04-6
6時15分
「兄さん!起きてる!?今日は卒業式なん……だけ……ど……」
姉さんが仕事に出るのとちょうど入れ違いのかたちで湊が慌てて、でもまだどこか眠そうな顔をして手にハサミを握りしめ、学校の制服(セーラー服)姿でリビングに入ってくる。
しかしすぐにちょうど机の上に並べ終えた朝ごはんと学ランを着て、片耳にイヤホンを付けた慧を見て急に興が冷めたような顔をしてハサミを胸のポケットにしまう。
あれは彼女の単なる優しさのためかそれとも朝食を作らせるためだけか。
「……何で出てるの?というか何で起きてるの?いつもならまだ寝てるくせに」
「何と言うか……うーんなんだろうな強いて言うなら自然現象にたたき起こされたんだよ」
「はぁ?何言ってんの兄さん頭どうかしちゃったの?あ、間違えたおかしいのが悪化しちゃったの?」
「ひっどい言い方だな……」
「でも事実でしょ」
「うーんどうだろう?……まぁまぁんなことは置いといてさ、ちゃちゃっと朝ごはんを冷めないうちに食べちゃってよ冷めたら不味いよ」
「ん~兄さんどうしたの?いつも酷いけど今日は特に酷いね」
「いや~別に寝不足でフラフラするけどアニソン聞いてドーピング中なだけだよ」
初めの方しか聞こえなかった慧は出来た目玉焼きを皿に乗せながら言う。
「そう、大丈夫ならいいんだけど……」
「何?心配でもしてくれてるの?」
「そんなわけない」
「あはぁそっかぁ……はぁ、だよねぇ、んじゃあ早く食べよか」
「そだね」
そして二人は席につき、机の上に並べ終えた朝ごはんを食べ始める。
今日は卒業式。
明日からは冬休みの始まりである。
◇
冬休み、三学期の中学生活、特にこれといった出来事が僕には起こることもなく過ぎていった。
そして迎えた3月。
慧を含む生徒は現在、卒業式にて校長先生の無駄に長い話しを聞いていた。
「ふぁあ~~眠い」
右手で口元を隠しながらあくびをしながら視線をチラリと左に向ける。
湊は……友達とこっそり話しているな。
あーもうなんで毎度校長先生の話は長いんだ。
眠ってるの見つかると起こられるし……早く終わんないかな。
「ふぁ~」
「おい、慧」
「なんだよ?植崎」
慧はあくびを噛み殺してから目に溜まる涙を擦り広げながら目の前に座る植崎に言う。
「暇だ」
「だから?」
「何か話さないか」
「嫌だ」
「何で?」
「まず、今話すようなこれと言った話題がない、それに今眠い。睡魔と戦ってるから邪魔するな」
「寝ればいいじゃん」
「できたらそうしたいよ。けどさ……」
「あーあの先公たちの小言みたいな校則か」
お、よくわかったな。ま、当然のことか。
「そう、しかもそれを破ると生活指導室へ行かされ反省文を書かされるし」
「ほんっと面倒くさいよな。何でもかんでも禁止したところで別に無くなることなんてないのにな」
「ああ、だから卒業式……この学校最後の登校日に呼び出しはまっぴらごめんなんで少し静かにしてくれな……」
『校長先生の話を終わります。以上を持ちまして卒業式を終了します。卒業生退場!』
ふむ、どうやら話しているうちに終わったようだ。
しかし、ばれなくて良かったよ。
吹奏楽部の演奏が始まり、出席番号順に生徒たちが体育館から出ていく。
「終わったな。ここの学校生活も」
「ああ、本当に……」
少し悲しみを覚えたつもりで慧達は体育館を出て無事学校を卒業した。
しかしつもりなだけで別れを惜しむような人なんて一人もいないし、先生に対していい思いなんてのもひとつもない。
特にこれといって記憶に残った良い思い出もないので悲しみはこれっぽっちも沸き上がってこなかった。
それ以前に友達と呼べるのが植崎一人しか出来なかったからそんなイベントが起こるはずもない。
慧は卒業式も無事に終え、家に戻って制服を着替えるために自分の部屋に戻るとベッドの上に人の顔の大きさぐらいの白い小さな段ボール箱が置かれていた。
「なんだろ?」
慧は僅かに空いた窓を閉め、冷えた部屋を温めるためにヒーターの電源をいれるとあの子猫が来て悪戯したのであろう爪でボロボロになった箱を持ち上げて机の上に移す。
「あぁ『合否通知』か……」
慧は椅子に座って箱に貼られたテープを丁寧に剥がそうとする。
「あ、上半分の一部がテープにくっ付いてきた」
ちょっと剥がすのに失敗し、テープをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた後、中身を確認する。
中に入っていたのは大小2つの光沢のある黒いケースと筒に入った1枚の紙、封筒。
慧はひとまず中に入っていたものを机上に並べてから順番にまずは《合格通知在中》と書かれた封筒の中身をペン立てにある日本刀型のペーパーナイフを使い封筒を開封、中に入った一枚の紙を取り出し、確認する。
《合格通知》
あなたは我が学園の入試試験(二次試験)を終え、合格したことをここに記します。
合格発表って確か直接学校に出向くんじゃなかったか?
まぁいいか別に合格したことに変わりはないんだし、ゲームを試験内容にするようなところだ、ここがそういうところだと思えば別に問題はない。というかどうでもいい。
高校と大学が一貫で成績に応じてお金がもらえ、寮制でかつ家から近く、交通の便も悪くはない。
そんな高待遇のところに合格したんだ。こんなにうれしいことはない。
「次は《新入生の心得》か」
《新入生の心得》
防人 慧様。
合格おめでとうございます。
これより我が校の生徒となる皆さんに事前に行っていただくことがございますのでこの先をよくお読み下さい。
まず箱の中にともに入っている黒いケースをご確認ください。
「ケースはこれの事だな……えーっと開け口は……あぁこれか」
慧はケースを持ち上げて外観を確認、それに付いた銀色の丸いボタンを軽く押す。
ケースの中は真空になっているらしく空気が通る音をたてながらケースの蓋がゆっくりと開かれる。
中には見たことのない型の黒い色のスマートフォンとタブレットが入っていた。
『大小二つの黒いケースにはタブレット端末とスマートフォン端末が一つずつ入っていると思います。もし何かしらの不具合がございましたら学園までご連絡ください。』
慧は視線のみを動かし、読み進めていく。
《生徒手帳》
これは小さい方のケースに入ったスマートフォン端末を指します。
これは我々があなたの居場所を知り、今学園にいるのか否かの確認に使用するだけでなく学園の提供する奨学金の振込先でもあります。
無論本来のスマートフォンとしての機能も備えておりますが、学園専用の端末でありますので無くさないように十分注意してください。
《電子教科書》
これは大きい方のケースに入ったタブレット端末を指します。
名前の通りその端末には各教科の教科書が保存されています。
こちらも生徒手帳と同様に本来のタブレットとして扱うことができます。
さて、生徒となる皆さんにはまず各端末に指紋登録、パスワード、電話番号、メールアドレスの設定などのセキュリティー設定をお願いします。
そしてスマートフォン端末である生徒手帳には我が学園の校則やこれからの学園行事も記載されています。
4月に行われる入学式までに読み、入学式早々に校則違反を犯さぬよう注意してください。
最後に我が学園は全寮制です。ある程度の生活用品は取り揃えてありますがもし、必要なものがあれば入学当日持ってくるようにしてください。
それでは我々教師一同心を込めてあなたの学園生活が充実した毎日を遅れますよう全力を尽くしていきます。
「入学式までの間時間もある……試験までに溜まったここのゲームやマンガは邪魔になってくるしさっさと消化しとかないとな」
慧は内容を読み終えると、すぐさまイヤホンを耳につけて入学式までに出来る限りの荷物の出来る限りの消化に力を注ぎ始めた。
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