08-2
5月5日 土曜日 16:30
簡単なメンテナンスを星那と一緒に行って (というか時間をかけて教えてもらったがほとんど星那がメンテナンスを終えた) 無事に終え、自分の部屋に戻る。
僕はいつものようにお風呂に入って、汗を流して、髪をドライヤーで乾かして、寝るにはまだ早いので私服に着替えて、そしてベッドに横になる。
「あぁ~つかれた」
─まさかメンテナンスがこうも細かく見ていかなければならないとは…。
「あれで簡易メンテナンスなら本格的なのはどんなだっていうんだろうな?」
僕は寝返りをうって机の方へ向く。
「腕時計…」
机に備えついた小さな棚に置いてある腕時計が僕の視界に入る。
同時に僕は過去のことをまた思い起こさせる。
「……」
僕が小学生の夏休み頃、僕は湊に連れられて椎名家にやってきた。
そう、つまりこの時点での僕は彼女とはクラスメイトでしかなかった。
兄妹ではない。
家族ではない。
親戚ですらない。
むしろ彼女の兄にあたるのは僕ではなく、小学生ぐらいに連れられた。
湊に連れられて訪れた椎名家の少年『椎名 りょう』だ。
そこの辺りは思い出した。
この1ヶ月間少しずつ見てきた夢で完全に思い出した。
そして僕は彼らの家の近くにいただけの、りょうと友達に なっただけのただの近所である。
仲良くなってよく遊んだだけのただ少し家が近かったというだけのただの子供。
それ以上でもそれ以下でもない。
それだけに過ぎない。
僕はどこにでもいる普通の子供たちと変わらない。
朝起きて学校に行って帰って来て宿題して遊んでご飯を食べて…そんなごくごく普通の生活を送る子供たちと僕は変わらない。
はずなのに…僕は顔も見たこともないというか隠していて顔がわからない何者かに襲われて…連れられてそしてどうなったのか…わからない。
今のこの時点で戻った記憶ではわからない。
「でも……」
教えてくれた人がいた。それが詳しいのか詳しくないかは分からないが教えてくれた事に変わりはない。
それは歓迎会の後メールによって呼び出された場所で出会ったATという人が語ってくれた。
僕に何があったのかを…。
1ヶ月前
僕はメールによって呼び出された場所にたどり着く。
扉は既に開いており、中は薄暗く奥まで見えない。
『やあ…来たね』
中に入ると扉が閉まり、モニターが浮かび上がる。
そこには一人の人間が映っていた。
呼び出しておいて相手の人はどうやら正体を明かしたくないらしい。
ノイズ混じりの声で顔は影になっていてはっきりとは映っておらず、性別は男なのか女なのかはわからない。
でもなんだか以前どこかで会ったような感じがした。
それは道端で顔を見たとかそういう軽い感じではなく以前によく話していたような…なんというか懐かしい感じがした。
まぁ直接に対面いるわけではなくモニター越しに対面しているのだから会ったというのは正しいのかわからないけれど。
僕は部屋にある椅子に腰掛け、彼の方を見る。
『私の名前はAT…現在私は忙しくて学園にいないのでな、このような形で挨拶させてもらった』
「よろしく…です。ATさん」
『別に呼び捨てで構わない』
「じゃあ…えっと、AT…よろしくです」
『こちらこそよろしくするよ。まぁ本来なら私は君を呼び出す必要は無かったんだが…』
「何かあったんですか?」
『あーいや、ククッ…』
「?…何かおかしいですか?」
『ん…いや、君がゼロに呼び出された時のことをちょっと思い出してね』
「……?」
──僕がゼロさんに呼び出された時にあったこと……
『あのときの君の焦った顔がね…』
──呼び出された時に焦ったこと……
「まさかとは思いますがそれってもしかしてドアノブのことですか?」
『あぁ』
──即答しやがった……おっと口に出したらまずい。
『冗談のつもりで取り付けておいたんだが、いやはや予想以上の反応をしてくれた』
「お前がつけたんかい!」
『ん?あぁ、面白かったろ?』
「いや、全然面白くなかったよ!入学してそんなに日も経っていないのに学校のドアを壊してしまったのかと焦ったんですからね」
『そうか、面白くなかったか…だが私は面白かった。…だから気にするな。別に学校のドアを破壊したとしてもここの整備士がすぐに直してくれる』
「いや、だからあのドアノブあなたが付けたんだろ。なぁにが『気にするな』ですか!それに別に僕はドアを壊してはいないです」
『っといけない。…こんなどうでもいい話はそろそろ止めにしないと…』
そう言いながら彼は何やら丸い物の蓋を開けてそれを見る。
暗くてそれが何なのかわからないけれど…時間を確認するための物だろうか?
『さて、時間はあまりないからな。ゼロからここのことを色々聞いていると思うが、私からも手短に話をさせてもらおう』
「……」
なんとなく納得いかないけれど早く終わるならもうどうでもよくなってきた。
「…分かりました。よろしくお願いします」
それから僕たちは話した。
現在行われている戦争は地球の中、つまり地中に月日をかけて造られた空間で国というかたちで分かれて行われているものであること。
その国々は第三次世界大戦の後の行き場を失った科学者、軍の人たちによって構成されていること。
国々のうち強い力を持つ大国が9つあること。
その大国のトップは第三次世界大戦時の科学者の中でも『WEAPONS・GEAR』の開発者であった人々が務めているということ。
そして僕が以前にもここに来たことがあるということ…。
「ここに…既に僕は……来たことがある?」
『そう、君は以前にもここに来た。そして兵として鍛えられて戦わされていた』
「そんな……でもそれじゃあどうして僕は現在戦っているのではなく、あなたと話しているのですか?その時一体何があったというんですか?」
『まぁ、それは順番に話していこうか。…当時君は軍のGW生産工場及び隣接して建てられた研究施設の警備兵だった。そしてある日その工場働く者たちが反乱を起こした』
「反乱…」
「何故ならそこで働く者たちは君と同じように連れてこられた子供たち。私もそのうちの一人だ。…我々は毎日、毎日、奴隷のごとくこきつかわれていた。 働いて、働いて、過労によって二度と目を覚まさなくなったものもいる』
「そんな…」
『だから反乱を起こした。機体を奪い、その場所から逃げ出した』
「でもそれじゃあ逃げ出したところで…」
『あぁ、食料もなく最後は野垂れ死ぬだろう。だが我々には協力してくれた仲間がいた。とてつもなく大きな力を持つ仲間が…そしてその仲間の援助の元、我々は別の島に移ってその昔に破棄されたという研究所に逃げ込んで生き延びた。そして助かった後に我々は思ったのだよ。『こんなことに巻き込んでくれた借りを返そう』とな』
借りを返す。その一言には陽気さの見せながら淡々と話す彼の声に力がこもっていた。
「…それで現在あなた方はここに集まっているということですか」
──この人たちには戦う理由があるのか。でも、何も知らずに来た僕にはそんな理由はない
『そういうことだ。ものわかりが早くて助かるよ。そして我々は奪った機体を改良、改造して借りを返すための力をつけてきた』
──でも…なんだろう。これは聞いていてあまり気分のいいものではない。
『そしてさらに数ヵ月後、我々は工場へと足を運んだ。我々をつれさらい利用してきたその工場を破壊し、その場所を制圧。働かされていた子供たちと我々が逃げ出すさいに援助してくれた者たち、そして君の保護にも成功した。…だが、その工場に我々を連れてきた主犯は金で雇った僅かな仲間をつれて逃走、行方を眩ませた』
「…そうですか。助けていただき…ありがとうございました。……でも、まだあなたたちの戦いは終わっていないんですね」
『その通りだ。…しかしあの時の君の妨害さえなければ奴を捕らえられただろうな』
彼は頷いてからその薄暗い顔がどことなく険しくなって続けて低いトーンでそう言う。
「は?それってどういう…」
『さっきも言ったが君は一度ここに連れてこられ、工場を守るための兵士として活動していた。だから進入者が現れればそいつを捕らえるために出てくるのは当たり前のことだ。当時は我々もあまり戦力を所持していなかったからな、予想以上に苦戦してしまった』
「……すいません」
僕にその記憶が無い以上それが本当なのかどうかは分からないが、チクリと僕の胸は傷み、謝罪の言葉がいつの間にか口からこぼれていた。
『謝ることはない。あのときの君に自分の意思はなかった。…目の前の敵を倒そうとする暴走にも等しい状態だったのだからな。…あの場所で奴を逃がしたのは失態だが、色々なものを手に入れることができた。奴を逃がしたところで釣りが来るほどのものをな…だが君が謝るということは罪を認めると見て間違いはないな』
「僕には…分かりません。でも……」
──邪魔をしてしまったことは彼の言う通りなのだろう。そうでなければ、僕の胸はこんなにも苦しくは無いだろう。
でも
「…僕は人殺しをしたくありません。僕があなた方の邪魔をしてしまった結果、その人に逃げられたとしてもみんなを助け出すことが出来ているのならわざわざ争うことは無いはずです」
『では君は逃げるのか?』
「そういうことではありません。ただ僕は無駄に戦火を広げても…」
『そいつがまだ今まで通りに動けるのならばまた別の子供たちがここに連れてこられて同じことが繰り返される。だからそいつは捕まえなければならない』
「……」
『分かるよな』
「……えぇ」
僕が頷くと低かったトーンも戻り、少し明るい感じになる。
『いやぁよかったよ。君が協力してくれて』
「え?…あ、いえまだ協力するとまでは…」
『君に光牙を渡して正解だった』
ダメだこの人…話を聞いちゃいない。
『実は光牙は一週間ぐらい前に出来ていなかったのを思い出して整備士たちが150時間25回交代で急いで組み上げたものなのだが…』
そういうのって大抵の場合、使っているうちに異常を来すよね。
『ちょっと光牙見せてもらってもいいかい?』
「え?…ぁはい、分かりましたけれど」
僕は立ち上がり、手首の枷に意識を集中するために目を閉じる。
『…遅いよ』
「無茶言わないでください。まだ慣れていないんですから」
『イメージが足りないから遅いんだ。展開時に一昔前によくあったあれを声を発して言ってみろ、かなり良くなるはずだ』
「え?えぇ~~」
『言ってみろ』
「はぁ…じゃ、じゃあ…えっと……」
僕は手を前に出して即座に考えた言葉を口に出す。
「我が腕に封じられし者よ。汝の身体を我が鎧とし、汝の牙を我が剣とせよ。今、その力…解き放たん!!」
そういい終えると1秒足らずで機体が展開される。けど…
「あの…AT?展開は確かに早くなりましたけど、言っている言葉を足すといつもより長くなるんですが…」
『だろうね。』
「じゃなんでやらせたんですか!?」
『んー…面白いから?』
「何故に疑問系?つかたったそれだけの理由で僕はあんな恥ずかしいことを言わされたんですか」
『うん』
「即答ですか」
『いいだろ。君だって楽しそうだったじゃないか』
彼はモニターの向こうで何かを操作すると彼の映るモニターの横に新たにモニターが浮かび上がってさっきの僕が映し出される。
「ちょちょちょっとけ、消して消して!何撮ってんですか!!」
『ははっ…いやぁ面白い』
「こっちは全然面白くないですよ!消さないと訴えますよ!」
『訴える?どこに』
「そりゃもちろん国に決まってます」
『どうやって?ここから地上に出るには許可が必要になる。それに地上には既に我々の存在は認めさせてあるため、この君にも渡した生徒手帳さえ見せれば色々なことが許される。例えば撮った映像をテレビに流すとかな』
「その例え…まさかとは思いますがそれ流しませんよね?僕を社会的に殺そうとしませんよね?」
『当たり前じゃないか。GWのことは地上では禁止されたもの流すわけがないだろう』
「…そうですか。それならよかっ」
「ここならば流しても問題ないがな」
やっぱり良くない!こいつは僕を社会的に殺す気だ。
「あの、ATぃ今から僕あなたのところへ飛んでいきましょうか?そしてこの映像を映してる機械ごとデータを消去してあげますよ」
そう言って僕は腰の刀の柄を握る。
『ふっそれは困るな。これがなければ私は仕事ができなくなってしまう』
彼は鼻で笑った後、パチンと指を鳴らす。
「え?あ、ぉっと。…あれ?光牙?」
すると僕の纏(まと)ったオレンジ色の装甲が光となって消え、元の枷に戻る。
意識を集中して光牙を呼び出そうとしても反応してくれない。
『無駄だ。私は全ての専用機のシステムにアクセスする権限を持っている。展開出来なくするくらい造作もない』
「……来てほしくないのならば今すぐ消してください。僕の目の前で」
『えぇ~タダというわけにはいかないなぁ』
そのゆっくりはっきりとしたしゃべり方めちゃくちゃイライラする……くそっ湊を相手にしている気分になってきた。
「じゃ、じゃあ金でも払えばいいんですか?」
『金か…』
お?食いついたか?
『いや、私の懐は十二分に温まっているから別にいらないな』
「……」
くそっブルジョアめ!
……まぁ僕が渡そうとしていたのは生徒手帳にある分だったからあの人にとってははした金かもしれないというか渡したお金が戻ってくるだけなんだけど。
「じゃあ何をしたらいいですか?」
『ん~そうだな。…私の仕事の手伝いをしてくれたら聞いてやらんこともない』
と彼の影で黒い顔が微笑むように見えた。
仕事…。
「それってあなたたちをここに連れてきた犯人を捕まえることですか?」
『まぁ、そうだな。それもある』
「戦って…殺すことになる、ですか?」
『大抵の場合はそうだろうな。…でどうだ。仕事を手伝ってもらえるだろうか?』
「……」
どうする?今僕の頭の中には選択肢が表示されている。
≪戦うことを拒絶して映像を流されて社会的に死ぬ≫
≪戦場で敵と戦ってこの手を血に染める≫
前者を選んだ場合は社会的に死ぬという驚異をどう対処するか…。
・引っ越す。───どこにだ?映像はテレビを持っている人全員が見るというのに…。
・変装する。───そんなものすぐばれる。
・整形する。───そんな金はない。いや、無いことはないがどうせそれもすぐに流れるだろう。
なら、もういっそのこと
・気にしない───いや無理だな。ただでさえ注目されるの駄目なのに、視線に加えてヒソヒソとした話し声なんて耐えられそうもない。
なら、後者……この場合は戦い方か。
人を殺さない非殺傷攻撃なら、光牙の刀は鞘に収まってる。
なら鞘ごと抜いて戦えばいいかな。
切るのは無理でも殴るのは…うん、割り切れるはず。
殴って気絶さえさせてしまえば、もう襲っては来ない
……と思う。
《逃げる》という考えも無いことはないが、無理だ。
学園(ここから)出ていき、仮に逃げ切れたところで別の国のやつらに捕まるだろう。
拷問、強制労働、捕まった人間が何をされるかぐらい想像に難くはない。
『どうした?』
「あ、いえ…………分かりました。僕に出来ることだけでも、協力します」
『そうか…ではよろしく頼むよ』
僕にはそう言った彼の影で黒くなっている顔が笑みを浮かべているように見えた。
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