名ほど。
人数が多いので初めの方は順番が来るとまで待たされることとなる。
僕の番は3番目とけっこう早い方だと思う。
順番まで何をしていてもいいとのことなのだけれど、いつ終わっていつ自分の順番が回ってくるのかよくわからないので僕はちゃんと更衣室で待つことにした。
ここなら観戦モニターもあるし、アリーナ内部への出撃口も近い。
少し遅れたとしてもなんとかなる。
しかしここで特にこれといってやれることもないので僕は静かに観戦することにした。
のだけれどね。
「おっす、何してんだ!?」
相変わらずな奴が来た。
因みに言うと僕の学年別トーナメント1回戦目の対戦相手はこいつだ。
「はぁ~」
…一体、こんなことをどこの誰に言ってるのだろうか?
分からない。
疲れてるのかな?
「どうしたんだ?おーい!」
「うるさいなぁ、そんな耳元で言わなくても聞こえてるよ」
あー耳がキーンとする。
「おう、そうか」
植崎は僕の座っている長椅子にドシッと全体重をのせて腰かけるとギッと大きな音を立てて椅子が軋んだ。
この椅子がステンレス性でなければ折れてたかもしれない。
それくらい大きな音をだった。
僕だったらヤバイかなと立ち上がってしまうが、こいつは違った。
僕との間にあるスペースに肩掛けバックを置き、中から携帯ゲーム機を取り出してスイッチを入れた。
ゲーム機が起動し、スリープから目覚めたゲームからBGMが流れ始める。
しかも大音量で。
流石に植崎も「ヤバ」って言って音量をすぐに下げた。
そしてポーズ画面を解除してピコピコとゲームをし始めた。
よくもまぁ何事もなかったかのように始められるものだ。
こちとら心臓がバックバックしてますよ全く。
なぜこっちが冷や汗かかなきゃならんのですかねぇ。
周りに、いやこの更衣室に僕たち意外誰一人といなかったのは本当に幸いでしたよ。
だってね、人がいたら視線がこっちに集まってくるわけじゃないですか。
しかも「何してんだ?こいつは」みたいな軽蔑してくるような眼差しが!
とにかくまぁ誰一人といなかったのは本当に本当によかった。
これはもう両手を合わせて神に拝んでもいいかもしれない。
まぁ心の中だけで実際にはしないんですけど。
さてさて、自分たちの番が回ってくるまでまだまだかかりそうなので僕は植崎(こいつ)のしているゲームでも横から覗いて時間を潰すことにした。
◇
その頃、AT所有の小さな孤島の小さな小さな研究所(ラボ)の周辺では
「ん?何だ?……ロボット?」
孤島周辺を警備するATの部下と無人機(ガーディアン)たちがこちらに接近してくる黒い大きな影をセンサーで捕捉する。
「こっちに向かってくるぞ」
「まさかここにボスの基地があるのを何者かに知られて」
「そんな馬鹿な。ラボには全て外から見えないようステルスが施されているのだぞ」
「ですが隊長。あれは真っ直ぐに確実にこちらに向かって来ています」
「……そうだな。一応ガーディアンたちを所定の位置で待機させておけ」
「了解しました。隊長」
「それから」
「はい。何でしょうか?隊長」
「隊長はやめろ。ここの警備は私とお前の二人だけなんだから」
「あーそうでしたね。ここは一番小さい場所だからって理由で人員も戦力も最小限に押さえられてるんでしたね」
「あぁ、だからどうせ呼ぶなら暗号名(コードネーム)で頼む」
「了解しました。隊長」
「…あれ?私のコードネームってそうだっけ?」
「いえ、ただコードネームを決めてないだけです」
「あーそうだっけ?…じゃあ隊長でいいや」
「わっかりました!隊長」
彼はビシッ!と敬礼をする。
「よし、それでは行くぞ」
「はい!」
こうして二人の絆は少しだけ深まり、ゆっくりと黒い影へと近づいていく。
◇
「んん、疲れた~」
グッと伸びをしながら更衣室に戻ると僕の生徒手帳に設定したおいた着信音が鳴っているのに気がつく。
ATからだ。何の用だろう?
嫌な予感がする。でたくないけどでないとうるさいしなぁ。
画面を確認しつつ僕はそう思い、ロッカーの中にある鞄から生徒手帳を取り出して受話器マークに触れる。
「はいもしもし?」
『…遅い。さっさと出ないか』
「ごめん。今、実技テスト中だったからさ」
そう彼と友達の僕は気軽に言った。
『そうか』
「それで、何の用?」
『仕事だ。私の研究所(ラボ)の1つに敵が近づいて来ている。早く来い』
「え、いやだから僕、今、テスト中なんだけど…」
『だから?』
「いや、だからじゃなくて…」
『別にいいけど、お前の部屋の件…いいのかなぁ?』
「……」
うっわムカつく。
挑発的に言ってくるのがすごくイラッとくる。
あいつが今、どんな顔をしてるのか容易に想像できそう。
だからといってここで首を横に振れば部屋はそのまま。
パテとかで自分でキズを埋めたりすればいいかもだけど失敗した時が怖い。
修理に一体いくらかかるのか分からないけれど恐らく相当な額になる。
だから僕にここで首を横に降ることはできない。
それを分かっててああやって言ってくるのが本当、ムカつく。
まぁしかしこんなことでピリピリしてても体に悪いだけだし、どっかの赤髪の海賊みたく笑うことはできないけど大抵のことはスルーしましょ。
うんうんと僕は首を縦に降り、口を開く。
「分かった。けどさ、テスト一回戦突破してるんだけど…」
『大丈夫大丈夫。敵は一人だけだし、すぐにかたづくって』
「いや、でも時間がかかったら…」
『面倒な奴…』
「聞こえてますよ」
『知ってる』
「……」
スルー、スルー、スルー、シースルー。
よし。
「それで?もし、時間がかかったらどうすれば?」
『チッ…分かった。こっちで話はつけとく』
「ありがとう」
『…詳しい話はラボに着いてからだ。まずは教員寮一階の転送装置まで来い。連絡が来たらこちらから起動させる』
「分かった」
『では、また後でな』
通話を切り、僕は制服を着てから目的地へ向かう。
◇
装置を起動してもらい、僕はATの言うラボに到着する。
到着して目の前に広がるパネルにモニターに光が点り、外の様子が映し出される。
『これが今回のターゲットだ』
ATの声が聞こえ、僕はモニターに集中する。
青い空を背景にこちらに向かってくる大きな黒い陰。
ゴツゴツした黒い全身装甲はなんというかスーツというよりはロボットだった。
そのロボは重火器やシールドを体中に取り付けており、かなりの重装備だ。
「初めて見るな」
『そりゃそうだ。俺だって初めてなんだから』
「ふーん、じゃああいつがどんな武器隠し持ってるとか分からないんだね」
『だから、それを今から調べるんじゃないか』
「なるほど……て、え?僕が?」
『あぁ、そうだよ』
当たって欲しくない予感ほど当たるものだな…。
「いや、そうだよ。じゃなくて、それくらいなら別に他の人に頼んでも別に構わないんじゃ」
『私の直属の部下には別の仕事を頼んでいる。それにアリスたちに頼みたくても試験なら仕方ない』
なんだそれ?
「じゃあ僕は場合は仕方なくないと?」
『当たり前のことじゃないか』
言い切りやがった。
『では、よろしく頼むよ。私は私でやることがあるからね。光牙の戦闘記録ちゃんと送ってくれよ』
プツリと通信が切れる。
「あ、おい!」
こちらから電話をかけるが、繋がらない。
「っ仕方ない。やらないと帰れないし、あれって人のってんのかな?」
僕は少し不安を感じつつ外に出る。
出口が分からなくて少し迷ったのは内緒の話。
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