05-7
「本当の……世界?」
「そうだ……君にはそれを知る権利がある」
「……。」
さっきの話から内容は大体は想像がつく。
でもこの世界が未だに戦って戦争をしている。
そんなことが本当にあるというのだろうか?
せっかく平和だと思っていた世界が偽りだった。
そうだったからといって何になる?
でも本当に僕の考えが本当なのなら正直、知りたくはない。
でも、このことを義姉さんは、湊は……アリスも宏樹さんも植崎ですら知っているというのだろうか?
知っていてここに来ているのだろうか?
「一つ聞いて言いですか?」
「なんだね?」
「ここにいる他の人は……今年入学した人はみんな知っているのですか?」
「なるほど、確かに君だけが呼ばれるのはおかしいと思うか……」
そんな風には思ってはいなかったが、でも確かにそうだここに僕以外が誰一人として呼ばれていないということはみんな知ったうえでここに来ていると考えるのが普通なのか。
本当なら違うと知らない人はまだまだ別にもいると思いたかったが、僕の思いをあっさりと学園長は撃ち砕いた。
「そうだ。君以外のものはここが重々承知の上でここに来ている。……さぁ答えてくれ聞くか否か」
さぁ、どうする?
国が隠すようなことだ。この答え一つで今後が、僕の人生が決まると考えてもいいのだろう。
こんな状況はゲームかアニメでしか味わえないと思っていたのにまさか現実で味わうことになるなんて……思ったより――いや、全然うれしいなんて思わないな。
義姉さんが湊がアリスが宏樹さんが……他の生徒のみんなが知っているうえでここに来た。
みんな覚悟して来ている。
聞きたくはない、でも聞かなければならない。
そんな気持ちが僕の中を駆け巡っている。
これが僕の本心ということなのだろうか?
僕は聞きたいと知りたいと思っているのだろうか?
なら、僕の答えは……
「わかりました。教えてください」
「そうか。君がそう言ってくれて本当に助かるよ」
それはどういう意味だろうか?
そういうセリフを吐く意味は大体想像がつくが、まさかな。
「止めてくださいよ。悪い冗談は……」
「私はね学園長……ここではそういう立場だが、それは形式上のものに過ぎない。私よりも強い力を持った者は他にもいる」
「つまり、冗談ではないと」
「そうだ、……これを伝えるように私は頼まれてしまっているのだ。私にこの頼みを断ることはできない……すまないと思っている」
その言葉にこの人の本心ではないということがうかがえる。
でも何のために何も知らない僕をわざわざここにとどめる必要がどこにあるというんだ?
わからない。けどここは彼の話を聞くしかないか。
「そうですか。でももし本当に戦争が起きているのなら少なからずウワサになると思いますが」
「――知っていたのか!?」
「いえ、想像です。でもその反応からして僕の考えであっているみたいですね」
「あぁ、そうだ」
「そうですか。でもおかしいですよ。そんなことが起きているのなら、すぐに噂が流れ始めるに決まってますよ」
「では、戦争が関係者以外誰にも見つからないところで行われているのだとしたら、どうかね?」
「そんな……ことが地上で出来るわけが――!?」
地上ではできないなら宇宙なら、いやそれはないな。
宇宙で戦闘を行うことなんて宇宙世紀がまだ来ているわけでも異星人の侵略もないのに出来るわけがない。
ならどこで?……地上でもなく宇宙でもない。
後は……戦争によって汚染区域に指定されている場所の海……いや、そんなことが出来るほど一つ一つの区域は広くない。というかそんなことがあったらさらに汚染が悪化して区域が広がりそうだ。
なら、地球ではない別の星か……いや、これも宇宙の時と同じか。
まだ火星にすら行っていないのに別の星なんてないだろう。
となると後は地下ということになるけど……というか戦争なんてものを今まで誰にも気付かれずに行うことなんて本当に可能なのか?
「何か分かったかね?」
わかりません、わからないけど可能性的にあり得るのは……。
「地下……ですか?」
「その通りだ。よく気がついたな」
「いえ、偶然ですよ。それに地下だとわかったところで僕にはそれが出来るとは思わない」
「……確かにそうかもしれないが、事実だ。この世界で皆の平和に暮らす裏で起こっている」
「そんなことが……でもそれをなんで僕に?権力も何もない僕なんかに話すんですか?」
「いや、君は関係している。この戦争にとても大きく…ね」
「そんな……そんな馬鹿な!」
慧は戸惑い、叫ぶ。頭に浮かぶ言葉を考えることなくそのまま口にする。
「そんなことがあるわけないだろ!だって僕は今まで普通に学校に行って、学んで、友達と話して、遊んで、ふざけあって……今まで僕は……僕たちは普通に、普通に暮らしていて、それで……」
「だが、これが現実だ。君は関係しているんだよ。たとえそれが巻き込まれただけというかたちでも」
「そんな……あぁそうかこれは僕を騙してるんですよね?騙して戸惑っているのを見て楽しんでいるだけですよね?……そうだと、そうだって言ってください!」
なんで、なんで僕は這いつくばって泣いている?
こんな確証も何もないこの目で確認してもいないのに……どこかで心のどこかで僕は信じているのか?
今日初めて出会う人の言葉を、信じがたい、あり得ないようなことを……。
「すまない……だがこれは本当だ」
彼が頭を下げて謝る。
謝らないで謝らないでくださいよ!
大の大人が頭なんて下げたらなにも言えないじゃないですか。
「……これを見れば信じてくれるだろうか」
そう言って学園長は懐から携帯端末を取り出すと何かを打ち込み始める。
ガコンという大きな何かが外れた音の後、目の前にエメラルドグリーンの大きな光が発生、白い霧の中から人の形をしたオレンジ色のロボットが現れる。
「これは……」
僕はこれを知っている?
「高機動近接特化、軍事用GW『光牙』……君の専用機だ」
「専用機?……なんで僕なんかに」
「この学園へ入学した1位から10位までの新入生には学園の造り出した専用機が与えられることになっている」
「作った?」
「そうだ。そして君たちは学園からの指示にしたがって行動、任務を遂行する」
「そんな……それじゃあこの学園は……」
「感のいい君ならば気づいているはずだ」
わかってるわかっているけど……聞きたくない。?
そんなことがそんなものがあるなんてことを信じたくない。
慧の思いに反して彼は、学園長は、はっきりした声でゆっくりという。
「我が学園は戦争をするための国家軍事施設である」
あぁ、言われてしまった。
聞いてしまった。
もう逃げられない。
そう慧は確信した。
「国家軍事施設なんて……そんな、別に……僕は戦うなんて戦争をするなんてつもりでこの学園に入ったわけじゃ……」
単に家から近くて機械系について学べるから……それだけで選んだだけなのに。
後悔は先に立たず……か。
「わかっている。戦闘をするしないは君の自由だ」
「自由だなんて、じゃああの質問は?……そういうことですか。僕ははめられたわけだ。国家反逆としてのでっち上げられた証拠を作らされたわけか!」
「いや、違う」
「どう違うって言うんですか!……無茶言わないでくださいよ。戦争が未だあるというのはわかりました。わかりましたよ!でも!」
「落ち着け!」
「――ぅ!?」
学園長は立ち上がって興奮して叫んでいる慧の頬をひっぱたいた。
「……少しは落ち着いたかね?」
「……えぇ、すいません。ありがとうございます……でも僕は嫌ですよ。奴隷のように戦わされるなんて」
「それは安心してもらって構わない。私は無理矢理には戦わせる気はないさ。それにここを学園としたのは生徒たちがせめてもの年相応の行いが行えるように私が用意したものだ」
「……ここにいる人たちはみんなその事を?」
「あぁ知っている。知っていながらみんなここに入った。本当なら来てほしくはなかったが……」
「でもそんなことを知らずに入った人なんて他にもいるでしょう?ここに入学する条件は試験に合格するだけで良かったんですから」
「そうだ。だが、他にはいないのさ。君たちが二次試験を行った内容は現実で操縦をしたことがなければ、動かすことはできても戦闘など到底できるものではない」
「じゃあ僕は……なんで動かせて」
「つまり君は頭では覚えていなくても身体が覚えている……そういうことだ」
「そんなっそんなこと……」
「無いなんて言い切ることは出来ないさ、君には忘れている過去がある。……いや、忘れさせられていると言った方が良いのかな?」
忘れさせられている?
「それってどういうことですか?」
「知りたいか?……これを知ればもう後には戻れなくなる。それでも知りたいか?」
正直なところ知りたくはない……でも知らないといけない。
もし、本当にあなたの言うように僕がただ単に忘れているだけだと思っている過去に戦闘を行ったことがあるのだとしたら……もしかしたら僕は……。
いや、もしそれが嘘だとして僕を騙して戦争に駆り出そうとしているのだとしてこんなことを聞いてしまった僕がもしここから逃げたとして無事でいられるとは到底思えない。
最悪、いや確実に殺されかねない。
それなら少しでも抵抗するための力は必要だ。
「教えてください」
「ん?」
「僕にその記憶を教えてください」
「本当にいいのかね?」
「かまいません」
「後悔は――」
「しません」
嘘だ。こんなものは口だけの事。
後悔も何もこれから向かう先なんて分岐点がいくらあろうとも一切見えない。
予測できない。
「……了承した。では話の流れを最後の段階へ進もうか。話に入る前にまずはこの光牙を君に渡そう。袖を捲り上げて腕を出してくれるかな?」
「わかりました」
慧は言われた通りに制服の袖を捲り上げ、右腕を前に出す。
彼は胸のポケットからノック式のボールペンのようなものを取り出すと前に出した慧の腕の肘間接辺りに立てる。
「何を?」
「動くなよ」
「――ッ!?」
空気の抜ける音と同時に慧の腕に添えられたそれは血液を抜き取った。
痛みはなかったが、血を抜かれていく血液検査の時に感じるような、吸われているというなんとも言えないあの感覚のみが身体を襲った。
学園長は血の入った注射器をもって光牙の後ろに周り、カチャカチャと作業を始める。
「……よし、これで君の生体データが登録された。これで今度こそ光牙は君のものとなった」
「これが僕のGW……」
ゲームみたいなものなら喜べたかもしれないが、今はあまり喜べないな。
「では次に適正化(マッチング)を行う。光牙に乗り込んでくれ」
「はい」
慧は試験の時と同じ要領で光牙に乗り込む。
大きいと思っていたよりも視線が高くならなかった。
「では、始めるぞ」
彼が携帯端末を床におくとホログラフィー機能によってキーボードとモニターが現れる。
何をしているのかはこちらからでは見えないが恐らく先程のマッチングというのを行っているのだろう。
光牙が光り、サイズが僕に合ってくる。
「これは……」
「どうだね?気分は」
「悪くは……無いです」
むしろ良いくらいだ。何というか暖かい。
「……そうか」
ヘルメット・バイザーが生成され、レンズに光の線が流れ始める。
先程までの不安が嘘のように消えていき、安心するような暖かさが慧を包み込む。
視界が広がり、何かに乗っているという感覚が消えていく。
光牙が自分の体の一部になっていく。
そんな気がした。
「よし、マッチング完了だ。試しに動かしてみてくれ」
「あ、はい」
慧は彼から少し距離をとって腕や脚を動かす。
すごい、いつもよりも動きやすい。
パワードスーツ。搭乗者の負荷を軽減させつつも駆動装置(アクチュエータ)によって腕力や脚力等を向上させるもの。
でも今の僕にそれを身に付けているという感覚はなく、自分の思ったように動いてくれる。
「乗り心地はどうだね?」
「光牙……が元から自分の体だったみたいに動きますね」
「うむ、ヘルメット・バイザーに搭載されたブレインマシンインターフェース(BMI)によって脳の神経系統に流れる微弱な電流から出る脳波を感知、解析し、電気信号に変換することで自身の思うがままに動かせる。……もし、異常があった時は生徒手帳から私に連絡をするといい。機体の再調整を行うよう準備する」
「ぁ、はい。わかりました」
「うん、では次だ。GWを携帯できるよう形状変換を行う」
「そんなことが……どんな形にするんですか?」
「それは私にもわからんよ。それを決めるのは光牙(こいつ)自身だと言われているからな。だが他の者たちはナイフやら拳銃やらの武器だったな」
「それがウェポンズ・ギアと呼ばれる所以ですか?」
「うむ、中にはイヤリング等になったものもいるので恐らくそれは違うだろう。だが『戦争を止め、世界を再び動かす歯車とするための武器』……少なくとも私はそう考えてこいつたちの総称を彼は名付けたのだと思っている」
光牙に繋げた端末を操作しながら彼はそう言った。
「そうなんですか」
「あぁ……これでよし、形状変換が始まるぞ。今後はその形が光牙の待機状態の姿だ」
パァーっと光牙が光の粒子になって広がった後、慧の手元に光が集まっていく。
光の粒子が形をなしていき、僕の腕にずっしりとした重さがかかってくる。
そして光が消え、現れたのは鉄の枷。
「……は?」
光牙が変化したそれは慧の両手首にがっちりと巻きつけられておりその2つを長い鎖が繋いでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます