《一風変わった学園生活》
08-1《ファーストミッション》
5月5日 土曜日 8時00分
新入生歓迎会から1ヶ月の時が過ぎ、現在5月上旬。
宏樹さん、アリスさんの手厚い指導もあってGWの基本的な操作はある程度出来るようになってきた。
そして今日もせっかくの休みだというのに朝っぱらからアリーナでの実戦訓練が行われる。
別に休みまでも練習させられていることに関して嫌がっているわけではないのだけれど、この場合難と言えばいいのだろう?
僕の言語能力の低さが悔やまれる。
「それじゃあ始めようか」
「よろしくお願いします」
体操服に着替えた僕と宏樹さんは向かい合って一礼し、少々意識を集中する。
二人の体がまばゆい光に包まれ、そこから細かな粒子が段々と装甲へと変わっていく。
この間1秒も経っていない。
「よし、出来た」
──ほぼ確実に光牙を展開することが出来るようになったな。
そう思いつつ僕は宏樹さんの方を見ると既にライフルを握り閉めていた。
――さすがだなぁ、宏樹さんは…。
僕は関心しながら黒色の鞘に入った左腰の実体刀『白夜』を抜き、構える。
◇
両名のGWステータス
≪光牙(こうが)≫
防人(さきもり) 慧(けい)の使用する専用機。
武装
・対GW用実体刀『白夜』 (防人命名)
・腰部3連ミサイルポット×2
・小型シールド
・シールド直下ワイヤーアンカー
・投擲用ダガー
◇
≪瞬亡(しゅんぼう)≫
宏樹の使用する専用機。
武装
・広範囲(ロングレンジ)粒子(エナジー)ライフル
・圧縮粒子刃(エナジー)剣(サーベル) ×2
・凡庸シールド
・粒子弾(エナジー)短機関銃(サブマシンガン)
◇
視界右下にシールドエナジーの数値が戦闘訓練のための500ポイントと言う数値が表示され、両者の間に浮かぶホログラムで戦闘開始までのカウントダウンが始まる。
…5…4…3…2…
「宏樹さん、行きますよ!」
『いつでもどうぞ』
「それじゃ…」
ビーという開始のブザーが鳴ると同時に僕は地面を思いっきり蹴飛ばして宏樹さんの専用機に砂ぼこりをあげながら、走って突っ込んでいく。
「行きますよ!」
「…ふ」
彼は少しだけ笑ったような表情になり、ライフルをこちらに向けて引き鉄を引く
「…見える!……かも」
右へ左へ…宏樹さんのもつライフルから飛んでくる粒子ビームを避けつつ、距離をつめていく。
「はぁ!」
「ちぃっ」
僕のもつ白夜と宏樹さんが取り出したエナジーサーベルが鍔(つば)迫り合い、バチバチと激しく火花を散らす。
「なかなかやるね」
「宏樹さんこそ」
僕は後ろに跳ね、距離をとりながら前方にミサイルを放つ 。
「くっ」
爆発音、宏樹さんを爆炎が包み込む。
「当たった?」
「ううんまだまだ甘い」
「!?」
宏樹さんが煙の中からビームを放ちながら飛び出してきて 一閃。
「っ!」
僕は身を低めかろうじてビームの刃を避ける。
同時に僕は右手に握りしめた白夜を彼の腹部目掛けてなぎはらう。
「くっ」
白夜は彼のシールドエナジーを火花をあげながら60ポイン トほど削り取りつつ吹き飛ばす。
「…動体視力はかなり良くなって来たね。でも…」
彼はバックパックから粒子を吹かして浮かび、体勢を立て直して僕を思いっきり蹴り飛ばす。
「ぐっ」
粒子シールドのおかげで痛みは一切ないのだが、シールドエナジーが30ポイント減る。
とてつもない力で後ろに押し跳ばされたようなこの感覚には未だに慣れないがそんなことを思っている隙はない。
「はっ!」
僕は地を蹴り、粒子を吹かして体制を立て直しつつアリーナの壁を蹴って宏樹さんに一気に接近する。
彼は素早く浮かび上がり、僕はそのちょうど真下で白夜を振るう。
僕はすぐさま宏樹さんの位置をセンサーで確認して、粒子を使って低空で180度回転しアリーナの天井を見上げる体勢になる。
「ッ!?」
僕は左腕のシールドを前に出し、ライフルのビームを防ぎ、体勢を…
『危ない!』
「え?…あ」
バイザーの通信機を通じて宏樹さんの声が聞こえて気付いたときには時すでに遅し。
爆発音にも似た大きな音を立てながら僕は反対側のアリーナの壁に頭から思いっきり突っ込み、海老反りになる。
──行動…不能。
『WINNER…宏樹!』
まさかの自爆。なんだかチーンって音が聞こえてきそうだよ。
僕はアリーナの壁に頭を挿し込んだまま、合成音声の勝敗の声を聞く。
『大丈夫かい?』
「あ、はい。大丈夫です」
僕は通信のマイク向かってそう答えた後、手に持っている刀を離してアリーナの壁に両手を当てる。
「ふぎぎ!……あれ?抜けない…すいません助けてもらえますか?」
僕が通信機で宏樹さんに助けを求めると彼は僕の脚を掴んで引っ張るがすぐに抜けないことを確認した彼は少し悩んだ声を上げた後答える。
『恐らくだけど光牙のバイザーが奥で引っ掛かってるんだと思うから一度光牙を待機状態にしてもらえるか。そうしたら私が引っ張るから』
「あ、はい…わかりました」
その後僕は無事に宏樹さんに助けてもらい、二人は戦闘後記録等の確認のためにGWピットに戻る。
「このへっぽこパイロット!」
「ぅ痛っつぅ!?」
ガンッ!!と中に入ってすぐに硬い何かで右脚を殴られる。
しかもの殴られたのは向うずね、あの弁慶ですら蹴られて泣いたと言われる部位だ。あまりにも痛いから火花でも散ったんじゃないかと思ったよ。
僕はじんじんと痛む脚を押さえながらその犯人の方に視線をやるとカチカチと手に持っているスパナを鳴らしながらこちらを睨んでいた。
「ん?」
──中学生…かな?
僕を殴った犯人の性別は女の子。髪は短めのポニーテールで着ている服は作業服、歳は12、13だろうと思う。
身長からして蹴られたと思ったがやっぱり殴られたようだ 。
「お前…もうちっとうまく周りに気を配って操縦できねーのかよ!壁に穴なんぞ開けやがって、あれ直すのだって大変だしタダじゃねーんだからな!!」
彼女は幼く高い声で体全部を使って叫ぶ。
「でも確かアリーナの壁は自己修復機能が備わってなかったか?」
また殴られた。
この時僕は彼女の手に持つスパナで殴られていたのが分かった。
さらには殴られていなかった左脚が殴られたので僕はバランスを崩し、思いっきり尻餅をつく。
座っている僕に立っている彼女少しだけ僕は彼女に見下ろされる形になる。
「アホか!すぐに直せるのは多少の傷であってテメーのデカイ頭で開けた穴は時間がかかんだよ!お前は本物のバカか!?」
──アホとかバカとか…何で僕がこんな子供に言われなきゃならないんだ?
苛立ちが沸き上がってくるが、こんな子供に怒鳴ったら大人気ないと自分に言い聞かせる。
「そうか、なんか悪かったな」
「あぁ、悪いね!さっきの戦闘を見させてもらってたんだけどよ、ライフルの弾をわざわざ回転してシールドで防ぐこたなかったろ!機体で視野は上下左右に360度だ。見なくても避けるぐらいのことしろよな!」
──いや、確かにそうだけどそれにはまだ慣れてないんだよな。
というか馬とかでも視野が350度だというのにさらに言うとこの350度という視野は見えるだけというだけで距離感まではわからないのだから視野が200度ぐらいしかない人間が距離感の分かる360度の視野を持ってもそうそううまくいくものではないと思うんだけど。
「んなことしてるから壁に頭突っ込むことになんだよ!実戦じゃ壁にめり込んだお前を待ってはくれねーぞ!首が刺さった瞬間その先には死しか待ってねーぞ」
──まぁ、正論ですね。はい。
「あんな腕じゃあ即効で撃墜されてお陀仏だぜ!それが嫌ならもっとむぐっ…」
「こらこら、年上に何てこと言うんだ」
後から現れた作業服を着た男性は彼女の口を後ろから押さえ、持ち上げる。
彼のことを僕は知っている。
彼の名前は『鬼海(きかい)治直(なおすぐ)』学園の機体系統全般を整備する『開発部』の顧問で一年B組の担任。
僕も光牙を扱うようになってからかなりお世話になっている。
みんなからは鬼海先生だとなんだか機械先生みたいだからと苗字ではなく名前で「ナオ先生」と呼ばれている。
だから僕もそうやって呼んでいる。
年齢は34歳だがびっしりと生え揃ったふさふさっとした顎髭によりもう少し大人びて見える。
「離せよパパ!離せ、この…」
パパと言うことはこの女の子はナオ先生の娘ということか。
「こら!大人しくしなさい!…すまないなぁ口が悪くて、家(うち)の嫁にしゃべり方が似たみたいなんだ。これでも君を心配して言ってるんだ。大目に見てやってくれないか」
「い、いえ本当のことですからぁ!っつぅ~」
僕が顔をひきつらせて微笑みながら言おうとしたら顔面にスパナが直撃する。
「お前はへっぽこパイロットだ!へっぽこパイロット…こ のへっぽこ、へっぽこへっぽこへっむぐぐっ…」
「こら!何てことしてるんだ!」
先程の優しそうな顔はどこへやら、ナオ先生は文字通り鬼のような顔で剣幕でを叱り始める。
「星那!スパナを何で投げた!いいかこいつはな緩んだネジ閉めたりするためのもんだ。調子の悪くなった機械を治すためのもんだ。人様を傷つけるものじゃねーんだ。心配して感情的なんのもわかるが道具は愛情込めて大切にせにゃいかん…それにだな…… 」
「…すごいね。あれが親の愛とかいうものなのかな?」
宏樹さんは二人を見てそう言うと頭の上にかけたサングラスをちゃんとかける。
「なんだかまだまだ続きそうだね。私が指摘したかったことは彼女が言ってしまったし、私は先に上がらせてもらおうかな」
「あ、お疲れ様です」
それから数十分間ナオ先生の説教が続き、彼をパパと読んでいた女の子はすっかり大人しくなる。
その間に宏樹さんはメンテナンスを終えてどこかへ行ってしまった。
三人は室内に置かれた椅子に腰掛けて話を始める。
「すまなかったな。家の娘が無礼なことを言って、娘にはきつーく言っておいたから…」
「えぇ、知ってます」
──目の前で見てたからな。それに途中から完全に道具とか彼女の普段の行動とかについて叱っていたよ。
「そういやお前さんがワシの娘に会うのは初めてか?」
「えぇ、そうですね」
「そうか、そんじゃほれ、ちゃんと挨拶しろ」
僕と先生の間に座っている彼女はゆっくりとその口を開く。
「鬼海(きかい)…星那(せな)……です。さっきはスパナを投げち…投げてしまってすまな…すいませんでした」
座高の差もあり、星那が僕の顔を見て謝る彼女は必然的に上目使いになってさらには怒られて泣きそうになって顔が 少し赤らんでいてなんというか無茶苦茶可愛い天使がそこにいた。
「いや、うん…ちゃんと悪いと思っているなら、いい…うん、許すよ」
──なんか逆にありがとう。
そう言ってそう思いながら僕は目に涙を溜めている星那の頭を軽く撫でてやる。
「しかし、中学校はどうしてるんですか?」
と僕は頭を撫でながら先生の方へ視線を映す。
「こいつは生まれた時からこの世界のことを知ってっからな。通ってる学校はここってことになんのかな?」
「そうなんですか」
──でもそれは普通の学校生活とはやはりとても遠いものなんだよな。
「それじゃあお前さんの専用機の軽いメンテナンスをするからそいつを渡してくれないか」
「あ、はい…よろしくお願いします」
僕が軽く頭を下げ、立ち上がる。
すると星那が僕の制服の袖をつまみ、軽く二度引っ張ってきた。
「あのな…その、お前の専用機のメンテナンスなんだけどよ。その、私が見ても構わないか?」
「お前が?見てくれるのは有難いけど…」
僕は少し口籠って視線を先生に移す。
「安心して構わんぞお前さん。こいつはまだまだ若けーが ガキの頃から機械いじくって遊んでたから整備士としての腕はかなりある。メンテナンスぐらいならこいつでも朝飯前だ。心配ってんなら見ていきな。あぁそうだな、ついでに簡単なメンテナンス用のコンピュータの操作方法ぐらいは教えてもらえ。ワシもお前さんの担当をしているがいつも暇っていうわけではないからな」
──なんか話がどんどん進んでいっている気がするけど、 確かにメンテナンスぐらい自分でもできるようにしておきたいな。何でもかんでも先生に頼むのもなんだか悪い気がするし。
「あ、はい。…それじゃあよろしくお願いする」
僕は会釈してメンテナンスのために手首の枷からぶら下がる二つの鎖を繋げて手首から外すと星那に手渡す。
「おう、よろしくお願いされたぜ」
と彼女はにっこりと微笑んで光牙を受け取る。
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