07-3

1限終了の号令の後、カタログで買った体操服に着替えるために植崎とともに更衣室に向かう。


体操服の正式名称は《GW反応補助身体保護スーツ》でも長いのでみんな体操服って読んでいるらしい。

体操服とはいうものの見た目はスポーツ選手等が着用しているようなランニングウェアみたいなピッタリとしたやつで吸汗性バツグン、夏は風通しが良く、冬は体温を逃がさないように作られている。


身体にピッタリとしているため筋肉の動きなどがはっきり読み取れるようになってGWの反応速度が上がるのだとか。


でもまぁ別に脳波を読み取ってるから服の上から着用しても動作に問題はないらしいし、着替えなくてもいいと思うんだけどな。

まぁ、学校側はちゃんとした数値を取りたいだとかなんだとか色々あるのだろうけれど…


「…って」


何だろう?

適応と言うか順応しちゃってるのかなこの状況に…忘れている記憶の中に何かがあるのだろうか?


「といけない」


時間もないし、学校が終わってから考えよう。


「おい、着替え終わったかー?」


自分の着替えを終え、制服をロッカーにしまった後、終わってるだろうと思いながら植崎のほうを振り向くとパンツ一丁で持ってきたカバンの中をごそごそと漁っていた。


「おい、何やってんだ?」

「いやぁ体操服が見当たんねぇんだけど知らねぇか?」

「僕が知るわけないだろう。うーん…カバンに入れ忘れたとかじゃないのか?」


──というかそれしか有り得ないだろう。


「んー朝、入れたと思うんだがなぁ…知らねぇか?」

「だから知らないって言ってるだろ。…もう時間もないし、もう正直に謝って今日はそのジャージで許してもらえばいいんじゃないか?」

「いや、さすがにあの人それを言うのは何つーか…えっとな」


──あぁそういやコイツ姉さん苦手だったけ、何で苦手なのかはよくわからないけど、まぁ目付き鋭いし、わかんなくもないけど…時々抜けてるとことかもあるからそこが面白い時もあるんだがな。まぁ、たまに読まなくてもいい空気を読むこともあるから面倒な時もあるんだけどね。


「それじゃあ部屋戻って忘れてきてないか確認してきたらどうだ?」

「あぁそうだなぁ」


チラッ


「…なんだ?」

「あーいやその…」


──あーなるほど。


「手伝わないぞ」


休み時間残り5分くらい、学園から生徒寮まで歩いて5分、走ったとして往復するだけならまだしもコイツの部屋から体操服を見つけ出してたら確実に間に合わない。


「何でだよぉ探すの時間かかるじゃんかよぉ」

「知るか、まだ一週間も経ってないのにお前の部屋は既にごみ溜めみたいになってるのか?」


もし、そうならなおさら嫌だ。


「ごみ溜めなんかじゃねーよ」

「ほぅ、じゃあ何だよ?」

「そりゃあ宝の山だぜ」


──宝の山…この前のリアルアイドルの商品のことかな?


「そうだな確かに宝の山だな。…お前の中ではな」


── 一度言って見たかったこの台詞。


「んなことねーよ。彼女たちの素晴らしさをわかってくれる人はたくさんいると思うぜ」


──あ、うん。


そんなこと目を光らして言わないでかなり気持ち悪いから。


「あーはいはい。僕はわからないから、時間ないしさっさと行ってこい」

「おう、そうだな。んじゃちゃっと行って取ってくるぜ」

「あ、ちょっと待て」

「ん?なんだ?」

「お前…その格好で行くのか?」


校内をパンツ一丁で走らせるわけにもいかないのでちゃんと着ていくように言う。


「おう、それじゃあ今度こそ行ってくるぜ」

「あぁ、行ってらー」


僕は手を振ってあいつがジャージを着直してから更衣室から出ていくのをしっかり見送る。

同時に心の中でガッツポーズをする。


「計画通り」


それで僕がやつの部屋に行き、体操服を探す必要はなくなった。

けど…

僕は散乱している植崎の荷物を見下ろす。


「…さすがにここに散乱してるあいつの荷物ぐらいは片付けていくかな」


そう呟いて僕は床に落ちている黒いジャージの上を畳み始める。





二時間目のチャイムが鳴る少し前に僕はグラウンドに出て、クラスの列に入り込むことができた。

あ、先生もちゃんとジャージなんだ。


「よし、遅れているやつなど知らんからな」


こうやって学校内での格差がついてくる。

世界は本当に放任主義なんだなと僕は思う。


「では授業を始める。みなも知っての通り試験でトップ10の成績に入った者には専用機が与えられている。ちなみに言っておくと成績の順位はクラスの出席番号に反映されている」


ということは僕はAクラスの十番だから試験結果は10位だったってことか。

まぁ最初最下位だったし、かなり良い順位ではないかと思う。

植崎に負けてるのがなんかしゃくだけど。


「今回行うのはGWの操作訓練だ。イメージの取り方だが映像なんかよりは実際のものを見せた方が頭に残っていいだろう」


確かにそうかもしれない。

僕も中学の時も普通に授業をやるよりは実験をやった方のが記憶に残っていたし。


「防人・尾形、両名は前に出ろ」

「はい」

「へ?」

「防人、返事はどうした?」

「は、はい」


名前を呼ばれ、僕と宏樹さんは生徒たちの列から外れ、先生のそばへ向かう。


「では両名には基本的機能を実践をしてもらう。両名、GW展開!」

「わかりました」

「えぇ!?」


──いきなりですか!?…えぇい!来い、光牙!


僕は腕に意識を集中し、心の中で叫びながら零さんのところで装着したオレンジ色のあの細身の姿をイメージする。

体が光に包まれ始め、その光が装甲へと変わっていく。


「よし、出来た」

「まだまだ展開に時間がかかっているが…」


──無茶言わないでください。


「…まぁ今はいいだろう。両名準備はいいか?…飛べ!」


──まさかの飛行の実践。…先生いろいろいきなり過ぎだと僕は思います。


あと、準備出来ているかどうかは聞くだけなんですか?

なんてこと思っている間に宏樹さんはすでにさっきの映像で見たエメラルドグリーンの細かな光を出しながら急上昇し、生徒たちの遥か頭上で停止する。


「どうした?何を突っ立っている?」

「今から…いきますよ」


先生に言われて僕も後に続くが、彼なんかよりかなり遅いものだった。


──あれー?おかしいな試験ではちゃんとできていたのに、まぁあれもゲームによる補助機能だったってことなのか。

あの時はなんとなくで飛んでいたからな、全然うまくいかない。

放出してる光の粒子も宏樹さんの半分くらいだ。


『何をしている。貴様の専用機の方が飛行機能は尾形の専用機よりもスペックが上だぞ』


通信回線を通して智得先生の声が聞こえてくる。


「……と言われてもな、何でうまくいかなくなっちまったんだ?」

『そりゃゲームと現実はやっぱり違うってことでしょうね』


一人でぶつぶつ言っていると通信回線が開き、バイザーのスピーカーから宏樹さんの声が聞こえてくる。


「宏樹さん…」

『さっき先生も言っていたけれど、やっぱり操作が出来るようになるには訓練をして慣れて自分が一番やりやすい方法を見つけることが大事なんですよね』

「まぁ、そうですね。通信一つとっても試験では視界の端に誰に繋ぐか表示されてましたしね」

『そういうこと。後、GWは脳波を読み取るから落ち着いて操作することも大事になってくるよ』

「へぇ~成る程です」


しばらく平行になって飛んでいるうちに余裕ができ始め、下にいるクラスメイトたちを眺める。

皆、ぶつぶついいながらも全員が上を見上げこちらを見ている。

ここまではっきり聞こえ、見えるのもGWの性能のたまものと言ったところなのだろうか。

さすがに僕は聖徳太子ではないので誰が何を言っているのかまではわからないが…。


『よし、そろそろ飛行はいい。次は順番に降下、着地しろ。慎重かつ丁寧にな』

「了解です。それじゃお先に」

「あ、はいどうぞ」


返事をして直ぐさま宏樹さんは放出してる粒子の量を減らしゆっくりと地上へ向かう。

だんだんと小さくなっていく姿を僕は感心しながら眺める。


『よし、いいぞ』


どうやら着地まで問題なく終えたようだ。


『次、防人降りてこい』

「はい」


背中に意識を集中、先程の宏樹さんを真似て地上へ。


──よし、このままこのまま落ち着いて…しかし思っていたよりも簡単かも…


「!?」


──あっ


ズザーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


途中バランスを崩した僕は降下ではなく落下していき、何十メートルほど地面を抉るとうつ伏せに転んだときのような姿で停止する。

GWのお陰で物理的にはなんともないがクラスメイトたちの笑い声が精神的に来る。


「全く…防人お前…最後少し気を抜いたろ」


──ええ先生のおっしゃる通りです。


「だが、まぁ初めてにしてはよくやった。初めはみなもせいぜいこんなものだろう。植崎!準備は出来たか?」


先生が叫ぶ先を見ると体操服を着た植崎がグラウンドの真ん中でフラッグの乗った台を一人で押していた。


「これで終わりっす!」


敬礼する植崎。恐らく遅刻の罰で運んでくるよう言われたのだろう。

何か汗だくで台を押してる植崎見てると少し罪悪感があるな。すまなかった。


「よし、ではこれより他の者共にも順にやってもらう。出席番号順に前から数名のグループを4つほど作れ。できたらその班から順に専用機持ちが指導に入る。では始めろ」


はい!と生徒たちは返事をし、並べられたフラッグたちへ散っていく。

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