09-9

「どうやら彼女…少し本気を出したみたいだね」


モニターを静かに見つめていた愛さんが竜華さんの構えを見てそう呟いた。


「本気…?」

「うん、彼女の身を守るのは自分の意思で発生させるものと自動で発生する二種類の粒子シールド。そしてさっきのトンファー…そして彼女はいま、粒子シールドの数値を減らさずに防ぐのに必要なものをしまった…」

「つまり、竜華さんは多少のダメージ覚悟で勝負を?」

「んーそれもあるけど、彼女は道具を使う類の近接格闘術よりも何も持たない徒手格闘術の方が得意というか好きみたいなんだよ」


愛さんの話を彼女の顔を見ながら僕はふーんと思いながら聞く。


「あとは…そうだね、手で物を掴めることかな?」

「物を…?」


――どういうことだろう?


「…まぁ、それは見ていれば分かるんじゃないかな?」

「見ていれば…ですか」

「うん…さて、粒子シールドの残りはほぼ同等。この勝負どうなるかな?」


会話を終え、僕らは静かに視線をモニターへと戻す。



『さて、行くよ!』


竜華さんは背中のバックパックから粒子を放出、めだかさんに接近しながら握り拳を作り、彼女を狙う。

めだかさんはその場に止まり、少し意識を集中する。

二人の間に粒子の透明な壁が発生し、竜華さんの繰り出した拳が遮られる。

すぐにめだかさんは間に壁の無いところまでサイドステップし、拳銃を放つ。


『くぅっ』


竜華さんは素早く手を引き、バックステップ。

先程まで彼女の顔があったところを光の弾丸が通過し、粒子の壁が細かに拡散する。


『む…』


めだかさんは少し悔しそうな顔を一瞬だけして彼女の側面から拳銃を放ち再びサイドステップをして後ろ側に回り込むと、手に持った剣で彼女の胴体を狙う。


『ふふっ…』


ニッと竜華さんは不適に微笑むと横からの弾丸を前進して避けた後、くるっと180度回転してめだかさんの持つ剣の光の刃を粒子を纏ったその手で掴む。

手と刃の間でバチバチとプラズマが発生、竜華さんのGW≪ウンフェアゲングリッヒ≫の粒子シールドの数値が減少していく。


『…!!』


めだかさんもこれには驚いたようだ。

動きが僅かに鈍る。

竜華さんは透かさず刃を掴んだまま吹かした粒子で体勢を横向きにして、めだかさんを蹴り飛ばす。

めだかさんのGW≪プリエースヌィー・マーリィチク≫の粒子シールドの数値が2割ほど削れ、彼女は壁へと一直線に飛んでいく。


『くっぅ』


めだかさんは顔をしかめ、粒子を使って体勢を立て直そうとする。

しかし竜華さんがこの機会を逃すはずもなく、彼女を追う。


『くっ…』


センサーで感づいためだかさんはアリーナの壁に向け加速、観客を守るための不可視の防御シールドに手をついて身をひるがえし竜華さんの拳を右腕のシールドで受け止める。


『ぐぅ……!?ヒビが…』


重みがめだかさんの腕にかかる。がすぐにパキパキと嫌な音を立ててシールドに亀裂が入ったのに気がつく。


『くぅっ』


めだかさんは舌打ち、シールドを分離しつつ降下。

着地して痛む右腕をバイザーで確認。

特に問題ないことが分かる。


『あぁ…あの盾は学園からの借り物でしたのに…要らぬ出費が増えてしまいましたわ』


――しかし…あの方の力はとてつもないですわね…彼女自身の身体能力も高いようですし、まだ一枚しか壁を作り出せないのが悔やまれますわ。


めだかさんはそう言ってギリリと歯ぎしりをする。

軽い物言いで分からないけど内心ではどう思ってるのだろう?


『それは悪かったね。後でシールドの代金の書類を私に渡してくれればその代金を払ってもいいけど?』


竜華さんの言葉を聞いためだかさんの表情が険しくなる。


『冗談は止(よ)してくださいな。貴女いえ風紀委員や生徒か…』


めだかさんは少し口籠り、軽く首を振る。


『いえ…とにかく恩を作ればそれを理由にされてしまい、この勝負の意味がなくなってしまいます!』


めだかさんはそう言い終え、竜華さんに拳銃の引き鉄を引きながら接近する。


『別に私はそんな酷…あわっ…全くもう』


竜華さんは弾丸を避けつつそちらもめだかさんに左腕を引きながら接近する。

途中、引いた腕の手首の装甲が後ろへカシュッとスライドする。


『ふっ』


めだかさんの剣を右手で掴んで上へ挙げると竜華さんはぐっと白い歯を食い縛り、引いている左拳を彼女の腹部に向けて前へつき出す。


『ぐっ』


拳は彼女の腹部手前で止まり、≪マーリィチク≫の粒子シールドの数値が減少する。


『このっ』


めだかさんは掴まれた剣から手を離す。

粒子の刃が消え、柄のみが地面へ落ちていく。

そして残りもう1本の粒子剣を取り出して竜華さんに向けて降りおろす。


『衝撃拳(インパクト・ナックル)!』


竜華さんがそう叫ぶと何かを認識したような音が≪ゲングリッヒ≫から鳴ると同時にガコンという音を立てて装甲が元に戻る。


『ぅぐ!!?』


めだかさんは目を見開き、呼吸が一瞬止まる。

≪マーリィチク≫の粒子シールドが一気に減少。

高速で防御シールドへと吹き飛び、そのまま激突して動きが止まる。


『がはっ!』


めだかさんはそのまま地面に落ち、砂ぼこりを巻き上げる。


『ぅぐ……はぁ…はぁ…』


呼吸を荒げ、腹を押さえてゆっくりと転がって仰向けになる。

竜華さんはゆっくりと近づき、立ったまま拳を彼女の顔に向ける。


『どうかな?体の芯にまで伝わる拳の威力は…そろそろ限界じゃないかな?』

『…はぁ…ふ、ふふ…な、なかなかやりますわね』

『降参(リザイン)してもらえないかな?』


めだかさんは拳銃の引き鉄を引き、竜華さんは一歩後ろへ飛んで弾を避ける。

めだかさんは膝に手をついてゆっくりと立ち上がる。

1度、深呼吸をしてからめだかさんは口を開く。


『ご、御冗談を…言わないで下さい。ワタシは諦める気はありませんわ!』


彼女は叫び、武器を再び構える。


『…そう。それならこっちも止めるわけにはいかないよ!』


彼女は瞳を閉じ、そう言って力強く地面を蹴飛ばした。



そんな戦闘の様子を僕は膝の上で手に汗を握り、眺めていた。

しかし、今のこの状況を黙って見ているということは僕にはできなかった。

もう一方的だった。

めだかさんの呼吸は乱れ、拳銃の手振れも酷く動いた方がむしろ当たるほど…。

粒子シールドで体は守られているとはいえ、攻撃の重さに立っていられずになりバックパックに頼っている。


「どうして…」


どうしてあの人はそこまで頑張るの?

降参してしまえば終わるのに、解放されるのに…


「諦めてしまえば楽なのに…」


僕のこぼした言葉に愛さんが反応する。


「それはね。諦めたらそこで試合終了…全てが終わってしまうからだからだよ」

「終わる…」

「そう、彼女はこの勝負にこの学園での恐らく彼女の全てをかけているわ。例えば部活は彼女が負ければ自分を含めた部活のメンバーにもペナルティーが課されるし、任務をこなし手にいれたものもそのほとんどを取られて消える。努力の結晶たる部活自体の存在が消えてなくなってしまう」

「……。」

「私ならそんなことはしたくないから降参何てしないかな。どうせ負けるのなら最後まで戦ってそれから負けたいな」

「……そう、ですか」


確かにそこまでしているのならば諦めるわけにはいかないのもわかる…。

こういう気持ちをなんというのか分からないけど、なんだかめだかさんに頑張れと言いたくなった。

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