05-3

『時間となりました。これより、入学式を開催します』


放送と共に吹奏楽部による演奏と在学生たちの拍手が鳴り響く。

しばらくして演奏が終わり、さらに在学生たちの拍手が強く大きく体育館に鳴り響く。


『在学生挨拶。生徒会長『桐谷 優姫』さん……お願いします』


学校によって式の始めかたは変わってくる。

ここは生徒会長からなのか。と慧は表情を変えることなく心の中でそう呟く。

放送の後、代表の生徒が目の前のステージにゆっくりと上がり、マイクのスイッチを確認して一礼する。


『皆様ごきげんよう。只今ご紹介に預かりました桐谷 優姫と申します。以後お見知りおきを……』


どこかのお嬢様だろうか?

綺麗な長い髪に整った顔付きはとても美しく、気品が漂っている。

その思いを増させるマイク越しに聞くゆったりとした綺麗な声はローレライの歌のようだ。

確実に僕なんかが近づいていけば沈められるな。

いや、別に惚れそうとかそういうのはないけれどなんだかああいう人とは仲良くなれないだろうな。

色々なことで話が合わなさそうだ。

あくまで個人的にだが……。

そんなことを思っている間にも彼女は話を続ける。


『新入生の皆様、今学園にようこそいらっしゃいました。私(わたくし)を含む在学生はあなた方のご入学を心から御悔やみ申し上げます』

「ん?」


今、言い間違えたのかな?それとも聞き違えたかな?


『しかしここへの入学はあなた方が自分自身で志願したこと。どのようなことがあっても決してあきらめずに学園のためにそして将来のために精進なさってください。さて、まだまだ話したいこともありますが、あまり長いとせっかくの素晴らしい話の中で舟を漕ぎ出してしまう本当に困った方々も出てくると思いますので私からはここまでとさせていただきます。それでは良い学園生活を』


彼女は話を終えてから再び一礼して他の生徒たちの拍手の中、自分の席に戻っていく。

何か少し毒吐いた気がしたのは気のせいか?

なんか放送ががりの人苦笑いしている気がするんだが……気のせいだよね?。


『ぁ、ありがとうございました。……では、次に新入生挨拶。代表の尾形 宏樹さんお願いします』


へぇ~あの人が代表なのか。

まぁ中間得点の時に一位だったし、当然と言えば当然か。

多分そのまま1位だったんだろうな。

慧は内心で何度もうなずきながら彼が壇上へ上がっていくのをじっと眺める。


『えー私たち新入生は明日から始まる新たな学園生活をとても楽しみに思っています。先輩たち・先生方の手厚い指導の元、我々はさらに力をつけてこの学園を支えていきたいと思います。……新入生代表 尾形 宏樹』


彼は一礼し、手に持っていた紙をたたみブレザーのポケットにしまってから自分の席に戻ってくる。


「ん?」


あれ?意外と僕と席、近いんだな。

でもまぁ大体成績とかでクラス分けはされてるだろうし、偶然ことだとは思う。

……何か最近1人で勝手なこと考えている気がするな。

慧は視線を壇上に戻し、姿勢を正す。


『最後に……学園長祝辞』


放送の後、先生達の座る席から一人の人が立ち上がりゆっくりとステージに上がっていく。

年は30歳ぐらいだろうか?

髪は金髪のオールバック。目はつり上がり、若々しい顔立ちにはどこか威厳のある雰囲気をかもし出している。


「新入生の諸君!」


黒いスーツ姿の学園長はスイッチを入れて間髪いれずに体育館全体に声を響かせる。


「無事入学したことを心から祝おう。私がこの学園の学園長『ゼロ』だ。この年度、転校生を合わせて実に200人以上もの生徒達が我が校に様々な事を学びに来てくれた。私はうれしく思う」


そういった学園長の顔は少し悲しげだった気がした。


「……みなも知っての通り、この学園は中・高・大一貫の所謂マンモス校である。故にとても一言では言い切れないほどのたくさんの施設が整っている。それをこれからの学園生活で正しく活用してもらいたい。そして先輩たちとの絆を深めるクラブ活動に委員会活動など。その他にも様々な出来事が君たちを待っていることだろう。君たちの望むような楽しい学園生活を青春を謳歌してほしい!短いが、私の言いたいことはこれで以上だ!」


彼がステージを降りていった後、ハッとしたように皆が力強く手を叩く。

学園長の迫力ある声に体育館全体が揺れた錯覚を見せた。

さすがに大げさすぎるかな?

しばらくの間、拍手が続きその中で慧も高校生活へ向けて心を新たにする。

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