05-1《前途多難な入学式》

桜舞い散る4月。


慧は必要最低限の荷物を大きめの旅行バックに詰めて、中学校の卒業式の日に届いた携帯型の生徒手帳を同じく手帳内のアプリケーション《学園専用カタログ 》で注文した学園のブレザーのポケットに入れて準備は完了。

慧は朝食をとるために荷物を持ってリビングへと向かう。

リビングにはすでに智得も湊も集まっており、慧も急いで荷物を椅子の横に置いてから席につく。

家族みんなでの朝食。


「しかし早いものだな、少し前までお前たちは中学生活をしていたというのに……」

「センチメンタルですか?姉さん」

「ふっそんなわけないだろう別にこれで一生会えなくなるというわけではないんだからな」

「それくらいわかるでしょほんとバカなの?兄さん」

「バカって言うな、お前は本当変わらないな。精神年齢の成長は止まったんじゃないか?」

「逆に兄さんは言うようになったじゃない」

「そりゃこれだけ長く一緒に暮らしてりゃあな……最近は特に酷かったし」

「それは仕方がないって言ったでしょ。友達が忙しくて暇がないみたいだから暇潰しが欲しかったのよ」

「ほんといつもならここで突っ込み入れて口論になったりしてたのにな……それに今日でその小うるさい声も聞こえなくなるって思っているし」

「へぇ~、なら今からする?」

「慎んで遠慮させていただきます……その上げた拳を早く下ろして」

「ははっ……お前たちの話は聞いてて飽きないな……」


他愛ない会話を交わしつつ食事を終え、食器をきれいに片付ける。


「忘れ物はないな」

「もう、子供じゃないんだから大丈夫だよ」


なんて言ってるけどこんなやり取りはめったにしないから今、多分嬉しそうな顔をしてるんだろうな。


「それじゃあ、姉さん行ってきます」

「……頑張れよ」

「うん」


慧は頷きながら玄関の扉を開けて家を出る。



慧が家を出てからしばらくして湊が自室から大きな荷物を持ってリビングに戻ってくる。


「もう、兄さんは行っちゃった?」

「あぁ……」

「バスの時間はまだ大丈夫だよね」

「そんなことしなくてもお前は式には出ないつもりなのだから私が車で行く時に一緒に乗っていけば問題ないだろう?」

「それはそう……なんだけどね」

「わかってるよ早く会いたいのだろう?彼に」

「うん」

「気持ちは分かるが彼だって形だけでも式には出なければならないだろうから……9時ぐらいに出れば余裕だろう。それまでもうしばらくはのんびりしていろ」

「それもそうだね。うん、わかった。時間まで待ってるよ」


そういって頷いて湊たちは時間まで紅茶を楽しんだ。

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