07-5

4月4日 水曜日 15時00分



「まさか竜華さんと同じ委員会だなんて驚きました」

「はは、わたしも驚いたよ今日であったばかりの君がまさかここに入ってくるなんてね」


今日の部活紹介活動後に行われる委員会活動のための移動中というか迷っていたら竜華さんと出会う。

場所を聞こうと思って話してみるとどうやら同じ委員らしく、共に話がてら向かうことになった。

早起きは三文の徳とはよく言ったものだなぁ。


ちなみに僕が入った委員会は風紀委員で主な活動は


・風紀を乱すような活動をする生徒たちを見つけ粛正すること。

・カウンセリングを行い、生徒たちの悩みを解決へ導くこと。

…などらしい。


うん、簡潔で少なくて覚えやすいな。


「さて、着いた。ここが今日から君の委員会活動拠点となる風紀委員室だよ」


話しているうちに目的地に到着する。


「さぁ中へどうぞ」


――ここはさすがに真面目な人たちが集まってるって雰囲気だし、扉を開けた時に話しとかしていてシーンっと静まり返って視線が集まるのは視線恐怖症ではないので恐怖感とかはないがやっぱり苦手だな。かといってここでじっとしていても意味がないし。


「ふー…」


僕はゆっくりと深呼吸してから目の前の扉を開ける。


「んー…これは、そうですね…」


部屋の奥では一人の女性が何かの書類らしきものをしかめっ面をしながら見つめていた。

よかったどうやら今は一人だけのようだ。


「あれ?みんないないね。どこか部活紹介の手伝いとかで遅れているのかな?…ねぇ…ぁ、今は仕事中みたいだね。それじゃあ終わるのを待っていようか。君の席はそこだから座って待ってて。はい」

「あ、ありがとうございます。頂きます」

「どうぞ」


僕は彼女が室内の冷蔵庫から取り出した缶ジュースを受け取って指定された席に座る。


「あの、あの人は」

「あぁ、彩芽ちゃんのこと?」


へぇ、あの人あやめっていう名前なんだ。


「彼女は《彩芽 紅葉(くれは)》私と同い年で風紀委員の書記を勤めているの」

「へぇ~そうなんですか」

「えぇ、彼女はとても真面目な子なんだけど…一旦集中するとなかなか出てこないくせがあるんだよね」

「へぇ~そうなんですか」

「うん、だから彼女の紹介は後にして風紀委員になるために必要なちょっとした手続きを済ませましょうか」

「あ、はいわかりました」

「ん、それじゃ生徒手帳をちょっと貸してちょうだい」

「どうぞ」

「ありがとう」


彼女は引き出しから一本のコードを取り出すと受け取った生徒手帳に繋げ、机上のモニターを操作し始める。


「えっと確かこのファイルの中にある…これだ。それからこのデータを彼のデータファイルにコピーを…」


ぶつぶついいながら彼女はモニターをゆっくりと順番に操作する。


「よし、おしまい。はいこれで君は風紀委員と登録したから委員活動しても問題なくなったよ」


僕は彼女から生徒手帳を返してもらった後活動内容について詳しく聞いてみる。


「あの、大雑把にしか内容を聞いていないんですが具体的にはどんなことをやるんですか?」

「うーんそうだね。カウンセリングについてはまぁ大体分かるよね?」

「えぇそれはさすがに」

「じゃあ風紀を乱す人たちの粛正についてだね。

粛正対象になる学園で風紀を乱す行動は大きく分けて全部で4つ。


一つ、学園で認められていない部活。

二つ、殴り合いにまで発展してしまいそうな口論(ケンカ)。

三つ、学園内で指定された場所以外でのウェポンズ・ギアの使用。

四つ、その他風紀を乱していると判断できるもの。


まず一つ目、学園で認められていない部活。これは申請書を出して認められていないということであって必要定員の6人を越えていない部活まぁこの場合は愛好会というのが正しいのだけど…それに関しては別にいいかな。とにかく認められていない部活を見つけたら私たちのすることはまずやめるように指示する。それでも言うことを聞いてくれないのであれば見つけ次第言うことを聞かせるように説教だね。ちなみにこの説教の内容についてはどんな形式をとってもいいらしいよ」

「どんな形式でも…ですか」

「うん、これを決めたのは生徒会なんだけど、まぁさすがに限度があると思うけどね。次に殴り合いにまで発展してしまいそうなケンカ。これはさすがにまずいよね」

「そうですね。殴り合いなんてしたら怪我人が出ますしね」

「うん、だからこういうことが起こった際連絡が届き次第すぐに行けるものが現場に向かいケンカを鎮静。カウンセリングルームで話を聞いてどちらが悪いのかを判断、相応の処罰を決める。三つ目の指定場所以外のGW使用ついて。これは専用機も対象に入るから気を付けてね。これについて詳しい説明いらないかな?」

「そうですね。大丈夫です」

「あとは、そうだね…服装検査とか風紀委員らしいことをするかな?」

「なるほど」

「ふーこれでおしまいですね」


僕が頷く横でどうやら彩芽さんがちょうど全ての書類の処理を終えたようだ。

彼女は立ち上がると手にしていた書類を横にある箱の中に入れて蓋を閉める。


「さて、あら日高。居たんですか」

「うん、とは言っても数分前に来たばかりだけどね」

「そうなんですか。ところでそちらの方はどなた?」

「この子は防人 慧くん。今年入った一年生だよ」

「ど、どうも…えと、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いするわね。私は彩芽 紅葉。書記を勤めさせてもらってるわ」


そうして僕らは短い握手を交わす。

しばらく話をしているのに誰も来る気配がないので少し聞いてみることにした。


「あの、突然なんですが風紀委員ってこれで全員なんですか?」

「ううん、私たち以外にもいるよ」


僕が誰なのかを聞こうとした時にガラッと扉が開く。

人が二人、中に入ってくる。一人は男子、一人は女子だ。


「噂をすればなんとやらだね」

「…君たちは何をしていたのですか?」


そう彩芽さんが聞くと男子の方は緊張した様子で頭を掻きながら答える。


「じ、自分は地図を見ながらここに来ようとしたんですが学園は広く、ここの場所を探し出すのに苦労しておりました」

「そっか…まぁここは確かに広いからね。迷うのも仕方ないとは思うよ。それじゃあ千夏ちゃんはどうして遅れたの?」


――ちなつ…彼女は竜華さんと同い年なのかな?…小柄でそうは見えないけど。


「私はこの覗き魔を連行するのに手間取っていた」


若干棒読みな感じで真横にいる男子を指差す。


「だから覗きじゃないんですって!」

「でも女子更衣室の扉を開けた」

「そ、それは自分が迷って焦っていたんで次のドアで開けて人いたら道を訪ねようとして」

「それで堂々正面から女子更衣室を覗いた」

「だから覗いたんじゃないんですって」

「私のおしりを見たくせに…しかも10秒以上」


とんでもないことを言っているが彼女の表情は変わらない。対して男子の方は汗をかいてかなり焦っている。

ていうか更衣室で彼女がが着替えていたのはなんでなんだよ。


「そ、それはビックリしてしまって思考が停止してしまっただけですよ。でも安心してください。見たのは後ろ姿なんでさらに言うと自分ロリじゃないんで、おしりとくまのプリントパンツに興奮なんて」

「…ブチッ」

「しませっ!」


何かが切れたような音の後、千夏さんの振り上げた握り拳が男の顎に直撃、足が地面から数センチ浮かび上がる。


「フンッ」「ごふっ」


すぐさま彼女は表情を少しも変えることなく腰を少し下げて構えると男の腹に目掛けて正拳突き、男は腹を押さえてバタリと倒れる。


「報告。今回の粛正対象、覗き魔の男。粛正理由覗きと私に対するセクハラ発言。以上」

「う、うん見てたから大丈夫。後で報告書を提出してくれれば問題ないよ」

「わかった、では後程作成しておく。でそっちのは?」


――そっちの? あぁ僕のことか……。


「彼は新しく風紀委員に入った防人 慧くん」

「ど、どうもよろしくお願いします」

「こちらこそ。私は千夏 千冬…よろしく」


そう言って彼女は手を出してきたので僕も立ち上がって手を前に出し握手をする。


ギュウッ


「あたたたたた痛い、痛いですって…な、何するんですか!?」

「別に、握手をしただけ」


――別に僕は手が赤くなるほどの強い握手は望んでなかったんだけどな。


「千夏ちゃんは格闘技習ってるから結構力があるんだよね」


――わかってるなら先に言っておいて欲しかったです。


「そんなことない。私は竜華さんや生徒会長には敵わない」


――……マジですか。


本日の風紀委員会活動記録

とんでもないところに防人 慧は来てしまったと思うのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る