05-6

「さ、中に入ってくれ」


慧はなにも言わずに部屋の中に歩みを進めていく。


「ん、ここは……?」


試験の時のシュミレーションルームに似ているけど……部屋大きさがあの部屋の4倍はある。


「驚いたかね?ここがどういうものかはまぁ試験を受けた君にはある程度わかっていると思うが……そうだな、ではまず先程の続きだ。君は過去のことをどれ程覚えている?答えてほしい」

「え?何故……そんなことを?」

「答えられないかね?」

「いえ、そんなことはないですけど…」

「なら、答えてくれ」

「……中学二年までのことなら、覚えてます」

「それよりも前は?」

「わかりません何か色々あった気はしますが、全然です。何も思い出せません」

「そうか」

「あの、失礼かもですけどこの質問に何の意味があるんですか?個人面接か何かですか?」

「それくらいのことであればわざわざこんなところまで来てもらう必要はない」


確かにそうだ。


「じゃあ一体何のために?」

「知ってもらうためさ、この世界について」

「世界……?」

「だがそれにはまず君という人間がどのような人物なのか知る必要がある……だが今の様子だと本当に過去のことなど忘れているようだな」

「過去の……こと……?」


何のことだ?


「まぁいい、本当ならば何故彼がこのようなことを仕出かすつもりだったのかを知りたかったのだがな」


何を言っている?この人は一体何を……?

知らない人について言ってはいけない。

学園のしかも長だから別に大丈夫だと思ってたけど浅はかだったかな?


「……すまない、余計なことを言ってしまった。君は聞き上手だな。いや、私の口が軽いだけかな?」


彼は短く笑ってからズボンのポケットから生徒手帳と同じ型の携帯端末を取り出す。


「ふむ、少々時間が押している。話を進めるぞ」


そういうと彼の表情が少し鋭くなる。


「さて、君はこの世界の現状をどう思う?」

「え?」


また唐突に一体何を?


「あらかじめ言っておくが『平和だと思います』だとかそういう社交辞令っぽいのは無しだ。君の本心を聞きたい」

「何を言って……」

「悪いがこちらは本気だ」


それはあなたの顔をみればわかります。

でも、あなたの意図がわからない。

まぁそんなだいそれたこと言えるほど偉くはないんだけど。


「……でも国の悪口なんて言ったら即座に国家反逆で」

「わかっている。だからここまで来てもらった。ここならば安全だ」


ということはここは国が造ったものではないことになる。

今の学校という学校は国の管理する国立のみ。

ということはこの学園はそれなりの権力をもっていることになる。

それも国へ圧力がかけられるほどのものが……この学園は一体?

そう考えるとますます僕の呼ばれた理由がわからない。

でも……。


「……わかりました。安全だというのであれば、僕はあなたの質問に答えます」

「ありがとう。礼を言う」

「いえ」


こんな年上の人に礼を言われるなんて……こそばゆい。

慧は1度深呼吸をしてから質問に答える。


「僕は今の世界はおかしいと思います」

「なぜ、そう思うのかね?」

「第三次世界大戦後この世界は《世界平等平和条約》によって確かに戦争などの争いが一つない平和な世界かもしれません。……でも思ってしまうんです。この世界は偽りなんだって、上っ面だけの平和なんだって。暮らす環境の違いだけでできる上下関係や与えられる情報量の違い。それくらい昔だってあったかもしれない。……でも今はそれが極端に起こっている。……僕は思うんです。今の世界で暮らす僕達は何かを知らない……知らされていない。僕は……そんな気がしてならない」

「成る程。……では、君の知る現実が君の思う通り偽りであり、今だなお戦争が続いているのだとしたら、どうだね?」

「――!?それは……」


それは……似たようなことを夢の中で聞かれた気がする。


――もし、今というものが壊されて別の…争いだらけの世界になってその全てを目の当たりにした時にどうしたい?


でも何て答えたんだろう?忘れてしまった。


「それは……なんだね?」

「それは……分からないです。そんな世界この目で見て確かめてみないと……」

「では起きていると前提で考えてもらいたい。君は戦争の渦中にいて、自分もしくは大切な誰かが…例えば家族が殺されそうになっていたら?」

「それなら逃げますよ家族と一緒に……そこにいても何もできないから」


慧は思ったことを口にする。


「逃げられないとしたら?」

「……。」


また、夢と同じ……そこだけはわかる。


――では壊されるものがとても大きな物あるいは人で、共に逃げられないとしたら?


でもやっぱり何て答えたのかは思い出せない。

だから思ったことを口にする。


「……逃げられないなら。僕は……恐らく戦います。抗います。自分の命を守るためではなく、大切な誰かを守るために……」

「そうか……成る程。自分ではなく仲間を守るために戦うか……ふふ、そうかそれが君の選んだ者のものの考え方か。君は優しいのだな」

「いえ、そんなことは……」

「では、話は次に進むことができる。私は君に話そう。この世界で何が起きているのかを……この世界の本当の姿を」

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