06-2

ぼくが湊の兄(詳しくは双子の兄)のもとプリントを届けに行ったとき、彼はとあるダイブ式VRゲームをやっていた。

根っからのゲーム好きであった僕はそのゲームに引かれ、湊の家に定期的に通うように遊びに行くようになった。


ゲームには名前が無いということなのでぼくは勝手に『 』(ブランク)と読んでいる。

話を聞いてみるとそのゲームは彼らの親が造っていたものを勝手にもらったらしい。


ゲーム内容はシュミレーションアクションゲームで世界大戦の時に使用されていたパワードスーツ、GW(ウェポンズ・ギア)を選択して部隊を編成し敵の軍と戦闘を行うというものだった。

さらにいろいろと計算が大変らしいのだけれど自分でも好みのオリジナルGWを造り出すこともできる。

ぼくも彼が造っていたものの中から僕の好みに武装変更して一つ貰えることになった。



そして数日後 12:30


「あぢぃー」


蝉がうるさく鳴く夏の暑い日、彼から完成したとメールを受け取ったので残っていた宿題を終わらせてから汗だくになりながらも歩いて彼の家に向かう。


玄関前に到着したぼくは汗を袖で拭ってから彼の家のインターフォンを押し…


バッキィ!!


「!!?」


押そうとしたとき、「あっ!」という声のあと、後ろの方から何かが砕けたようなものすごい音がここら一帯に鳴り響く。


「植崎ぃぃ!また壊しやがって!どうすんの?これぇ」

「ヒロ…ごめん」

「ごめんじゃないよこれ高いんだよ。氷雨センパイはとっくに準備してるってのにまた予定が遅れるじゃん」


ゲームの貸し借りと対戦の約束でもしていたのだろうか?

顔はよく見えないが、自分と同じくらいの男の子達が砕けた何かを挟んで言い合っている。


「あんまりじっと見てるのもなんか悪いし、さっさと中に入ろう。うん、そうしよぅ」


ぼくは二人から目をそらし、インターフォンを鳴らす。


『…はい誰ですか?』

「あ、僕だよ。開けてくれない?」

『ぼくぼく詐欺ですか?別にあなたがどんなに困っていようがこっちには関係ないので帰ってください』

「ちょ、カメラで顔わかってるでしょう?ぼくだよぼく!」

『ですから僕さんなんて人は知りません』

「もう!ぼくだよ防人 慧!」

『サキモリ…?全く覚えの無い名前ですね。失礼ですが住所の確認をお願いしますぅ』

「住所は合ってるよ!いくらぼくが道覚えるのが苦手だからってさすがに何度も来てたら覚えるよ」

『はぁそうですか。しかしこちらは全く覚えがありませんので今日のところは帰っていただけませんか?』

「いやいやそっちから呼んでおいて帰れってどういうことだよ!?…なぁもう疲れたから早く入れてもらえませんかね?」

『いや、さすがに知らない人を家にいれる人はいないと思いますが』

「……もぅ泣いちゃうぞぉ!」

『泣けば』

「…ちょっ…もうどうやって収拾つけるの?これぇ…なんかもうほんと…何だ。もう話がここから全然進まないから早く入れてくださいませんかね?」

『それもそうだな…わかった今開ける』


カチャリという鍵の外れた音を聞き、ぼくはドアノブを掴んで扉を開ける。


「こんちは」


ぼくが部屋に入ると部屋の冷房機の冷気が全身を包む。


「おう、暑い中お疲れさん」

「疲れたのはほとんどお前のせいなんだけどっ」


ぼくが少々怒ったように言うと彼は短く笑う。


「はは、悪かった悪かった。お詫びと言ってはなんだがそこの冷蔵庫にあるジュース好きなの1本持ってっていいから…ぷぷっ」

「…なんで今笑った?」

「いやいやお前の玄関前での反応がね、面白かっただけだよ」

「あーそうですかっ、じゃあジュースもらうからね」

「どうぞ…くくっ」


うーん、やっぱ何かある気がするんだけど…まさか冷蔵庫に何かドッキリ仕掛けみたいなのがあるのか?

ぼくはゆっくりとベッド横に置いてある小型の冷蔵庫に近づいていき、それの真横でちょっと構える。


「…なにやってんだ?」

「いやぁちょっとね」

「何だ、もしかして遠慮してるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど…」

「なら、早く取れって、こっちはもう準備してあんだから」

「あ、あぁ急ぐよ」


ぼくは冷蔵庫に触れ、さっと開けるとすぐさま二、三歩後ろに下がる。


「あれ?」


特に何も無い、な。


「ほんと何やってんだお前は電気代がかかるし中の物が悪くなるだろうが」

「いや、お前が笑うもんだからもしかして冷蔵庫に何か仕掛けがあるんじゃないかと、思って」

「んなもん仕掛けるか。場所取るし、片付けるの面倒だし、いいこと無いじゃないか」

「まぁ確かに、そうだね」

「全く、余計な時間を食ったさっさと何か飲むもん1本取ってこっちこい」

「う、うん…何か…ごめん」


ぼくは冷蔵庫からスポーツドリンクを取りだし、彼の横に膝立ちになる。

彼はキーボードを操作すると、モニターにぼくの頼んだGWが映し出される。

2人は壁に取り付けてあるモニターを見つめながら話し合い始める。


「これがぼくの」

「そう、名前は『コウガ』光の牙と書いて光牙だ。ちゃんとリクエスト通りしておいたぞ。左腰に実体刀、左腕に中距離ワイヤーアンカーを装備させてある。後は装甲値が低かったからアンカーの上から小型のシールドを装備させてある」

「色は灰色なのか?」

「色は別に自由に変えられる。何色にする?」

「じゃあ、えっと……素早いやつだし、オレンジ色にしてもらえる?」

「了解」


友人は机のキーボードを叩き、色の変更データを入力する。


「…こんなところか」

「そうそう後は…」


細かなお願いを出して数十分後光牙が完成する。


「これでよし」

「ありがとう。これで僕のGWが完成したんだね」

「そうだな…今2時5分か湊は友達の家に遊びに行ってるから帰ってくるのは夕方だし、何時までなら大丈夫だ?」

「あ、今日は父さんも母さんも仕事で出掛けてるから別に大丈夫なんだけどそうだね6時ぐらいが妥当かな」

「了解そんじゃ試しに光牙動かしてみるか」

「OK」


そう言って二人は机の上に置いてあるヘッドセット型電脳空間ダイブ装置を頭に装着して防人はベットに友人は椅子に腰かける。


「それじゃあ行きますか」

「おう」

「「オーバー・ダイブ!!」」


ダイブコールを認証し、二人は「 」(ブランク)の作り出した世界へと意識を沈める。

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