08-3

5月5日 土曜日 15時00分


私はAT。


『ヘイムダル学園』の権力者としての一番上の立場を勤めている。


それを知るのは私が信頼できるごくわずかな者達のみ。

まぁそのほとんどがこの学園を建設し、務めているのだがな。

で、今現在私は自分の部屋にいる。


カーテンは閉めきっており、外からの光がほとんど入らずかなり薄暗い。

部屋を照らす明かりは目の前のモニターだけだ。

もちろん目が悪くならないようブルーライトカット出来るメガネをかけている。

他にも読書の時とかにもかけている。

そして現在、私はモニターを使い、諜報員として他国へ送り込ませた『ヒロ』と連絡をしていた。


両者ともに通信モニターには顔が映っているのではなく『So und Only』 という文字だけが表示されている。


「現在の他国の状況はこれで以上か?」


私は送られてきた分析データに目を通しながら話す。


『あぁ、数ヵ月でここのGW生産量は高くなっている。そんでこれのすべてがAIで動く無人機。この程度なら特に問題ないはずだが…どうも変なんだよな』

「何か妙なことでもあるのか?」


『それが技術者として新しく動員された230人の内130人が科学者なんだ。それでちょいと気になったもんだからこっそり後をつけて行ったんだけどさ、科学者一人一人が持っているIDカードに加えて通路にある指紋認証とかの厳重なセキュリティシステム。排気口には送風機(ファン)が回っててそのまま通過できない。かと言って止めて外そうとすれば設置されたセンサーに感知される。こいつは確実に何かあるのは確かなんだけど…どうするよ』

「そうだな。おそらくその先で行われているのは新開発の機体か武器だろう。奴らがどれほど最先端技術を結集し開発を進めようともこちらには脅威はない。だが、ちょうど実力を確かめたい奴がいるからそいつに破壊させるか」

『それってあんたの友達…えっと名前は防人っつったっけ?… そいつのことかい?』

「あぁ、そうだ」

『ふぅん、そうかい。あんたの友達さん――防人君。本当に学園に行ったんだな。学校なんてごまんとあるのに…よくもまぁここに来る気になったもんだ。そんじゃそいつに軽い挨拶ぐらいはしておかないとな』

「ふっ、ほどほどにしておけよ。現在アリスたちに鍛えさせているが、多分というか確実に今の腕ではお前に全く敵わないからな」


私がそういうと彼は本当に残念そうな声を上げて続ける。


『そっかぁ残念だな。そろそろ学園に顔出そうと思ってたんだが』

「ん?なんだ。お前帰ってくるのか?」

『まぁな。こいつの目の薬がそろそろ切れそうだからその補給がしたいしな』


―― あーそういやあいつの目はそうだったな、あまり話さないので忘れていたよ。


「了解した。医療班に伝えておこう」

『よろしく頼むよ。…そんじゃ通信を終了する』

「あぁ」


私がヒロとの通信を切ると見計らったように湊が扉を開けて中に入ってくる。


「通信は終わった?次はここに行きたいんだけど」


そういって彼女はスマートフォンの観光地ホームページを見せてくるが内容を確認することなくホーム画面に戻す。


「あ、なにするのよ。お兄(に)ぃ」

「そろそろ1ヶ月経つ…もう十分遊んだだろう?」

「えぇ!?だって二年も会ってなかったんだよ。…全然足りないよ」


彼女はなんだかさみしそうにうつむいて小さく呟く。


「だがその間は少なくても月に1回は連絡してただろう?」

「そうだけど、たったそれだけまだまだ足りないよ」


――まぁ、気持ちはわからんでもないがな。 俺だってこのモニターで見るのは書類なんかより興味のあるサイトとかゲームとかをずっと見ていたいしな。 しかしまぁこのまま放っておいても後々面倒臭いので一応妥協案でも提示しておくか。


「なぁ湊?」

「なぁに?お兄ぃ」

「今は忙しいから遊べないが、学園の夏休みだな。そうすれば暇ができるからそれまでは我慢できないか?」

「えぇ…んーわかった。…それでその仕事はどこでするの ?」

「今回は…」


―― 一人じゃ面倒だし、三人で分別して済ませたいけど湊の前であいつらに手伝わせたら絶対に予定より時間かかるからな…絶対来ないように計らっておかないと。


「今回は?」

「今回は久しぶりに湊に会えたし、ここで仕事はする予定だ」


『俺』がそう言うと彼女は嬉しそうに微笑んで、何度もうなずく。


「そっか、うんうん…あたしに会えたから…うん、そっかそっかぁふふっ…わかったよお兄ぃ。絶対夏まで我慢する。だからその時はたくさん遊んでね」

「あぁ分かってる。分かってるって、だがその代わり仕事中は絶対入ってくるなよ」


このことを俺は本当に面倒くさそうに言ったはずなんだが、湊の奴はうれしそうに微笑む。


「ふふ、わかったよ。それじゃあたしはお兄ぃの仕事を邪魔をしないように一旦部屋に戻るよ。終わったら連絡ちょうだいね」

「あぁ、わかったよ」


彼女は再び微笑み、長い髪をなびかせながら部屋を出ていく。


「はぁー……一応溜まってる書類をどうにかしておかないとな」


俺は机上からキーボードを取り出して書類データのファイルを共通ファイルに移動。インカムを耳に着けてから処理を始めた。

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