07-6
4月4日 水曜日 19時00分
初めての風紀の活動を無事に終えた (ほとんど見ているだけだったけど) 僕は疲れを落とすために風呂に入ることにした。
ちなみにトイレとはちゃんと分かれている。
そういう部屋を選んだ。
僕はシャワーを頭から浴びるために高い位置に立て掛け直して蛇口をひねる。
「冷た!」
水だった。
急いで僕は蛇口の横についている温度調節の蛇口をひねり38℃に設定する。
「ふぅー…」
シャワーを浴びながら僕は今日姉さんと話したことを思い出す。
――『この世界のことを知っていてそれでここで教員を行うことにした』…か。姉さんがやっていた仕事はここの教員。手錠とか持っていたし警察官みたいなものだと思っていたんだけど違ったんだな。
「じゃあ…」
――姉さんはここが軍事学校ってことを知ってて黙っていたのかな。僕には知っていたというのに教えてくれなかったということなのかな。
いや、僕は当時この学校にくることを決めていたし、そんなことを言ったところで信じることもなかっただろうし、あえて言わなかったということなのかな。
「…分からない。分からないけどそう思うことにしよう。うん」
僕は呟きながらシャワーを止め、頭から順に体を洗って浴槽に…
「あ」
――詮を閉めるの忘れてたみたいだ。風呂にお湯が溜まってない…。
「はぁ、浴槽でのんびりとしたかったけどしかたない、か」
僕は浴槽に浸かることなく風呂場を出、パジャマに着替えてからベッドに横になる。
「はぁー何か色々あったな…風紀委員もメンバーは物凄い人もいるけど案外楽しかったな。しかし姉さんが先生をやっていたとはねぇ」
そう呟いて僕は姉さんのことばを再度思い出す。
「姉さんは…この世界のことを知っていた…か」
――この世界…この世界って何なんだろう?
世界大戦のことはその終わりまで中学の時、歴史の授業で習ったけど戦争が続いていることは習ってない。というか教えてくれるわけないよな。こんなこと…。
「そういえば電子教科書(タブレット)充電するの忘れてたな。ついでに調べて見るか」
僕は椅子に座り、カバンからタブレットを取り出してパスワードを入力してスリープモードを解除、充電用の台に立て掛ける。
そしてGW関連教材ファイルから社会のファイルを選び、最初のファイルを開く。
「えーと…2057年に始まった世界大戦。
その2年後の2059年、日米連合国軍の兵器開発担当の博士たちが当時軍事用に使われていたパワードスーツを強化改良を成功させ単体飛行、海底歩行を可能にした多環境適応強化服(マルチフォームパワーアシストスーツ) 『weapons(ウェポンズ)・gear(ギア)』を開発、戦線に投入された。
そして2062年、終戦。世界中で『平和協定』が結ばれた」
――うん、ここまでは中学でも習ったな。……んで続きはーっと
「戦争が終わり、兵器開発担当の博士たちは兵器開発という仕事を失い、その多くは工業機器、医療・介護機器の開発へと流れていった。だが数名の博士たちは兵器開発の際の頼めばいくらでもくれた資源、資金…あの状況、環境が忘れられず、彼らは4年という月日をかけて密かに地下に平和と言われる世界とは違うもう1つの世界を創り出した。
その世界は海と1つの大陸そして点々とした島々で構成されている。この活動の代表であった9人の博士たちは地下の世界を地上の政府に認めさせたあとそれぞれの自分の国を地下の大陸に創り、戦争を始めた。
そして手を替え品を替えながら戦争は続き、現在は冷戦の状態でなんとか落ち着いている」
――世界創造ってスケールでか過ぎて凄いとか逆に思えないな。
そう思いつつポケットから生徒手帳を取り出す。
「今、22時か…明日は何か予定ってあったかな?」
生徒手帳を操作してカレンダーを確認する。
「明日は…4月5日…新入生歓迎会があるのか。授業は無いみたいだし、もう少し読んでおこうかな」
何て言って読んでて気が付いたら午前4時を過ぎてました。
4月5日 木曜日 5時30分
「あ~…眠い」
うっすらとくまのできた目を擦りながら僕は食堂で朝食を済ませたあとで頼んだブラックコーヒーを何も入れずにそのまますする。
「大丈夫?すごく眠そうだけど」
「あ、竜華さん。いえ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで…それよりもあの、わざわざ無理言って早めに開けてもらって…すいません」
「いーよいーよこのくらい。どうせもう開ける予定だったし、準備とかももう済ませてあるしね」
「あ、そう…なんですか?」
「うん、そうだよ。でさ何で目の下にくまが出来ちゃうほど夜遅くまで起きていたのかな?」
「えっとそれは…」
――この世界についてのことを調べてました。なんて言っていいのかな?…でもここにいる人は全員知ってるって零さんが言っていたしな、言ってしまっても大丈夫なのかな?
「えっと…夜遅くまで起きていた理由はですね…」
「うんうん、起きていた理由は?」
「まだまだ僕、このせか…学園に来たばかりじゃないですか」
「うん、確かにそうだ」
「それであの、早めにここのことを知ろうと思いまして貰ったタブレットに入った教科書を読んでいたら」
「夜遅くまで起きていたと」
「ええ、そうです」
「んー勉強熱心なのは良いことだけど夜更かしは良くないね。ここのことはこれから順番に教えてもらえるんだから勉強はその日学んだところの復習と次やるところの予習で十分だと思うよ」
「そうですね。今後気を付けます」
「よろしい。…と、どうやら誰か来たみたいだね。ちょっと行ってくるよ」
「いってらっしゃ~い」
僕は短く手を振り、ちびちびとやっていたコーヒーを一気に飲み干して窓の方を向いて机にもたれかかる。
「あ~~カフェイン摂取したのにまだ眠いな、まぁカフェイン取って目がシャキーンとなるとは思ってなかったんだけど…少し歩こうかなぁ」
そう思って机から頭を上げようとしたところで「あ」という男の声の後、僕の頭に熱湯が降り注ぐ。
「熱っつぁ!!」
反射的に僕は机にめり込む方向に動く。
頭を机にぶつけた痛みが遅れてじわりと襲ってきたが今はそれどころではない。
「あ、悪い」
「悪いじゃない!そんなこと言っている暇があったらさっさと拭くものと冷ますもの持ってこいよ!」
「でもお前が動いた方が早く…」
「今、動いたら頭に乗った何かの具材や頭に残った液体が飛び散って床やら制服やらに二次被害が起こるだらあが」
──なんか最後噛んだけど気にしない。
「…なぁ最後なんて」
「んなことはいいからさっさと拭くもの持ってこいよ!」
「あ、大変大変!」
僕の後ろにいたやつがもたもたしていたせいで竜華さんがこちらに気づいたらしく慌ててこちらに駆け寄ってくる。
──竜華さんわざわざすみません。
そして頭を拭いてから氷水の入った袋をくるんだ濡れタオルを受け取り、自分の頬に当てる。
「やけどしてない?もししてるなら薬とか」
「いえ、大丈夫です。言うほど熱くなかったですし、量が少なかったおかげかすぐ冷めましたから」
「そう、なら良かったよ。」
そう彼女は微笑む。
その明るく微笑む顔に少し照れてしまった。
「い、いえ…あの、ありがとうございます」
「どういたしまして。どうやらもう大丈夫みたいだね。それじゃあ私はそろそろ仕事に戻るよ」
「あ、はい…」
「それじゃあ、またね」
そう言って彼女は手を振り、カウンターの奥へと消えていく。
なんだか今日はあの赤いジャージ姿がキラキラと光って見える。
吊り橋効果というやつだろうか?
「さて」
彼女が見えなくなってから僕と反対側の椅子に座って今日は和風定食を頼んだらしいバカの方を振り向く。
「お前は何事もなかったかのようになーに飯を食ってんだぁ。植崎」
「ん?和風定食だけど?」
「んなもん見りゃ分かるわ!僕が言いたいのは何で定食のうちの一品を僕の頭にぶちまけておいて平然と白米を口に運べるのかを聞いているのだが」
お陰で目は覚めたんだけどな。感謝などしない。
「ほう、なふほろほういふほほか」
「口の中のもんを飲み込んでからしゃべれよ。何を言っているのかわからん」
「ん、なるほどそういうことか…と言ったぜ」
「ふぅん。そ」
「反応薄っ!」
「いや、正直なところ僕はその続きを聞きたいんだが…」
「あー…なんだっけか」
「はぁー…もういい」
「そうか」
植崎は短く答え、箸を動かし始める。
「……。」
「どうした?」
「いや、そういやまだお前に貸した30740円返してもらってなかったなぁって思ってさ」
何てわざとらしく言ってみる。
「あーそういやあったな」
「まぁ今思い出したのは何かあると思うんだわ。だから返してもらえるか?」
「あー今は金がねーんだ」
即答だった。
「何で?前に言ってた小遣いってここで貰えるお金のことじゃなかったのか?」
「そうなんだけどよ、わかんねーんだよな。この学校でもらったケータイん中の金をお前にどうやって渡せばいーんだ?」
「あぁ」
──確かにそうだ。電子マネーを使うことはできるけどこれを換金する方法は分かんなかったからな。
今度誰かに聞いてみるかな。
「そうかそれじゃあ…また今度ちゃんと返してくれよ」
「おう、わかってんぜ!」
と植崎は親指を立てて言う。
朝の一人賑やかな時間はこんな調子で過ぎていった。
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