03-3

「ああ、もうあいつはどこまで行ってんだよ!……えぇいお前ら邪魔するなぁ!!」


二本の小太刀を振り回して目の前に立ち塞がるガーディアンたちを上下に真っ二つに切り落としながら高い速度を保ちつつも植崎の位置をマップで確認しながら近づいていく。

しばらくして敵味方の位置を確認するマップの倍率が一番低くできるほど近づいてから通信機を植崎に繋いで声を張り上げる。


「おい!この距離ならノイズも少ないし、確実に聞こえるだろ」

『おう、ん?慧か』

「ああ、そうだよ。お前……一体何やってんだ?」

『いや、迷惑かけちまったもんだから敵を倒してよぉ恩を返せたらなぁ思ってよ。追いかけてたらよいつのまにか囲まれちまってんだわこれが……ちょっと手伝ってくれねーか?』

「なぁーにが『ちょっと手伝ってくれねーか』だよ!せっかく助けてくれた二人にもお礼を言わないで……あっ」


そういやあの二人の名前を聞くのすっかり忘れてたな……入学とかした後に何かお礼ができることあったら手伝ったたのに……。

でも顔も分からないしもう会うことはないだろうなぁ。


『お?どうした?』

「ん?あぁ……いや、とにかく!今はペアなんだからお前と僕は一緒に行動するのがセオリーだろうが!」

『パセリ?…何言ってんだ?…バカか?』

「ああ!?誰がバカだ、誰が!こっちは中学でずっとお前より成績は上だ!それにパセリじゃなくてセオリーだ!何がパセリだ“リ”しか合ってないだろうが…ちなみにセオリーって言うのには“理論”って意味が含まれてるからな」

『理論……あーはっはっはっはっは…まぁなんでもいいから早く来てくれな』


プツンッ――――


「え?おい、植崎?……チッくそ!切りやがったあんのバカやろう!」


理論の意味が分からず逃げやがった。

慧は二人の耐久力を確認し、GWの速度をさらに上げて植崎のもとへ急ぐ。

「……僕が着くまで絶対落とされんじゃねーぞ!」

機動力が早いの選んでてよかったと心の底から慧は思った。



そうだ、もっとお前たちの力を見せてみろ!


慧が全速力で植崎の元へと向かっているまさにその頃、そんな受験生の様子を見ながら楽しんでいる銀髪の男がいた。

その男は宏樹、アリスの二人にA.Tと呼ばれていた。

彼は受験生と同じ仮想空間に存在し、彼自身によって作られた薄暗い部屋の中で椅子に腰かけて眼鏡のレンズを光らせながら700以上もの小さなモニターを静かに見つめている。

そのモニターには高速下で敵を切り落としながら急ぐ慧に取り囲むようにいるガーディアンたちにミサイルやガトリングガンを乱射する植崎、あのときと同じように的確に敵を倒していく先程の二人もしっかりと映っていた。

そして中にはうまくいかず落とされた受験生たちも映っている。

彼らが映るモニターは撃墜されると同時に赤い血文字で“Dead End”と表示された後、ペアである人のモニターとともに消える。


「ん?」

どうやら慧は祐悟のところに到着したようだ。

彼は短く笑い、二人の映るモニターの音声を入れる。


『植崎ぃ!!直で聞こえてるよな。勝手な行動すんなよ!』

『……それはいいから早くこっちまで来て手伝ってくれよ』

『このっ!……これで落ちたら覚えとけよ!』

「ふふっ他の者の少なくとも半分は操作することもおぼつかないと言うのに……この二人は話ながら戦っているとはな。操作はかなり簡単に行えるように設定してある。しかし身体の動かし方は各々に委ねられる。つまりこいつは……防人 慧は少なくとも戦い方が身体に残っているということか……」


男は音声を切り、制限時間が残り5分を切っていることを確認する。

「そろそろだな……皆精々頑張ってくれよ」

男はキーボードを取り出すとあるデータを打ち込み、力強くenterキーを叩いた。



「――!?」


ガーディアンたちの眼レンズが一瞬だけ黄色く光り、行動パターンが変化する。


「うぉ!?なんだこいつらミサイルを魚みたいに切りやがった。バッカじゃ……んん!?…なんでミサイル爆発しねぇんだ?」


綺麗に信管が切り落とされたのか?まさか空き缶よりも細いミサイルだそ。

あ、いや、別にゲームだからあり得るのか……にしても本当にシビアな設定のゲームだ事で。


「だぁー!洒落臭せぇ!こいつならどうだぁ!」

「え?あ、おいこら!ちょっと待て!」


植崎は腕に取り付けられているガトリングガンを両手構え、引き金を引く。

豪快な音を立て薬莢をばらまきながら前方に鉛のシャワーが放出される。


「うわぁああ!……バカバカ!当たったらどうすんだよ!」


広範囲に拡散した鉛弾の射程範囲に慧がいるというのに植崎は一向に気にすることなく鉛玉を撃ち続ける。

慧はガーディアンを盾にしつつ何とか鉛弾を避けていき植崎の射程外へと逃れ、大声で叫ぶ。


「おいこら!こっちに僕もいるんだぞ。別のところにも敵はいるんだからそっちを攻撃しろよ!!」

「うわぁら!!どうだぁ!!こいつならよけられねぇだろぉ!!!」

「ダメだこいつ、早く何とかしないと……いや他のゲージでも散々フレンドリーファイアーされてるからもう突っ込むのも面倒か。ん?」


薬莢を撒き散らしながら目の前のガーディアンたちを攻撃する隙を与える間もなく蜂の巣にしていき、敵機の撃墜数がどんどんと上昇していく……が。


「後ろがガラ空きだ!バカ!!」


慧はアンカーを植崎の後ろから迫るガーディアンのうち一番近くの一機に射出し、奴の胴体を貫く。

ワイヤーを巻き取りながら一気に接近し、奴と奴の近くにいるガーディアンたちを小太刀で切り落とす。


「わりぃ、助かった」

「礼を言うのはまだ早い。――!!まだ来る」

「くそっキリがねぇ」

「一か八か……周りの奴らを一掃して、退路を確保するぞ!」

「おう!」


植崎はガトリングガンから鉛弾を放ち、ガーディアン一機を孤立させる。

慧は植崎の真上にいき、小太刀をしまうとその右端の遠く離れたガーディアンにアンカーを差し込む。


「はぁぁぁ!!」


ワイヤーを両手で掴んでハンマー投げのように時計回りで回転、勢いのついたそれのワイヤーが地上付近にいるガーディアンたちをまとめて吹き飛ばす。


「植崎!!」

「おうよ」


植崎はさっきのでバランスの崩れたガーディアンたちにミサイルの照準を向け、発射する。

多数の爆発が起こり、直撃を受けたガーディアンたちはバラバラと海の底へと沈んでいく。


「し!どうだぁ!」


植崎の叫び声を聞いたのかさらにこちらにガーディアンたちが接近してくる。


「……喜んでる場合か!急いでこの包囲網を突破するぞ!」

「おう!りょーかいだ」


二人は一点に的を絞り、ガーディアンの白い壁に穴を開けるとそこから慧の機体によって加速されたホバー機が脱出する。



「ふふっ、ははっ!!まさかガーディアンを重りとしてハンマー投げとはな。予想外だったよ……」


二人の意外な行動にA.Tはワインレッドの瞳を細めて短く笑い、残り時間に目をやる。


「おっと2分を既に切っているな……」


彼はキーボードに手を乗せながらモニターの数を確認する。


「残りはざっと200人ほど、100組というところか……ということはこれで生き残った者はこの試験の合格者だ」


男は短く笑い、キーボードを打ち込み始める。


「さぁもっと楽しませてくれ」




「――ぅ!?」


パワーが上がった!?

慧は急いで植崎からのミサイルに目線をやってから鍔迫り合いを解く。


「しゃ!命中!」


慧は目の前のガーディアンが落ちるのを確認したあとに撃墜数増えたことを確認する。

同時に残り時間か既に2分を切っていることを確認する。

そろそろこっからポイント稼ぎ、ラストスパートだ!……みたいな感じなんだろうか?

慧が周辺警戒をしつつそう思うと同時に植崎が叫ぶ。


「よっしゃあ!!ラストスパァートォだぁ!!」

「ふっ……それじゃあやってみますか!」


慧は短く微笑み、群がるガーディアンの一つにアンカーを差し込んで接近するとそいつの武器のみを接続部から全て破壊する。

次にワイヤーを緩めてガーディアンたちの周りを武器を素早く破壊、同時にスカート装甲に入っているダガーを差し込みながらぐるぐると飛び回る。


『残り1分です』


耳に届く機械音声のアナウンスが聞こえ、慧は近くの島を見つける。


「さて、そろそろ……」


敵機を中に入れるように高速で球を描くように数回回った後、慧は島に着地する。

両足で地面をしっかりと踏みしめ、一気にワイヤーを巻き上げる。


「うぉおおお!!」


ギシギシと金属音をたてながらガーディアンたちがひとつのどっかのゲームにありそうな歪な塊みたいに丸く固まっていく。


「植崎!!ミサイル、ガトリングガン好きなだけ撃ち込んでやれ!」

「おうよ!」

『残り時間30秒です』


ミサイル弾、鉛玉が空にあるデカイ塊に何十何百と飛んでいき誘爆による巨大な爆発が起こる。


「へ、きたねぇ花火だ」

「お、それはわかるのか?植崎」

「まぁな」

『残り時間10秒です』

「お、まだ時間残ってんじゃねーか」

「ほとんど終わりだけどな」


二人はその花火の近くを飛び回る残党を片付る。


『残り時間5…4…3…2…1…0』


試験終了の大きな音楽がこの世界に鳴り渡り空にでかでかと“Mission Complete”と浮かび上がる。


「お疲れさん」

「ああ、お疲れ」


二人は武器をしまい、軽く拳をぶつけ合う。

少ししてから“Sound Only”と書かれたモニターが視界に浮かび上がり、透き通った声が聞こえてくる。


『現在残っております188名……全94組の受験生の皆さん、試験合格おめでとうございます。それでは少々遅くなりましたが、昼食を挟んで最終試験へと移らせていただきます。15時になりましたら準備が完了するとのことですのでそれまでには皆さん教室に集まっていてください。また今回は校長先生のご厚意により学食のメニューが全て無料ですのでぜひご利用ください。学食の場所につきましては机のメニュー欄から地図を確認することが出来ます。……それでは皆さんを一度戻します。ではコールをお願いします。3…2…1…ダイブ・アウト!!』

「「「ダイブ・アウト!!」」」


受験生たちは光の道を通って電脳の世界を出て、元の世界へと戻った。

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