09-8

17:30


愛さんの指示を仰ぎながらも準備を無事済ませ、僕は椅子に寝そべるように腰かける。


「ふー終わった…」

「お疲れ様」

「ありがとうございます」


受け取った紙コップの中に注がれたお茶を口に含みつつ部屋の窓から外を見ると二人の勝負を見ようという生徒がかなり集まってきていた。

これも写真部兼新聞部が話を広めたのだろうか。

そしてここから見える観客席の一部では何やらピンク色のハッピを着た一団も見える。

あれがめだかさんの言っていたファングループという人達なのだろうか?


「外、すごいですね。たった数十分でこんなに集まるなんて…」

「最近はこういう本気の戦いは無かったからね。ちょっとした練習試合ぐらいはあったけど」

「へえ…そういう試合とかでもこういうのしているんですか?」

「そういう時は大体の事はオートかな。時々オペレーターは状況によるけど一人で複数人数分相手をする事があるからその練習の時に顔を出してギターのチューニングみたいな感じで微調整するだけだったんだけどね。この前にシステムを更新したからかな?保存しておいた設定がリセットされてたんだよ」

「そうだったんですか…調整が間に合って良かったですね」

「うん、そうだね」


二人が話していると外から観客の歓声がここまで響いてくる。

窓の外では準備を済ませた竜華さん、めだかさんの二人がGWを纏った状態でグラウンドの中に入って来ていた。

ゆっくりと中央に向かって歩き、数メートル離れて向かい合う。

この部屋にある二つのモニターが二人の姿を別々に捉え、映し出す。


「では両者準備はよろしいですか?」


少し間を開けてから僕の隣に座っている愛さんはマイクを使い、二人に確認をとる。


『うん』

『いつでもよろしいですわよ』


すると僕のいる放送部屋にあるモニターに映る二人が頷き、スピーカーから声が聞こえてくる。


「それでは、今回の勝負についてのルールを説明させていただきます。形式は一対一、両者に与えられる1000ポイントのシールドエナジーが先に尽きた方が敗北となります。使用する武装についての制限はありません。それではカウントダウン15(フィフティーン)」


ルールの説明している途中、観客席の所にある鉄の柵で囲まれた場所にホログラムで二人の姿と粒子シールドの1000という数値が表示される。

カウントダウン中、二人の会話がスピーカーから聞こえてくる。


『竜華さん!ワタシが勝てばちゃんと部員の皆さんを解放してもらいますわよ』

『自信満々だね』

『当たり前ですわ!負けるなんて思っていたら勝てる勝負も勝てなくなります。だからワタシは絶対に勝ちますわ』

『なるほどね。そういう考えは私も嫌いじゃないな』

『そうでしょう?』

『だけどね、人をいきなり捕まえて監禁するような危険人物を野放しには出来ないからね。貴女には私達風紀委員及び生徒会の監視下に置かせてもらうよ』

『それはワタシに勝てたらの話ですわよ』


カウントダウンが終わり、ブザーが鳴り響く。


「試合開始です」

『行くよ!』


竜華さんはトンファーを取り出して、砂ぼこりを巻き上げながらめだかさんに向かっていく。


『速い!…ですがっ見えないわけではありませんわ』


めだかさんは粒子拳銃を取り出し構え、発砲。

竜華さんは右へ左へ僅かに体をずらしてそれを避ける。


『んん』


めだかさんは少し顔をしかめ、拳銃を横に投げ捨てて粒子化。

同時に粒子剣を取り出して竜華さんのトンファーを防ぐ。


『なかなかやるね…でもっ』


竜華さんの追撃、それをめだかさんは剣と盾を使い綺麗とは言えないがさばいていく。

でも、めだかさんの粒子シールドの数値が10、20と徐々に減っていっている。


――このままではいけませんわね


めだかさんは竜華さんが避けるように分かりやすく剣を振り、本人も後ろへと下がる。

そして右手にもつ剣をすぐに拳銃へと持ち替える。


『次はこちらから行きますわ!』


地を蹴り拳銃で発砲、竜華さんがこれをトンファーを使い防ぐ。

めだかさんは発砲しつつ近づき、剣での連撃。

竜華さんのトンファーをひとつはじき飛ばす。


『貰いましたわ』


拳銃を剣へと素早く持ち替え、左右から竜華さんへ光の刃を近づける。


『ふっ!』


竜華さんはひとつをトンファーで防ぎ、もうひとつを自分の手で素早くはじき飛ばす。

直接触れてはいるが、粒子の減りは殆ど無い。


『!!……その拳、粒子を纏っていますのね』

『うん…驚いたかな?』

『いいえ、ワタシも粒子の扱いには慣れた方なんですの』


めだかさんのGW『プリエースヌィー・マーリィチク』の背中から光の粒子が発生し、彼女の全身を一瞬だけ取り巻いて拡散する。


『便利ですわよね、ワタシは自在に姿の変えられるこの粒子こそが防御と攻撃を兼ね備えたすばらしい武器なのですと思っておりますわ』

『でもね、あんまり広範囲のコントロールはかなり神経使って疲れるし、徐々に拡散してしまうからエネルギーは常に送らなきゃならないから燃費はとても悪いけどね…』

『えぇ、ですのでこの勝負を手早く済ませたいと思います』


めだかさんそう言って拳銃を構え発砲しつつ、宙に浮かぶ。


『空中戦…踏ん張れないから嫌いなんだけどな』


竜華さんは地を蹴り、飛び上がり彼女を追う。

弾丸を避け、近づいてめだかさんが振り上げた左手の剣を少ない動きで避けると彼女はめだかさんの頭部目掛けてトンファーを回す。


『くっ』


めだかさんの反対の手に持った拳銃が竜華さん目掛けて弾丸を放つ。


『…っ!?』


避けようとするも竜華さんはめだかさんの作り出した粒子の壁に阻まれ、弾丸が全弾直撃。

シールドの数値が1割ほど減少する。

すぐにトンファーを振り回し、めだかさんはこれを下がって避ける。

同時に壁は消え失せ、竜華さんも少し距離をおく。


『なかなかやるね…まさか自分の身を守る以外の壁を作れるとは思わなかったよ』

『ふふっ…これ、できるまで結構苦労したんですのよ。…とはいえ、まだまだワタシの周囲でのみ。しかも集中しないと発生させることは出来ませんが…』

『それでも私にとっては厄介かな…』


少しして竜華さんは相手を見たままトンファーをしまう。


『…武器をしまってどういうつもりですの?』


めだかさんの質問に対し、彼女は何も言わずに小さく短く息を吐いて構えを変える。

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