08-4

5月5日 土曜日 16時40分


ヴー…ヴー…と一定の時間振動するそれに僕の意識は戻ってくる。


「ぅん?」


どうやらいつの間にか眠っていたらしい。

ポケットに入れていたはずの生徒手帳はベッドに転がっている。

それがどういうわけか僕の腰の辺りで下敷きになっていて振動が直接体に伝わってくる。


設定していた振動パターンからしてメールのようだ。

僕は体とベッドに挟まれた振動目覚ましを助け出してメールを確認する。


──先生からか、なんだろう?


『教員寮に来い』


短くそう書かれた内容。

時間を表記していないということは今すぐに来いということだろう。

さすがに先生の前で普通の私服はまずいと思ったので僕はベッドから降りてハンガーにかけた制服に着替え始める。


ちなみに普通でない私服とは生徒手帳内のカタログに売られている服のことである。

それらの服には特別な繊維が使われており、ライフル弾程度ならば防ぐことが可能のいわゆる防弾服であるらしい。


至近距離で放たれた場合とても痛くて打撲になるらしいんだけどその防弾服が売られているカタログではかなり薄手で見た目はその辺で売っているようなごく普通の服に見えるし、防げるだけですごいと思うんだけど。

あぁそれから一応言っておくけれどここで言うライフル弾はもちろん実弾だ。


特殊繊維の布も単品で売られていて自分の好みの服を造り出すことが可能みたいなんだけれど、在庫が少ないことに加え、かなりの高度技術が必要なようでほとんどの人が布を購入して裁縫などが手慣れた学生にオーダーメイドしてもらっているようだ。


しかしまぁしているというだけで実際に見たわけではないから自分に関わってない他人のことなんて一切わからないんだけれど。

とまぁそんなことを頭のなかで思っているうちに着替えも終わり、僕は必要なものを持って部屋を出る。



教員寮に到着した僕はすぐにフロントを見渡し、ソファーに腰かけ何かの本を読んでいる智得先生を発見する。


「先生」

「ん、来たか」


彼女は本にしおりを挟んで閉じ、僕を見上げる。


「えっと何の用ですか?」

「ふむ、色々と話したいことがある…が、座ってゆっくりと順番に話そうか」

「あ、はい」


僕は彼女と向かいのソファーに座る。


「さて、防人。ここに入って1ヶ月ほど経つがどうだ、ここの生活には慣れたか?」

「うーん…そうですね。実技の方も宏樹さんたちが手伝ってくれているおかげかだいぶ慣れてきました。射撃は相変わらずですけど」


と僕は普段通りに話す。


「ふむ、今の私は姉として接しているのだが…他人行儀な接し方をされてどうも避けられているような気がしてしまうな、一ヶ月間先生と生徒という立場で接してきたからだろうか?……」

先生が手を口元に当ててぶつぶつと何か言っているがよく聞き取れない。

「あの、先生?」

「…まぁいい。どのみちこれは仕事だ。私情は持ち込めん。」


彼女はそう言い、机の上に置かれていたコーヒーを一口飲んでこちらに視線を向ける。


「さて、本題に入るが構わないか?」

「え?あ、はい。どうぞ続けてください」

「ん、では続けてさせてもらう。宏樹、アリス、防人、植崎の4名は本日26時30分…ん?26時だと!? 防人、1日は24時間だな?」


僕は「はい」と言いながら頷いて続ける。


「当たり前じゃないですか」

「では26時とはどういうことだ?」

「あーそれは次の日の深夜2時って意味ですよ」


僕はすぐに答える。


「ふむ、なるほどそういうことか…全くわかりづらい書き方をしてくれたものだ…」

「あの、それで僕は2時半から何をすればいいんですかね ?」

「ふむ、では初めから言い直す。宏樹、アリス、防人、植崎の4名は本日26時30分にミーティングルームへ集まること。しばらくすればお前の生徒手帳にも連絡がいくと思うがお前は場所を知らないだろうからな」

「えぇ、全く持ってその通りですね」

「だから1時30分ぐらいに植崎とともにここへ来い、案内する。この仕事はそれほど時間はかからないと思うが、防人、お前にとっては初めての実戦だ。さほど難しくない仕事だそうだが、万が一ということもある。長くなった時のために今のうちに休んでおけ」

「はい……分かりました」

「ん、まだまだ話したいことは山ほどあるが、私も忙しいのでまた後でな」

「はい…また後で」


智得先生はゆっくりと立ち上がると奥のエレベーターに乗り込む。


「はぁー」


エレベーターが動き始めるのを見てから僕はソファーに前屈みに腰かけて、机に肘つきつつ左手で顔を支える。


『仕事』って先生はそう言ったよな。

多分だけどこの仕事は一ヶ月前にATと約束した手伝いのこと…だよな。

どんな仕事なのかはわからないことはない。むしろ想像がつくものだけれど、人を殺すことになるのだけは勘弁してほしいな。


僕はしばらくして智得先生が飲んだ机上のコーヒーカップを片付けもらうよう言ってから自分の部屋に戻る。

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