07-1《学園生活・・・?》

「……夢…か?」


なんだか懐かしいものを見た気がする。

銀色の腕時計の針の指す時間は5時半。

二度寝するには遅くて、起きるには少し早すぎるなんとも微妙な時間だと思った。

寮の食堂が開くのは6時前後、朝食を食べにも行けない。


「…でもないか。着替えてのんびり行けばちょうど良い時間だろ」


僕は着ているパジャマをベッドの上に畳んで置き、ハンガーに掛けてある制服に着替える。


「忘れ物は…ないかな?」


僕は確認してからカバンを持って部屋を出る。


僕が寮の食堂に着くとちょうど開いたようなので僕は中に入り、見晴らし良さそうな窓際の席に荷物を置いて場所の確保をする。


「あのーすみません」

「はーい…ちょっと待ってね」


僕が注文をしようとカウンターから声をかけると赤いジャージにエプロン姿の若いオレンジかかった茶髪の女性がこちらに近づいてくる。


「君は…見ない顔だし新入生かな?朝早いんだね。」

「ぁーいえ、今日はたまたま早く目が覚めただけでして…」

「ふーん、そうなんだ。君さ名前は何て言うの?」

「あ、えっと防人 慧といいます。よろしくです」

「はい、よろしく。私は日高(ひだか) 竜華(りゅうか)ここでアルバイトをしている。まぁ朝だけだけどね」

「アルバイトですか?」

「うん、学園内の掃除とかは美化委員とルンバみたいな掃除ロボットが綺麗にしてくれるんだけどさすがにご飯は機械にやらせるわけにいかないよ。そりゃあ確かに機械だって美味しいものが作れるよ、レシピ通りに作るからね。でもそれだけじゃあダメなんだよね。ちょっとした隠し味だとかオリジナルなレシピそういうものはやっぱり人が見つけていくものなんだよ」


彼女の言う話を僕は頷きながら聞く。


「確かにそれはそうですね。相手が機械だとここのカウンターに立ってこうやって話すこともありませんし、なんと言いますかこう…落ち着けませんよね」

「そうなんだよ。ご飯時、カウンターを眺めるとそこにはロボットが…なんて落ち着けないでしょ?」

「まぁ、そうですね」


僕が微笑みながら頷くと同時に僕の腹の虫が大きな声で鳴いた。ちょっと恥ずかしい。


「あ、ごめんね長く話しすぎたかな?まだまだ話したいこともあるけどそれはまた今度ということで、今ご飯を作るから何がいい?」

「じゃあ、えっと…日替わり和風定食でお願いします」

「はい、わかったよ。本当なら頼まれてすぐに出せるようにするんだけどちょっと用意するから席で待っててね」

「あ、はいわかりました」

「あーそうそう、お茶、水はそこに置いてあるポットから好きなだけどうぞ」

「あ、はい」


僕は返事をしてから、お茶を持って席に戻る。

しばらくしてから「できたよ」と呼び出される。


「ありがとうございます」


僕はカウンターで朝食を受け取り、席につく。

ちなみに献立はご飯に味噌汁、納豆、焼き魚とよくあるものだった。


「いただきます」


…よく考えて見るとこういう静かな朝食は久しぶりな気がするな。

いつもなら湊に蹴られて起こされてご飯の時もうるさく騒いでいたっけな。


「お~す!」


なんてプチセンチメンタルになってると朝の静けさをぶち壊すような大声が耳に届く。

僕はこちらに黒のジャージ男が近づいてくるのを待ってから呟くように言う。


「…よう、植崎。早いな」

「おめーも速えーな、俺様が一番だと思ってたのによ」

「今日は偶然目覚ましより早く目が覚めただけだよ…というかなんで汗だくなんだ?」

「そりゃあ走って来たからにに決まってんじゃねーかよ」

「なんだ、わざわざ階段使って降りてきたのか?それでも汗かきすぎじゃない?」

「ちげーよ」

「?…え、まさかエレベーターからここまでで汗かいたのか?」

「ちげーよ!外を走ってきたんだよ!」


分かっとるわ!


「わかったから、もう少し静かにしろ。唾飛ぶし、回りにも迷惑だ」

「誰もいねーじゃねーか」

「僕がいる。それにカウンターの向こうには料理作ってくれるおねーさんもいるし」

「へーおばちゃんとかじゃねーんだな」

「バイトらしいよ。…で、お前は飯を食いに来たんじゃないのか?」

「あーそうだったそうだった。そんじゃいまから何か頼んでくるわ」

「ん」


僕は片手を挙げて合図しながら味噌汁をすすり、箸を動かす。


「おい、マジで若いねーちゃんじゃねーか」

「だから、そう言ってるだろ」


僕は箸を動かしながら、答えて目の前の席に座るように言う。


「で、何か話してたみたいだけど、何話してたんだ?」


特にこれ何も話題がすぐに見つからなかったのでとりあえず竜華さんについて聞いてみる。


「あぁ、あのねーちゃん。なんつったけ…えっと」

「竜華さんな」

「そうその人だ。んでその人も走ったりして体を鍛えてるらしくてな」

「ふーん」


僕の時とは内容が違うんだ。

まぁ、こいつに料理の話なんてわかるわけ無いか。


「んで、なんだっけな…うーん…」

「忘れたのか」

「そうみたいだわ」

「お前ねそういう行き当たりばったりな行動は慎んだ方がいいと思うぞ」

「おう、そうだな。そうすんわ」


ほんとにわかってんのかね、コイツ。

そう思い、僕はため息をつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る