05-2
バスを待つ間に生徒手帳に入った《学園指南書》を読んでいると「おーっす!!」と朝っぱらにも関わらず相変わらずのボサボサ頭のジャージ姿でしかも大声で叫びながら近づいてくる。
確かに学園で制服は規定されてないからどんな格好をしてもかまわないけど、いろいろ突っ込みたいところはあるがまず一つ言いたい。
マジで勘弁してほしい。
なんて思いつつ慧は短く低く片手を上げる。
恐らく顔にも出ているだろう慧の気持ちなんてお構いなしに近づいてくると慧の見ている生徒手帳を覗きこんでくる。
「何を見てんだ?」
「生徒手帳だよ」
「生徒手帳?ケータイじゃねーのか?それ」
「は?……お前のところにも届いているんじゃないのか?ほら、合格発表と一緒に箱に入って届いただろ?」
「いーや、もらってねーぞ」
どういうことだろう。
「え?ほら、黒いケースに入ったやつだよ?」
「んー?あぁこいつか。こいつが生徒手帳なのか?確かにそいつにそっくりだな」
「うん、一緒に入ってたプリントに書いてあったろ?」
「おう、読んでないから知らん」
「んな堂々ということじゃねぇだろうが!」
「んなこと言っても、文字を読むのは苦手なんだよ」
「ん、そういやそうだったな。ま、合格してるってのが分かっただけでも良かったよ」
そう言ってこいつは雨宿りには使えるベンチも無い屋根の付いた小さなバス待合室の壁にもたれ掛かるとポケットからポータブルを取りだし、ゲームを始める。
「全く……呑気な奴だな」
そんなんじゃ恐らくというかほぼ確実に手帳の内容もまともに読んでないんだろうな。
パッと見、荷物もそんなに持って来てないみたいだしな。
自分で勝手なことで頷いているとバスが到着する。
「ほら、来たぞ植崎ゲームを一旦止めろ」
「あ、おう」
二人は先に並んでいた人達に次いでバスに乗り込み、ヘイムダル学園へ向かう。
バス内にて暇だった慧は横でピコピコとゲームに熱中している植崎のゲーム画面を覗き込む。
内容はどうやら『モンスター・ハンティング』通称モンハンだ。
個人的には敵が強くなるだけでストーリーもなく、単なる作業ゲームと言うイメージであまり楽しめるイメージはない。
単にアクションゲームを楽しみたい、友達と協力プレイしたいという人には好評みたいだが、友達のいない、少ない人達にはあまり楽しめない。
というかなんでこいつが一人で延々と楽しめるのかわからない。
「たのしいか?それ」
「あったりまえよ」
「どの辺が?」
「んーとな、強えぇモンスターを倒して武器がかっこよくなっていくのがいいんだよ」
「ふーん、そんなもんか」
「おう……」
「……。」
だめだな、やっぱり意見が合わないものだと話も弾まない。
「お、着いたみたいだな。おいいつまでもやってないで早く降りるぞ、もう一周する気か?」
「おう、わかってるよ行くか」
バスは目的地付近のバス停に止まり、慧を含む旅行バックに等を持つ学生らしい人たちはみなバスを降りる。
「やっと着いたな、やっぱでけぇな東京ドームぐれぇあるんじゃないか?」
「でもまぁもう、二回も来たから見慣れたたけどな。というかお前、東京ドーム見た事あるのか?」
「ないぞ」
「ならなんで東京ドーム並とかわかるんだよ」
「さぁななんとなくだ」
「全く……まぁ、そんなこったろうと思ったが」
慧たちはぶつぶつ話をしばらくしていると一次試験、二次試験で訪れたすでに見慣れたドームが見えてくる。
しかし、ここが学園だったとは驚いた。
中に入った時はすでに教室の中だったからわからなかったけれどあの見上げないといけないほどの大きなドームの中に学園が隠れているのか違うのか……。
そんなことを考えながら道なりに進み、二人はヘイムダル学園のドームに到着する。
いつもなら入る場所の見当たらない白い半球ドームだが今回は1ヶ所だけ小さく光る場所があり、みんなそこから中へ順番に入っていくのが見えた。
「さぁ、僕らも行くぞ」
「おう」
慧たちもその流れに乗り、ドームの中へと入って行く。
「うっ、ここは……?」
光の中を抜けて目の前に広がったのは赤いじゅうたんの敷き詰められたホテルのロビーのようなところだった。
2階までの吹き抜けになっており、高い天井には巨大なシャンデリアが飾られている。
窓際にはふわふわとして高そうなソファーと机が並べられており、側の棚にはトランプなどのカードゲームやボードゲームの他、漫画や雑誌などがずらりと並べられていた。
『新入生の皆さんおはようございます。ここは皆さまがこれからクラス学園寮です。受付にてあなた方の階及び部屋番号を聞き、指紋登録を行ってください。入学式開始まで部屋でくつろいでいて構いません。男子生徒は受付から右のエレベーター、女子生徒は左のエレベーターから各部屋へ向かうことができます。入学式開始は10時からの予定となっております。遅くとも10分前までには体育館に集合してください。体育館の場所については生徒手帳内の学園地図を確認してください。入学式で座る席は開始の約30分前に全校生徒にメールしますのでそれを確認してください。――新入生の皆さんおはようございます……』
「ほら、植崎さっきの放送を聞いたよな。僕は先に行くぞ、そこのトイレ行って酔いをさましたら部屋に行けよ」
「お、おう。また後でな」
放送を聞き、慧は放送通りに部屋番号とその部屋の階をきく。
「すいません……」
「こんにちは。部屋の確認ですか?」
「あ、はい」
「では、生徒手帳の学生証を開き、この機械の上に乗せてください」
「あ、はい。わかりました」
言われた通りに生徒手帳を取り出し、黒い光沢のある少し大きな四角い機械の上に添える。
機械が読み取りの音を鳴らし、受付の女性がモニターを確認する。
「はい、あなたの名前は防人 慧様で間違いありませんか?」
「はい」
「わかりました。それでは次に左右の手を順に先ほど生徒手帳の置いた機械に乗せてください」
慧は短く返事をして言われた通りに手を置く。
手帳の時と同じく機械が音を鳴らし、受付の女性がモニターを確認する。
「無事登録完了いたしました。あなたの部屋は4階の435号室です。ドアノブの上にパネルがありますのでまずはそこに触れてください。ライトが青く点灯し、解錠されます。また、ここでの手順と同じようにして生徒手帳を使っても開けることができますのでくれぐれも手帳を無くさないようにしてくださいね」
「わかりました。丁寧にありがとうございました」
「いえ、それでは良き学園生活をお過ごしください」
受付から右へ進み、3つのうち一番手前のエレベーターに乗り込む。
◇
最上階
・浄水槽 ・貯水槽
四階
・男子寮フロア ・女子寮フロア
三階
・男子寮フロア ・女子寮フロア
二階
・男子寮フロア ・女子寮フロア
一階
共有フロア
・ロビー ・パブリックスペース
・資料室 ・食堂
地階
共有フロア
・大浴場 ・トレーニングルーム
・遊戯場 ・室内プール
◇
エレベーターに貼り付けられていた階層表を見ているうちに三階へと到着し、壁の灯りで明るく照らされた赤いじゅうたんの廊下を進み、一番奥の自分の部屋へ、扉のパネルに手を触れる。
ロックの外れる音が鳴り、青い小さなランプが一瞬だけ点灯する。
ノブをひねり、扉を開けるとまずは部屋の確認を行う。
小さな玄関の角には下駄箱があり、短い廊下の右手側にある近くの二つの扉にはトイレと浴室が横並びに配置されている。
しっかりとトイレと浴槽は壁によって別れており、洗面所兼脱衣所には洗濯機が置かれている。
反対側の左側にはキッチンと冷蔵庫が置かれ、その間にはダスクボックスを並べて置くぐらいのスペースが存在する。
一番奥の部屋のためキッチンの壁には小さな窓が存在し、外の景色がうかがえる。
廊下を進み、奥の扉を開けるとリビングが視界に広がる。
向かいの窓には洗濯を干す程度なら出来そうなバルコニーと呼べるかあやしい狭い空間が存在するため部屋自体はとても明るかった。
リビングルームの中央には小さめの四角いテーブルに椅子が置かれ、壁際にはテレビも設置されていた。
テレビの向かい、入って右手の部屋には8畳ほどの寝室。慧はベッドの横に荷物を置いてから早速カーテンを開け、リビングの窓を開けてバルコニーから外の様子を確認する。
「おぉ……」
日当たり良好、風通しも良く春の暖かい風がとても心地良い。
目の前に学校が見えるので景色はあまりよくないが、良い場所を選んだと慧は自負する。
この部屋は事前にしておくことの1つとして慧が生徒手帳を使って数ある寮室から選んだものだ。
しかしすでに慧が見た時にはほぼ半数がすでに埋まっていた。
この場所を慧が選べたのはリビングの窓から学園が見えるのとリビング及びベットの置かれた寝室が畳の和室だからだろうか。
それとも手早く選択したからか。
どちらにしろ隣の寝室を和室とせずにキッチンの半分を畳にしている。
少し妙な光景であるけれど全てが畳じゃないし、それに畳が嫌いなわけでもないから慧はここを選んだ。
所謂和室の存在する部屋。
確かに見た目は妙かも知れないが、慣れてしまえば問題はないだろう。
エレベーターから一番遠いという難点がある変わりに部屋は他のところと違って広く、非常時のみ通行可能な非常階段が近くにある。
「さてと……」
窓を閉め、寝室に置かれたクローゼットへ持ってきた荷物をしまおうと思った時、生徒手帳に学園からのメールが届く。
『入学式開始10分前になりました。もしまだ体育館に集合できていない生徒がいましたら急ぎ集合してください。
※体育館の場所がわからない生徒は生徒手帳の学内マップを参考にしてください』
もうしばらくの間のんびりしていたかったが、そういう訳にもいかないようだ。
慧は場所の確認後、部屋を出て生徒たちの流れに乗って体育館へ向かう。
メールに記載されていた席を示す画像を見ながら並べられた椅子から自分の席を見つけ出し、そこに座って時間になるまで静かに待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます