08-5

5月6日 日曜日 1時10分


早めに準備を済ませた僕は生徒手帳のみを持って植崎の部屋の扉をノックする。


「おう、ちょっと待ってくれ!」


大声で返事をした植崎にドキリッとしてシーンとした廊下の左右を確認してから扉越しに小さめの声で僕は言う。


「時間ないから早くしろよ。後、声がデカイぞ」

「あぁ!?なんだって!?」

「だから静かに…」

「何だって!?」


――ああ、もう! 僕は心のなかで叫んでからそう少し声の音量をあげる。


「玄関の中で待ちたいから扉を開けろ!」

「おう、わかったぜ」


カチャッという扉のロックの外れる音を聞き、僕はすぐに 中に入って玄関で靴を脱ぎながら植崎のいる部屋へ向かう。


「お前、うるさいぞ。いま夜中なんだからもう少し声の音量に気を付けろ」

「おう、すまんすまん。でさ俺様の生徒手帳知らねぇか?」


知るわけねーだろ!と叫びたかったが周りに迷惑をかけるわけにはいかないのでそれをぐっとこらえて言う。


「…なんだ、無くしたのか?」

「いや、単に見つからないだけなんだけどよ」


――それを無くしたって言うんだよ!


「ったく部屋を掃除してないからこんなことになるんだ」

「いやーわかってんだけど気づいたらいつもこんなことになってんだよな」

「へぇ~…」


それは掃除をしていないからそうなっているのだと突っ込みたいが、この状況は中学の時にこいつと遊ぶようになってから散々見てきたから驚かない。

しかしベッドの上が前に僕がとってあげたクッションで埋まってかなりカラフルになっているみたいだけどあの状態でどうやって寝るんだろう?


「まぁどうでもいいんだけれど」

「ん?何だ?」

「いや、なんでもない。…はぁー探すの手伝ってやるからさっさと見つけるぞ」

「おう分かってるぜ」


この時、僕は早めに準備して来てよかったと思ったよ。



「遅いぞ、何をしていた」


予定時刻を数分ほど過ぎ、教員寮にたどり着く。

今日はチョークを持ってないみたいだな。うん、助かった。

と、いけないいけない早く答えないと。


「ああと、いえこいつの生徒手帳を探すのに苦労してまして」

「お前の生徒手帳を植崎のに繋げれば良かったのではないか?」

「えぇ、それに途中で気づきましてベッドの下から出てきました」

「そうか。で、他に何が出てきた?」


――この人遅れていると言っておいて自分から話をそらそうとしているな。


「んー」


――ここはのるべきか?


「そうですね。薄い…ぐぇ!」


僕が言いかけたとき、植崎が慌てて僕の首をつかんで引き寄せてきた。せめて肩にしてほしかったよ。


「うわぁ!バカバカ先生の前で何を言ってんだ!!」

「ゴホ…いや~別に薄い生地の服が出てきたって言おうとしたんだけど」

「え?あ、そうなのか?…なんか…うん。悪かったな」

「いや、こっちも悪かったよ。だから放して…息がしにくい」


おそらく今顔は快晴の空よりも青くなってるだろうな~。


「あ、悪い悪い」


首から植崎の腕が離れ、すぐに呼吸を整える。


「はー…ふー…」

「もう、問題ないか?」

「ふー…えぇ、大丈夫です。…なんで嬉しそうなんですか?」

「そんなことはないさ」


──ほんとかなぁ?何となく笑みを堪えているようにも見えるけど。


「そんなことより時間がない。すぐにミーティングルームへ移動する。ついて来い」

「「はい」」


僕らは智得先生についていき、天井と床に丸い円盤のついた場所にたどり着く。


「少し待っていろ」


先生は円盤近くの壁に取り付けられたモニターを操作すると円盤の間にエメラルドの光の柱が現れる。

確かこれは…。


《転移装置》

横のモニターを操作してA基B 基をPS粒子で繋ぎ、一瞬で移動するもの。学園内にも何機か設置されているが教員以外の使用は緊急時以外許可がなければ原則禁止されている。


…以上教科書より引用。…なんちゃって


「よし、では中に入れ」

「…行くぞ」

「お、おう」


二人が順番に光の中へ入った後、最後に先生が中に入ってそして光の柱は細かな光となって消える。



「おっとと…ついたな…がっ!」


僕が少しそこに立ち止まっていると後からきた植崎のタックルを受ける。


「あぁ、すまん」

「うん、大丈夫。これはわざとじゃないってわか…」

「おぉ、どこだここ?椅子がたくさんならんでっぞ」


――おいこら。本当に悪いと思ってんのか!?


「…痛てて」

「大丈夫? 」


声が聞こえ、ズキズキと痛む腰を押さえながら見上げるとブロンド髪の少女アリスさんが立っていた。

奥には宏樹さんがサングラスをちゃんとかけて立っているのが見える。


「アリスさん…えぇ、大丈夫です」


腰を擦りながら彼女の手を借りてゆっくりと立ちあがる。


「ところで、ここは……?」

「ここはミーティングルームだよ」

「あ、ここがそうなんですか」

「よし、これで皆集まったな」


後から柱を潜って来た先生が手を叩きながら大きなモニターの前に立つ。


「あ、はい」

「いつでも行けますよ」

「よし、ではまず今回の目的について説明する」


言うと同時に部屋の明かりが消え、後ろのモニターに映像が映し出される。


「今回貴様らが向かうのは最近になってウィグリードの生産数が増えたこの工場だ。場所は大陸の北西の国『ヘルヴィース』…何があるのかは分からないが、彼からの命令だからな…」


――彼…それは零さんじゃなくてATのことなんだろうか。


「目的は工場の破壊及びデータの入手…」


――破壊か…人を巻き込まないようにしないと…


「敵機も出てくるだろうが以前授業でも話した通り、囲まれて集中放火を浴びなければ問題ない。大抵の攻撃は機体に守られる。…では健闘を祈る」

「「「はい!」」」

「おう」


皆、立ち上がって返事をする。

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